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SaaSプライシング戦略|SaaS事業に適した価格戦略

2021/01/21 (更新日:2022/01/11)

SaaS業界でプライシングが注目されているわけ

近年、SaaS業界におけるプライシングに対する注目度は、他の業界と比べ異常なほど高いです。理由は簡単で、海外VCを中心にプライシングの重要性、その効果、成功事例が共有されているからであると考えます。

例えばこんな情報。

「継続的に見直す企業のユニットエコノミクスは 11.1x に対して、見直さない企業は 1.7xと、大きな差が生まれている。」

「価格設定によるマネタイズを1%向上させると利益率は12%も改善する。これはリテンションの約2倍、顧客獲得の約4倍の利益率改善効果がある。」

この2つの情報だけをかいつまんでも、SaaS業界でプライシングが注目される理由がわかりますよね。

なぜバリューベースプライシングなのか

プライシングは多くの場合、自社視点・競合視点・顧客視点の3つの観点で考えます。

自社視点で考える方法を、「Cost-plus方式」といったりします。いわゆる、原価などのコストに対して、適切なマージンを乗せて販売するアプローチです。

競合視点で考える方法を、「Competitor-based方式」といったりします。これは、ベンチマークする競合企業群の価格水準から適切な価格を検討するアプローチと、自社の価格変更をすることで他社の価格変更を意図的に誘発し独自のポジショニングを築くアプローチがあります。

顧客視点で考える方法を、「Value-based方式」といったりします。俗にいうバリューベースプライシングです。これは、顧客が自社製品に感じている価値に基づいて価格を決める方法です。SaaSを中心に、サブスクリプション型のビジネスモデルとの親和性が高く近年注目されています。

バリューベースプライシングが親和性が高い理由としては、「収益の最大化」「TAMの拡大」が大きいでしょう。

収益の最大化
バリューベースプライシングでは、顧客の支払意欲に基づいた価格設定を行っているため、顧客の支払い意欲の上昇に合わせた値上げが可能になります。中長期的に見ると、Cost-plus方式、Competitor-based方式と比べて多くの収益を生むことができます。

TAMの拡大
TAM(Total Addressable Market)は、「マーケット全体の顧客数」 × 「取れる金額」で計算しますが、「取れる金額」のポテンシャルを引き上げることができます。例えば、バリューベースに基づいた従量課金を採用できると「取れる金額」のアッパーがなくなるため、TAMが拡大します。

実際、SlackやUnityといった企業では、Top 1%の顧客が40%以上を占めるケースも存在しています。

そのため、SaaSビジネスにおいて、この3つから選ぶとしたらバリューベースプライシング一択なのですが、そもそもこの中から選ぶという行為が正しい訳ではありません。プライシングは、自社視点、競合視点、顧客視点の三方よしで考える必要があります。

したがって、バリューベースプライシングのアプローチを採用し、適正価格レンジを特定→ 自社視点で適切な利益率を確保→ 競合視点で最終調整が理想の流れになります。

STEP0.体制を構築する

ここからプライシングを具体的に検討する流れについて解説していきますが、その前に必要なのが体制を構築することです。プライシングが事業に与える影響範囲はかなり広く(B2Bは尚更)、俯瞰的な視点、全社的なプロジェクトマネジメントが要求されます。そのため、1担当者に価格決定を任せるのは愚行です。100%失敗します。

ポイントは、価格決定の意思決定者を明確にし、チームを組成する事です。チームは3つのポジションで構成します。価格決定の意思決定者である「オーナー」、価格変更の実務を推進する「リーダー」、実際に実務を行う「プレイヤー」です。

オーナー
「値決めは経営」といわれるように、経営者や取締役レイヤーが担当するのが良いでしょう。このポジションでは「価格変更の目的設定」と「最終意思決定」を行なおます。価格変更の目的にどんなものがあるかは、後半の「価格を見直すタイミング」で解説しています。

リーダー
価格変更は関係者が多岐にわたるため(営業・マーケ・CS・販売代理店など)、連携しながら価格改定を実行する調整役が必須となります。オーナーは多くの場合、経営者や取締役ですので、時間的な制約からこのポジションになることは現実的ではありませんので、経営企画や事業責任者がこの役割を担います。

プレイヤー
価格決定に必要な顧客インタビュー、データ収集、データ分析などタスクが発生します。そういった実務を推進するポジションが必要になります。このポジションのアサインは、日常業務の延長線上で対応できる人材がオススメです。例えば、顧客インタビューにはCSチーム、データ分析には分析チームやマーケティングチーム、といった具合です。

STEP1.価格体系を考える(定額課金・従量課金・機能別料金)

ここから具体的にプライシングを検討していきます。SaaSプライシングは「価格体系」「金額」の2つを考えることで完成します。ここではまず価格体系にはどんなものがあるのか、どうやって設計するべきか解説します。

まず価格体系は次の4種類からなります。この4種類の価格体系を組み合わせるのとで、完成します。

・定額課金
・アカウント別従量課金
・利用従量課金
・機能別従量課金

定額課金
定額課金は一言で言うとシンプルです。シンプルがゆえに、売上向上には工夫をこらす必要がありますが、事業ニーズの検証がしやすく初期のサービスで有効な価格体系です。

特徴は、「期間毎の定額料金を設定する」「顧客が価格を理解しやすい」「幅広いニーズに応える工夫が必要」です。

アカウント別従量課金
アカウント別従量課金は、複数ユーザー前提かつ、アカウント別で保存される内容が異なるサービスに有効です。

特徴は、「アカウント数毎の料金を設定する」「利用ユーザーに比例して単価アップ」「複数ユーザー前提サービスに向いている」です。

利用従量課金
利用料従量課金は、良くも悪くも顧客に左右される特徴を持ち(利用されればされるほど単価が高く、利用を抑制されると単価が低くなるため)、粘着度が高いサービスで特に有効です。

特徴は、「利用量毎の料金を設定する」「利用に応じて自動で単価が増える
」「顧客が利用を控えるリスクあり」です。

機能別料金
機能別料金は、幅広い顧客に対応できる特徴を持ち、顧客ニーズが明確なサービスで特に有効です。

特徴は、「利用ニーズに合わせてプランを設計」「顧客分類に応じたプランが可能」「プラン変更でアップセルが望める」です。

この4種類の価格体系をベースに、自社のサービスの特性と照らし合わせて検討していきます。その際、「①顧客と価値(誰に何を届けるか)」「②個別の価格体系(何にいくら請求するか)」の観点から考えます。

「①顧客と価値(誰に何を届けるか)」では、顧客属性の整理(セグメンテーション)提供価値の整理双方で、検討が必要です。

顧客属性は、業界/業種・企業規模・部署・利用目的(課題)・提供価値性質などが参考になり、実際の顧客DBを分類できるような、顧客分類を作成することが重要になります。

こうやって整理した顧客分類からサービス価値を整理します。この際、既存顧客と長期的に獲得したい顧客でそれぞれ分類できると完璧です。

続いて、提供価値の整理をしていきます。顧客へのインタビューなどを通じて、顧客属性の整理(セグメンテーション)で行なった内容から、製品に対する顧客の認識を明確に把握し、使用事例を詳しく調査します。

また、画像のようにその提供価値が多くの顧客が感じている価値なのか、一部の顧客が感じている価値なのかまで整理します。

このプロセスを経ることで、提供しているサービスに対し、価値を受け取る顧客、その顧客が感じている価値(重視している機能も)が整理できます。

ここまで整理できたら、先ほどの4種類の価格体系から、その価値に最も即した価格体系を当てはめます。これが「②個別の価格体系(何にいくら請求するか)」の何に請求するか、の部分に該当します。

最後に、一つにドッキングしたら価格体系の完成です。

STEP2.適正価格を算定する(PSM分析・EVC Analysis・Split Testing Pricing)

続いて、適正価格(金額)を算定していきます。これが「②個別の価格体系(何にいくら請求するか)」のいくら請求するか、である具体的な金額を算定する方法です。考えうるアプローチは3種類です。「PSM分析」・「EVC Analysis」・「Split Testing Pricing」です。ここでは中立な観点から、それぞれの概要、強い点、弱い点等を解説していきますので、自社の状況を考慮し、最も適したアプローチを実施するといいでしょう。ポジショントークをすると、SaaSにおいては、PSM分析の活用が最も汎用的であり、精度が高くおすすめです(笑)

・PSM分析

PSM分析(価格感応度分析)とは、バリューベースの価格設定を実現するために、顧客の支払意欲を調査するために使われる手法です。1976年にオランダの経済学者VanWestendorpによって開発されたことから、PSM分析は「Van Westendorpモデル」と言われることもあります。PSM分析を応用することで、商品・サービスがどの程度の価格なら最も顧客に受け入れられるかを把握でき、売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算できます

支払意欲の調査で最も一般的な方法は、潜在的な購入者に製品に支払う金額を聞くことですが(これは直接質問法と呼ばれ、簡単に実行することができます)、いくつかの欠点があり支払意欲調査として不足です。購買可能な金額は点ではなくレンジであり、単一な価格を聞くことでは勘案しきれません。また、直接質問では、潜在的な購入者が実際の支払意欲よりも低い価格で回答が集まると言われています。これは、基本的に購入者が企業に対して、価格を下げるように交渉したい心理が働くためです。

PSM分析では、直接質問と異なり、間接的な質問を複数おこなうため、間接的に支払意欲を測定し、バイアスの少ないレンジを持った支払意欲を測定することができます

一般的なPSM分析の手順は、次の2段階のステップでおこなわれます。

PSM分析では、アンケートを通じて、実際に顧客が製品・サービスに対して、どれほどの支払意欲を持っているのかを調べます。

1.アンケート調査
2.可視化

PSM分析で実際に使用されるアンケート項目は次の4つです。

PSM分析のアンケート項目
・その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
・その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
・その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
・その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?
*サービス特性に応じて多少の日本語調整が必要です

次に可視化です。価格調査の結果を集計し、以下のようにグラフに回答者を累積してプロットしきます。

X軸が価格を、Y軸が当てはまる顧客の割合をあらわします。一般的には、価格が上がると、「安すぎて品質が低い」「安く感じる」と思う顧客が減り、「高すぎて検討に乗らない」「高く感じる」と思う顧客が増えます。

一般的なPSM分析では、価格設定の参考となる4つの交点を見ていきますが、わかりやすい反面、正確性にかけるという欠点があります。実際には上限価格以上でも購入が検討に乗る人はいますし、同様に下限価格以下でも品質が悪いと思わない人が存在します。最適価格に関しても、本来顧客が最大化する価格は安すぎて品質が低いと思う人と高すぎて検討に乗らないと思う人が最小となる価格で、必ずしも交点と一致しません。

参考までに紹介しますが、スルーしてください。

・最適価格
最も価格拒否感がないと見られる価格
・妥協価格
高い・安いの評価が分かれる価格
・上限価格
これ以上高くなると、消費者の購入されなくなると見られる価格
・下限価格
これ以上安くなると、消費者が「品質が悪いのではないかと不安になる」と感じる価格さ
*上のグラフと照らし合わせてください

PSMで収集したデータをプロットするだけでなく、集計して価格ごとの購買人数を推計した方が正確な結果となります。購買人数の推計は、「高すぎて検討に乗らない価格」「安すぎて品質や効果に不安を感じる金額」の2つを見ていきます。

このように購買人数を推計した後は、それに単価をかけて売上を推計します。このグラフを見ながら、許容してくれる顧客数と売上の増加幅のバランスで金額の意思決定をしていきます。

またPSM分析を既存顧客に対し実施し、その顧客の利用状況などを合わせて分析することで、以下のような従量課金ベースでの推計ができることも強みです。

私たちはこの分析を行い、かなりの回数価格を変更していますが、シミュレーションの精度がかなり高いです。これが私たちがPSM分析を推奨する理由です。

・EVC Analysis

EVCとは、Economic Value to the Customerの略称で、競合商品にはない要素を持つ商品に対し、その要素の価値を勘案した上で、販売する商品の価格決めをするための指標を指します。価格付けの際には、EVCから数%割り引いた値を販売価格とします。そのため、競合商品にはない要素を持つ商品に対し、有効な値付けの手法となります。EVCを求める方法は2パターンあります。

EVCを求める方法①
方法①では、価格付けの際に参照にする競合商品(以下、参照商品)の価格に、販売しようとしている商品(以下、販売商品)の参照商品に対する追加的な価値を足すことでEVCを求めていきます。

プロセスは以下の4つです。

Step 1 付加価値の認識
参照商品にはない販売商品の要素のうち、顧客が長所あるいは短所だと認識する要素を列挙していきます。参照商品を使用する場合にはかかっていたコストを削減する要素、あるいはかかっていなかったコストがかかるようにする要素を列挙する方法もあります。

Step 2 付加価値の価格付け
Step 1で認識した要素について金銭的な価値を割り当て、その総和をTAV(total additional value)とします。

例: 現在販売しようとしている自動車の燃費は参照商品よりもよく(Step1で認識した付加価値)、その価値に割り当てる金銭的な価値は50万円だと見込んでいる。また、販売商品には参照商品にはない事故を防止する機能があり、その価値に割り当てる価値は30万円だと見込んでいる。この場合、TAVは80万円になる。

Step 3 EVCの算出
参照価格とTAVの総和をとってEVCを算出します。これが顧客が払える最大の価格になります。

例:TAVが80万円、参照商品の価格が300万円である時、EVCは380万円になる。

Step 4 販売価格の決定
TAVのある割合を割り引いて販売価格を決定します。この割引は、既存商品から販売商品に乗り換える際に顧客が認識するリスクを勘案したものになります。

例:今TAV80万円のうち30%を割引くとする。この場合、EVC(=380万円)からTAVの30%(80万円×30%=24万円)を差し引いた金額(=356万円)を販売価格とする。

整理すると以下の通りです。

参考までに、計算式もご紹介します。方法①の繰り返しになりますので、お急ぎの方は、方法②へお進みください。

EVCを求める方法②
方法①の場合、EVCは参照価格に合計追加価値を足したものと定義されますが、参照商品を利用する上でかかるトータルコストから販売商品を利用する上でかかる価格以外のコストを引き、参照商品に対する販売商品の利点を足して求める方法もあります。ただし、この方法で求められるEVCは、方法①のものと同じです。以下ではこの方法を説明します。

ここまでで、EVCによって製品の価格を決定する方法を説明しましたが、実はEVCからどれだけ割引くかを考えることが非常に難易度が高いです。実際、私もEVCはできたけど、価格は決められなかったというご相談を受けてます。

そもそも割引をする理由は、顧客が既に使っている製品から乗り換えるのをリスクに感じるため、その分を割り引いて埋め合わせをするためです。つまり、顧客が製品を信頼していればしているほど割引は少なくて済みますし、顧客が製品を信頼しているほど値段を変化させても販売量は減りにくくなります(=価格感度が低い)。この顧客の価格感度は、EVCで求めることができません。

そういった背景もあり、EVC Analysisは概念上バリューベースプライシングとしてあるべきアプローチですが、具体的な金額に落とし込む際は「勘と経験」で決めるのとあまり変わらないという弱点があります(データ、数字ベースで算定ができない)。

・Split Testing Pricing

まずSplit Testing Pricingを紹介する前に、その考え方の下にあるスプリットテストについて簡単に紹介します。

スプリットテストとは、商品に関する様々な変更内容に対し、顧客セグメントがどのような反応を示すのかを確認することで、顧客体験を効果的に最適化する方法を把握するための方法です。 スプリットテストは、プライシングの領域よりも、ホームページの設計などのために使われることが多いです。

スプリットテストの方法
1. A/Bテスト
顧客が体験する一つのセクション(ボタンの色やテキストの大きさ)に対して複数の選択肢を検討し、比較実験する。例えば、会社のウェブサイトのトップページに表示するボタンの色を変化させることによって、有料会員への登録ページへのアクセスを増やそうとする場合、顧客がトップページにアクセスするたびにその都度表示されるボタンの色を様々に変化させ、登録ページへのアクセスがボタンの色によってどのように変化するのかを調べる。

2. 多変量テスト
A/Bテストでは、一つのセクションを変化させることによってパフォーマンスが改善されるか調査するが、多変量テストでは複数のセクション(ボタンの色に加え、ボタンの大きさなど)をランダムに変化させ、パフォーマンスの変化を調査する。

3. フレキシブルLPテスト
上の二つの方法ではどのような顧客に対してもランダムにセクションを変化させていたが、本テストではどのような顧客がアクセスしてきたかも考慮して実験を行う。

このスプリットテストを応用したのが、Split Testing Pricingです。

Split Testing Pricingとは、スプリットテストをプライシングの領域に応用したものです。ただし、上述しましたが、これはスプリットテストの主要な活用方法ではありません。Split Testing Pricingでは、顧客に提示する価格を変化させることによって、価格の変化によって顧客の購入数と収益がどのように変化するのか検討します。つまり、料金表を公開しているSaaS企業(主にPLG型)に限定されたアプローチになります。

余談ですが、米国の時価総額上位50社のSaaS企業の料金ページを調べたところ、具体的な料金表を公開している企業は全体の34%で、残りの66%の企業は、具体的な料金表を公開していませんでした。また、料金表を公開している企業の90%以上が、PLG型ということがわかりました。

Split Testing Pricingの方法一覧
Split Testing Pricingでは、価格を変化させることによって購入数や収益がどのように変化するのか調査しますが、フロントエンドを変化させるよりも高い技術が必要になります。また、ページ上で誤って安い価格を表示し、その後高い価格を提示すると法律違反になる可能性があります。また、顧客によってランダムに請求する値段を変化させると、顧客との間のトラブルに発展しうるリスクがあるので注意が必要です。

1. Cosmetic Price Testing
実際の価格よりも高い範囲で複数の価格をランダムに表示し、購入を確認する直前に値引きを実施し、すべての顧客に実際の価格で販売する方法。これによって、バックエンドとの連携を行ったり顧客との信頼関係を失ったりするのを恐れることなく調査を実施することができる。この調査方法は、端数価格など微小な価格の変化が販売数に与える影響を調査するのに最適。なぜなら、顧客は購入後に払った値段が購入前に見た値段よりも安くなっていたとしても多くの場合気付かないため、顧客に気付かれずに調査を行えるからだ。

2. Anchoring in Action
異なる価格で製品を提供するのではなく、複数の価格で複数の製品を提示し、それぞれの価格設定が他のプランの価格に対してどのような相対的な意味を持つか調査する。これによって、複数価格設定の効果(複数の製品の中で最も高い製品と安い製品は購入されないなど)を実証し最適な価格設定の組み合わせ(例えば、最も購入させたい商品の価格を二番目に高く設定する)を構築するヒントを得ることができる。この調査では、販売したい製品より高い製品を販売することで販売したい製品の価格を安く見せたり、それより安い製品を値上げして販売したい商品との価格差を縮めることで販売したい製品のお得感を演出したりする効果があるか検討できる。

SaaSは多くの場合、単一での価格を設定しないため、この手法は非常に重宝します。

3. 価格表示
例えば年額ではなく、月額表示にした方が、登録者数が増加する効果が知られていますが、このように単純な価格表示によって販売数や利益がどのように変化するか判断することができる。この調査をする際には、地域性を考慮するべきである。例えば、家電でも月払いで購入することが一般的であったり、法律によって販売量が変化したりする可能性がある。

4. 時間によって価格を変化させる
普通スプリットテストでは同時に異なる顧客に対して異なる価格を提示するが、時間によってすべての顧客に対して提示する価格を変化させ、どのように販売数や利益が変化するかを調査する方法。この方法では、価格の表示を伴う広報活動への影響を抑えることができる。しかし、販売数を変化させる時間ベースの要因の影響を排除する必要がある。

5. 従量課金制の設定の判定
従量課金制では、量が多いプランでは顧客が商品の価格の高さゆえに購入を躊躇うため、コンバージョン率が比較的低い傾向がある。しかし、スプリットテストを実施した結果、量が多いプランと少ないプランでコンバージョン率が変わらない場合、顧客は商品が魅力的だと考えているがゆえに、価格はあまり考慮せずに量の方を注目している可能性がある。よって、購入量を全く減らさないか少ししか減らさないで、量の多いプランの価格を引き上げることができる。

ちなみに Split Testing Pricingを実施する際の被験者の選び方については、ページビュー数ではなくユニークユーザー数を計測する必要があります。コンバージョン率を計算する際はページビュー数ではなく、ユニークユーザー数を使用した方が有益であるため、計測の段階でもユニークユーザー数を計測しておく必要があります。

最後に注意点です。

・膨大なサンプル数が必要
スプリットテストには膨大なサンプル数が必要で、統計的に優位な結果を得るのがほとんど不可能になる可能性がある。またそのため、新興企業や顧客の少ない企業はスプリットテストから優位な結果が得られない。
・調査中は変数の変更ができない
価格変化以外の要因を統制するため、調査中は価格設定ページに変更を加えることができない。
・相対的な評価しかできない
A/Bテストでは、ある価格よりもある価格の方が好ましいこと分かるが、最適な価格設定がどうなるかはわからない。
・販売数を増やすことと利益を増やすことのどちらを優先すべきかは一考するべきである。
高い価格を設定したことによって販売数が少なくても利益が高くなることもあるが、高い価格を設定することで顧客離れが起き、長期的には利益が少なくなる可能性がある。
・同じ商品を異なる価格で販売すると、倫理的な問題に問われる可能性があり、最悪の場合法律違反になる可能性がある。

最後に、SaaSではないですが、課金体系がSaaSと比較的近いNetflixのSplit Testing Pricingを活用した事例をご紹介します。

2019年3月頃にNETFLIXはイギリスのユーザー向けサブスクリプション価格に対してスプリットテストにを行いました。具体的には、通常の価格よりも最大3ドル高い価格が表示されました。これは、複数のTwitterユーザーによって報告されており、以下のツイートでは、ユーザーがブラウザによって表示される価格が違ったと証言しているが、BBCによると再現はできなかったといいます。

NETFLIXによると異なる価格が表示された場合でも高い価格を支払わせていないとしており、上で紹介したCosmetic Price Testingが行われた可能性があります。NETFLIXは、「利用者がNETFLIXをどのように評価しているか理解するために、若干異なる価格をテストしています。」「すべてのユーザーがこのテストを受けるわけではなく、今後テストされた価格で実際のサービスが販売しないかもしれません。」「我々の目標は、NETFLIXがお金を支払う価値を持ち続けることを保証することです。」(以上拙訳)と証言しています。

ここまでで、3種類の適正価格を算出する方法について解説しました。

STEP3.顧客に対して連絡する

価格変更に対し、顧客が大なり小なりネガティブな印象を抱くことは避けて通れません。だからと言って、価格を変えることを避けるわけにもいきません。大切なことは、顧客の価格変更に対するネガティブな印象を最小化することです。ここでは、Evernote(エバーノート)の事例を交えつつ、顧客の価格変更に対するネガティブな印象を最小化する方法について考えていきます。

まずは、彼らがどのように「顧客の価格変更に対するネガティブな印象を最小化」したのか実際の告知内容(Evernote の価格プランの改定について)を見ていきましょう。

まず、冒頭で会社で1年間取り組んできたこと、ビジネスの透明性の宣言、価格改定におけるポリシーを説明しています。

”この 1 年の間に、色々な変化がありました。〜(中略:1年間のアップデートの内容)〜これらのアップデートで確実に前進していると考えていますが、私たちが目指す Evernote にはまだ近づいていません。”(引用)

“これから先も変わらないことが 2 つあります。みなさんの生産性を最大限高めるためのお手伝いをすることと、弊社のビジネスを可能な限り透明に運営していくことです。つまり、みなさんに広告を見せたり、みなさんに関するデータを売ったりすることはしません。あくまで、良い製品を適正価格で提供するだけです。従って価格調整を行う場合においても、その変更内容と理由、およびユーザのみなさんにどのような影響が生じるのかを具体的に説明させていただきます。”(引用)

ここまでは、珍しくないかもしれませんが、「次世代の Evernote を作るために」というタイトルで、値上げをする意図と、いいサービスにするため、しっかりサービスに投資をしていくと宣言しています。

“私たちは、価格プランの変更がみなさんに及ぼす影響をとても真剣に考えており、ユーザのみなさんへの感謝の気持ちを忘れることもありません。私たちの目標は、長期的に Evernote を改良し続けることです。ユーザのみなさんの要望に応える新機能も随時実装しながら、主要製品をよりパワフルに、直感的に使えるようにすることに引き続き投資してまいります。一方で、それを実行するためにはたくさんの労力と時間、そしてお金が必要になります。そこで、Evernote に大きな価値を見出してくださる方には、私たちが必要な投資を行えるよう、ぜひ力を貸していただきたいと考えております。ひいては、Evernote 製品の利用体験をさらに進化させていきたいのです。”(引用)

これです。大切なのは。

単に自社の利益を追求するのではなく、顧客のためにサービス開発に投資していく、中長期的にみると絶対に後悔させない。こんな熱い想いを正直に顧客に伝えるのが一番です。外部要因によるコスト増を言い訳にする企業が圧倒的に多いですが、顧客にとってサービス提供者側の都合は関係ありません。あくまでも自社にメリットがあるかどうかです。それを忘れず、丁寧に通知を行いましょう。

上記はあくまで一例ですが、

・既存顧客は価格を据え置き、新規顧客だけ価格改定を実施する
・既存顧客の価格改定は、一定期間を設けてから実施する
・CS/営業チームがしっかり説明に行く

などの、工夫も十分効果的です。あくまでも、顧客の納得のいく範囲内で価格を改定することが前提になりますが、このような工夫をすることで顧客の価格変更に対するネガティブな印象を最小化していきましょう。

価格を見直すタイミング

ここまでのSTEPで、価格体系の決め方、適正価格の算出方法について書きました。しかし、Pricing is never 100% doneであり、適正価格は移り変わっていきます。価格は、耐用年数が非常に低いのが特徴です。

実際、77%の米国SaaSスタートアップは年に1回以上価格を見直しています。

肌感覚ですが、SaaS事業は平均して1年に1回は価格を見直すべきタイミングがくるのですが、その背景となる要因を4つの観点から整理していきます。

・事業フェーズの変化

事業フェーズを立ち上げ期(プレシード〜シード)、成長期(シリーズA〜B)、安定期(シリーズC以降)で整理するとしたら、この3つのフェーズでもあるべきプライシングは異なります。*ファイナンスのステージはあくまでも目安です。

立ち上げ期(プレシード〜シード)
事業ニーズの検証が最も大切なこのフェーズで一番大切なことは、「価格が理由で売れないのではないかという仮説」をなくすことです。そもそも事業が成立するかすらわからないこのフェーズで、プライシングがテクニカルだと、価格が理由で売れなかったのではないか?と疑問を抱くはずです。それでは事業のニーズがなくて売れないのか、価格が理由で売れないのか判断ができません。その状態を最も避けるべきであり、そのために単一のシンプルな価格体系かつ、価格がネックにならず売り散らかせる最低限の価格にする必要があります。そのため、このフェーズでは価格に対してあまり注力する必要はありません。

成長期(シリーズA~B)
このフェーズがプライシングに初めて注力するフェーズになります。このフェーズでは、単一のシンプルな価格体系かつ、価格がネックにならず売り散らかせる最低限の価格が、大きな機会損失を生むことになります。このフェーズでは、顧客の事業規模や利用頻度、経済効果が多岐に渡りはじめます。そのため、例えば、SMBにも、エンタープライズ企業にも月額1万円で売っている、といったような高く取れるはずの人から取れない機会損失が生まれたり、SMBには売れていたのに、エンタープライズ(別セグメント)には安すぎてサービスを信頼してもらえない、といった状態に陥ることになります。この状態を回避するために、価格体系を見直し、幅広いセグメントのニーズに応えられるようプライシングの見直しをしなければならないのです。

安定期(シリーズC以降)
このフェーズになると、アップセルを狙った新しいプロダクトをリリースすることも多いでしょう。その場合、製品同士の協調価格を考え、自社製品によるカニバリゼーションや、不適切なバンドル設計により売れるはずのプロダクトですら売れない、などの状態を回避する必要があります。

・高い売上目標

T2D3という言葉があるように、多くのSaaS企業はスタートアップであり、特にスタートアップでは高い売上目標(や売上成長率)を達成する必要を求めらますよね。これまで順調に顧客を獲得できていたものの獲得ペースが鈍化してきた際や、獲得しても獲得しても売上目標に届かない際はプライシングの見直しが必要があります。

・価値の向上

新機能が追加され、提供価値が向上するにつれ、価格変更余地が生まれます。この場合に関してのみ、プライシングの見直しはnice to haveですが、長期的に見るとこのタイミングで都度都度プライシングを見直している企業とそうでない企業では大きな差になるでしょう。

・ターゲットの変更

SMBからエンプラなど、ターゲット変更に伴い適正な価格は変化します。上述した、SMBにも、エンタープライズ企業にも月額1万円で売っている、といったような高く取れるはずの人から取れない機会損失が生まれたり、SMBには売れていたのに、エンタープライズ(別セグメント)には安すぎてサービスを信頼してもらえない、といった状態に陥るため、プライシングの見直しが必要です。

プライシングの成功事例(SurveyMonkey)

これまでの復習も兼ねて、最後に成功事例を見ていきましょう。ここで紹介する事例は、言わずと知れた米国の大手SaaS企業であるSurveyMonkeyです。

まず価格変更を行なった背景は、以下のようです。

・競合他社の価格が変化しているにも関わらず、SurveyMonkeyでは価格を変えていなかった
プロダクトの開発速度が速く、顧客がついてこれていなかった(ユーザーに対し、「製品に追加してほしい機能」を尋ねたところ、大半の機能はすでに存在しているものだった。しかも、その機能に対し、もっとお金を払ってもいいと思っていたことがわかった。)
・顧客の80%が、個人的な目的や教育目的ではなく、ビジネスシーンで活用していることがわかった。

前述した、「価値の向上」、「ターゲットの変更」がこれに該当しますね。価格の耐用年数が低いことはお話ししましたが、その背景としてサービスの拡大に伴ってユーザーのニーズが多様化してくるといった観点があります。SurveyMonkeyのように開発スピードの早い企業はこの傾向が顕著にあわられます。

そして、価格改定を行なった結果以下の成果が出たようです。

・年間プランの利用者が、全体の77%から85%になった(チャーン防止にも結果繋がった)
ARPUが14%増加した($423→$483)
・個人利用から法人利用へのスムーズなアップセルに繋がった(企業向けの売上が128%増加し、総売上高の29%を占めた(前年同期は16%)。)

プライシングは、収益最大化にフォーカスが当たりがちですが(もちろん収益インパクトは絶大)、多セグメントのユーザーのニーズに応えたり、サービス提供側の意図に合わせて使ってもらう(法人利用の促進など)という観点においても大きく貢献することが見てとれます。

成功要因は大きく3つであると考えています。

①全社を巻き込んだプロジェクトにしたこと
②調査の手法が適切であったこと
③顧客対応を適切に行なったこと

一つ一つ説明していきます。

まず①「全社を巻き込んだプロジェクトにしたこと」についてです。今回の価格改定に関わった部門は以下のようです。「STEP0.体制を構築する」がしっかりできています。

・リサーチ(定量調査のため)
・プロダクト(技術的な観点でのパッケージング)
・エンジニア(新パッケージの実装)
・マーケティング(変更発表・対応)
・営業(リードジェネレーションに与える影響の検討)
・法務(規約の対応)
・財務(財務モデルとの整合性の判断)

B2Bは顕著ですが、上述の通り、関係者が非常に多く価格に対する認識や課題が異なります。どのポジションから見ても、納得のいく価格設定である必要があり(優先順位はありますが)、全社を巻き込むことが大切になります。そのため、ポジションによる先入観の少ない経営層、事業企画、外部企業(コンサル等)が、プロジェクトを推進することが一般的です。

実際、私たちも、B2B企業のプライシングに関わらせていただくときは、CS部門、営業部門、プロダクト部門、事業企画、開発部門などと必要に応じて連携しつつ、プロジェクトを実施しています。

続いて、②「調査の手法が適切であったこと」です。行なったアプローチは次の3つのようです。

・顧客セグメンテーション
・質的インタビュー
・PSM分析

「STEP1.価格体系を考える」手法として「顧客セグメンテーション」と「質的インタビュー」が、「STEP2.適正価格を算定する」手法としてPSM分析が採用されています。

最近では、PSM分析というワードが一人歩きをして、それだけをやろうとする人が増えていますが、PSM分析単独でざっくりした目安金額はわかりますが、価格を決めれるわけではありません。大切なのは、「顧客セグメンテーション」と「質的インタビュー」を組み合わせることです。

「顧客セグメンテーション」は、既存顧客と長期的に獲得したい顧客の2つを調べていきます。具体的には、どのようなペルソナで、どのようにプロダクトを活用しているか、を見ていったようです。

「質的インタビュー」では、セグメンテーションで行なった内容から、製品に対する顧客の認識を明確に把握し、使用事例を詳しく調査します。プライシングは、金額を決めて終わりでなく、顧客セグメント毎に提供するパッケージまで考えていきます。そのためには、これらの調査が必須ということです。

最後に、③「顧客対応を適切に行なったこと」です。
これはEvernoteの事例でもお話ししましたが、SurveyMonkeyでは、既存の顧客がショックを受けないように、段階的に新価格に移行し、包括的なコミュニケーションプランを実施したようです。この戦略により最終的には、解約はほとんどなかったようです。「STEP3.顧客に対して連絡する」も完璧ですね。

まとめ

今回はSaaSのプライシング戦略について紹介しました。プライシングによって皆様の事業成長が、より加速することを願っております。

価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまで宜しくお願い致します。

(この記事は、プライシングスタジオ 高橋 嘉尋のnoteを再構成して転載しています)

プライスハック監修

執筆者

高橋 嘉尋

CEO at プライシングスタジオ株式会社

プライシング専門メディア「プライスハック」を監修するなど、プライシングに関する専門知識が豊富。プライシングスタジオの全案件にて、クライアント企業の価格課題分析 及び プライシングのアドバイザリー業務を担当。コンサルティング経験としては、飲食業界のプライシングに関する長期プロジェクトに参画し、売上改善を達成。

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