(この記事は、『日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説』の続きの記事です。)
前回までの記事では、食品・消費財メーカー向けに、日用消費財業界の動向と、価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップをご紹介し、
「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」
そのなかでも「STEP1」の戦略立案プロセスまでを実務ベースで解説いたしました。
価格戦略が固まれば、あとはその戦略を実際の「価格」に落とし込む工程です。しかし、ここで過去の経験や勘に基づいて価格を決定している企業も少なくありません。
今回は、実際の価格へ落とし込み「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」を解説いたします。
業界の動向や価格の戦略から知りたい方は、下記前回までの記事をお読みください。
・第1部:日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説
・第2部:日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説
目次
プライシングの「良い分析」とは
そもそも「良い分析」とはどんな分析でしょうか。
プライシングという観点で言えば、「良い分析」とは「意思決定ができる分析が良い分析である」と考えています。
もし「高度かつ複雑な分析」を是とするのであれば注意が必要です。高度かつ複雑な分析方法は、分析工数が膨大になることから、調査・分析に時間を要し、意思決定が遅れる可能性があります。
また、分析結果の解釈が難しくなり、意思決定まで落とし込めなくなるリスクすらあります。あくまでも解きたい課題を解くために、どの分析手法を選ぶのが最短経路なのかを意識するといいでしょう。
適切な価格設定に有効な2つの分析手法
私たちがよく活用しているいくつかの分析手法のなかで、日用消費財業界の商材に適していると考える分析手法を2つご紹介します。
・PSM分析
プライスウォーターフォール分析
プライスウォーターフォール分析(PWF分析)とは、コストから価格を設定するコストベースプライシングの手法の1つです。
↓コストベースプライシングについては下記ページをチェック
ウォーターフォール(英語:Waterfall)とは、日本語で直訳すると「滝」を表しますが、プライシングの業界では、価格から様々な取引で発生する各コストを差し引いて、各取引でどれくらい収益が得られているのか、どれくらいコストが発生しているのかといった要素を視覚的に分析するものです。
コスト改善の機会を特定するのに使われるケースもあります。
プライスウォーターフォール分析のやり方
プライスウォーターフォール分析の4つの価格とコスト
プライスウォーターフォール分析では、下記「4つの価格」を「各取引で発生するコスト」に基づいて把握していくことが必要です。
<4つの価格>
- 希望小売価格(List Price)
- 請求価格(Invoice Price)
- 希望小売価格から値引きなどを差し引いた実際の請求価格。これは顧客が支払った価格であり、売り手が実際に受け取る価格ではない。
- ポケットプライス(Pocket Price)
- 請求価格から、払い戻し、手当、貨物費を差し引いた価格。売り手が受け取れる手取り価格。
- ポケットマージン(Pocket Margin)
- ポケットプライスから売上原価を差し引いた価格で、最終的に企業のポケットに入る利益。
自社の価格を考えていく指標として、下記の様な企業であれば、上述のポケットプライスが適切な価格指標となりえます。
- 扱う商品・サービスが規格品である
- かつ、販売コストや郵送費などがほとんど変化しない
しかし、競争が激しい市場では、多くの企業がなんとか差別化を図ろうと躍起になり、取引ごとにカスタマイズされた商品やサービス・パッケージ等を提供する他、特別な配送サービスやテクニカル・サポートを用意するなどの工夫も凝らしています。
そうなると、ポケットプライスでは、ある顧客に商品やサービスを提供するときの実際のコストを反映しきれないため、注文ごとに異なるコストを差し引いた後で、最終的に企業のポケットに入る利益、すなわち上述のポケットマージンが意味を持ちます。
また、「各取引で発生するコスト」の一例としては以下のようなものが挙げられます。
<各取引で発生するコストの一例>
- 年間取引ボーナス:年間購入額が設定基準を上回った顧客に支払われるボーナス
- 現金割引:短期間の支払いの場合、請求価格に適用される割引き
- 委託販売費用:メーカーが販売店・卸売店の商品在庫を負担するためのコスト
- 共同広告協賛金:地元の小売店や卸売店が商品を広告してくれた場合に支払う協賛金
- 特別リベート:販売店が大口顧客や全国規模の顧客などの特定顧客に割引を適用した場合に払い戻すリベート
- 運送料:顧客に納入するまでにかかる運送料
- 新規市場開拓ボーナス:特定顧客セグメントを開拓するための適用する割引き
- プロモーション・ディスカウント:キャンペーン期間中の売上に対するリベートなどの販売
- 奨励金
- オンライン割引:インターネット、イントラネット経由での注文に適用される値引き
- ペナルティ:品質や配達時間などの約束が守られなかったときに適用される値引き
- 売掛コスト:代金請求から回収までにかかる金利など
- 販売枠確保のための費用:一定の商品スペースを確保してもらうために小売店に払う費用
- 在庫ディスカウント:季節的な需要増などを見込んで大量在庫を抱えてもらうときに小売店・卸売店に適用する値引き
プライスウォーターフォール分析の手順
プライスウォーターフォール分析は本来、収益構造を視覚化するためのものですが、これを活用することで、コスト改善を起点として収益改善を図れる「価格設定の基準」をつくります。そのステップについて詳しく解説します。
- 希望小売価格を確定させます。
- 希望小売価格から、商品のボリュームや特定の顧客への呼び込みを行うために行った値引きを差し引いて、請求価格を求めます。
- 希望小売価格から販売時の値引きを行った価格が請求価格であるが、これは顧客が支払った価格であり、売り手が実際に受け取る価格ではありません。
- 請求価格には含まれない価格があります。これは「請求外価格」とも呼ばれ、適時支払に対する割引、マーケティングやパートナーシップに関する手当、流通経費に関するリベート、販売目標や数量目標などの業績インセンティブなどが含まれます。
- 4番で求めた請求外価格を請求価格から差し引いた価格がポケットプライスとよばれ、各値引きを行った後の企業が受け取る最終的な価格です。
- 売上原価は商品の価値に直接に寄与する費用です。
- ポケット価格から売上原価を差し引いたものが企業が直接受け取るポケットマージンです。
- これまでのステップで割り引かれた「コスト」を適正化させるために、各コストが「正しく実行されたコスト」なのか、「不当に実行されたコスト」なのかを分別します。分別するためのそれぞれのコストの違いは以下のとおりです。
- 正しく実行されたコスト:価値を創造し、プラスのROIを生み出すのに役立つものを正しく実行されたコストとし、適正化の対象からは外れます。それらは、「取引投資または特別価格」と呼ばれます。
- 不適切に実行されたコスト: 価値の破壊につながり、利益の増加を促進せず、利益を生み出さないものを不適切に実行されたコストとします。それらは、積極的に排除するか、最小限にとどめる必要があります。
- 8番で適正化したコストをもとに、値引きのルールやポケットプライスの基準を設け、これを基準に価格を設定します。
<ルールの一例>
- 「不適切に実行されたコスト」として大幅な割引を受けている取引先に対しては、他社と釣り合う程度に価格を引き上げる、もしくは、取引を停止する。
- ポケットプライスを顧客特性に合わせて是正する。例えば、各顧客の取引量や取引の種類、顧客セグメントに基づいてポケットプライスの目標圏を設定する。
PSM分析
PSM分析とは、「Pricing Sensitivity Meter」 の略であり、顧客が商品とサービスに感じる価値に基づいて価格を決定するバリューベース・プライシングの手法の1つです。
↓バリューベースプライシングについては、下記ページをチェック
顧客がある商品に対して、価格に関する4つの質問を行い、「どれくらいの範囲で価格を受け入れるのか」を調査し、売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算することが可能です。
<PSM分析の4つの質問>
- その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?
PSM分析のやり方
PSM分析の「4つの交点」に学術的根拠はない。
PSM分析についてご存じの方であれば、「PSM分析を活用した価格設定では、4つの交点を参考に価格を設定します」という話を聞いたことはないでしょうか?
PSM分析では、直接的に購入したい価格を尋ねるのではく、4つの項目をアンケートで聞き、製品・サービスの価格に対する顧客の感覚(支払い意欲)を把握するのが特徴です。
<PSM分析のアンケートで聞く価格>
- 高すぎて検討に乗らない価格
- 高く感じる価格
- 安く感じる価格
- 安すぎて品質が低いと感じる価格
そして、価格調査の結果を集計すると、下記4つの交点が現れます。この交点を参考に価格決定を行うという内容です。
<PSM分析の4つの交点の価格>
- 理想価格:最も価格拒否感が少ないと見られる価格
- 妥協価格:高い・安いの評価が分かれる価格
- 最高価格:これ以上高くなると、消費者の購入されなくなると見られる価格
- 最低品質保証価格:これ以上安くなると、消費者が「品質が悪いのではないかと不安になる」と感じる価格
しかし実際のところ、このPSM分析の4つの交点について、学術的な側面からの根拠は提示されておりません。
実際、最高価格以上でも「購入が検討に乗る人」はいますし、同様に最低品質保証価格以下でも「品質が悪いと思わない人」が存在します。
理想価格に関しても、本来顧客が最大化する価格は「安すぎて品質が低いと思う人」と、「高すぎて検討に乗らないと思う人」が最小となる価格であり、必ずしも交点と一致するとは限らないのです。
多くのステークホルダーに説明責任が存在するビジネスシーンでの価格の意思決定において、この交点の正確性は全くといっていいほど力不足です。
そのため、PSM分析を活用する際は、収集したデータをプロットし、交点を参照するのではなく、集計して価格ごとの購買人数と売上を推計した方が、説明責任を果たすのに十分な結果を出すことができます。
PSM分析を活用した適切な価格の求め方
①注目すべき価格
「高すぎて検討に乗らない価格」と「安すぎて品質が低いと感じる価格」の2つに注目して、分析を行っていきます。
前者よりも高い価格で売ってしまえば、高すぎてお客さんに買ってもらえません。
同様に、後者よりも安い価格で売ってしまえば品質に不安を持たれてお客さんに買ってもらえません。
これらのことから逆に、この2つの価格の間の金額で売ればお客さんは買ってくれるだろうと考えられます。
PSM分析の結果を見るときは、この仮定を置くことが大切です。
②価格ごとの顧客数と売上を推計する
それぞれの価格にした場合、どのくらいのお客さんが買ってくれるか(顧客数の推計)、そこに単価をかけることで、どのくらいの売上でたつのか(売上の推計)がわかります。
推計したデータをグラフと表に整理すると下記のような図が出来上がります。
上記図を分析することで、価格に対して下記のような根拠をもった意思決定ができるはずです。
<価格決定の例>
- まずは戦略上市場シェアを取っていく必要があるから、「顧客最大価格」に設定しよう。
- 売上をより伸ばしていきたいから「売上最大価格」に設定しよう。
- 顧客の離脱が最小限に収まる範囲内で、売上が上がるこの金額に設定しよう。
PSM分析の具体的な調査・分析プロセスについては、下記ページにて解説しています。
まとめ
今回は、日用消費財業界の価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップのうち、STEP2の「金額を決める」ステップについて解説いたしました。
「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」
プライシングスタジオでは日用消費財業界の企業様の価格のコンサルティングを担当させていただいております。不明点やバリューベースの価格設定を実現したい事業者様は、お気軽に、プライシングスタジオにお問い合わせください。
プライシングスタジオが提供するホワイトペーパーも配布中!
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プライスハックでは、こうしたプライシングに関わるお役立ち情報やセミナー情報を発信しています。よりプライシングについて学ばれたい方は、下記リンクよりニュースレターをお受け取りください。
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「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」
そのなかでも「STEP1」の戦略立案プロセスまでを実務ベースで解説いたしました。
価格戦略が固まれば、あとはその戦略を実際の「価格」に落とし込む工程です。しかし、ここで過去の経験や勘に基づいて価格を決定している企業も少なくありません。
今回は、実際の価格へ落とし込み「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」を解説いたします。
業界の動向や価格の戦略から知りたい方は、下記前回までの記事をお読みください。
・第1部:日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説
・第2部:日用消費財業界の『戦略立案プロセス』を徹底解説
目次
プライシングの「良い分析」とは
そもそも「良い分析」とはどんな分析でしょうか。
プライシングという観点で言えば、「良い分析」とは「意思決定ができる分析が良い分析である」と考えています。
もし「高度かつ複雑な分析」を是とするのであれば注意が必要です。高度かつ複雑な分析方法は、分析工数が膨大になることから、調査・分析に時間を要し、意思決定が遅れる可能性があります。
また、分析結果の解釈が難しくなり、意思決定まで落とし込めなくなるリスクすらあります。あくまでも解きたい課題を解くために、どの分析手法を選ぶのが最短経路なのかを意識するといいでしょう。
適切な価格設定に有効な2つの分析手法
私たちがよく活用しているいくつかの分析手法のなかで、日用消費財業界の商材に適していると考える分析手法を2つご紹介します。
・PSM分析
プライスウォーターフォール分析
プライスウォーターフォール分析(PWF分析)とは、コストから価格を設定するコストベースプライシングの手法の1つです。
↓コストベースプライシングについては下記ページをチェック
ウォーターフォール(英語:Waterfall)とは、日本語で直訳すると「滝」を表しますが、プライシングの業界では、価格から様々な取引で発生する各コストを差し引いて、各取引でどれくらい収益が得られているのか、どれくらいコストが発生しているのかといった要素を視覚的に分析するものです。
コスト改善の機会を特定するのに使われるケースもあります。
プライスウォーターフォール分析のやり方
プライスウォーターフォール分析の4つの価格とコスト
プライスウォーターフォール分析では、下記「4つの価格」を「各取引で発生するコスト」に基づいて把握していくことが必要です。
<4つの価格>
- 希望小売価格(List Price)
- 請求価格(Invoice Price)
- 希望小売価格から値引きなどを差し引いた実際の請求価格。これは顧客が支払った価格であり、売り手が実際に受け取る価格ではない。
- ポケットプライス(Pocket Price)
- 請求価格から、払い戻し、手当、貨物費を差し引いた価格。売り手が受け取れる手取り価格。
- ポケットマージン(Pocket Margin)
- ポケットプライスから売上原価を差し引いた価格で、最終的に企業のポケットに入る利益。
自社の価格を考えていく指標として、下記の様な企業であれば、上述のポケットプライスが適切な価格指標となりえます。
- 扱う商品・サービスが規格品である
- かつ、販売コストや郵送費などがほとんど変化しない
しかし、競争が激しい市場では、多くの企業がなんとか差別化を図ろうと躍起になり、取引ごとにカスタマイズされた商品やサービス・パッケージ等を提供する他、特別な配送サービスやテクニカル・サポートを用意するなどの工夫も凝らしています。
そうなると、ポケットプライスでは、ある顧客に商品やサービスを提供するときの実際のコストを反映しきれないため、注文ごとに異なるコストを差し引いた後で、最終的に企業のポケットに入る利益、すなわち上述のポケットマージンが意味を持ちます。
また、「各取引で発生するコスト」の一例としては以下のようなものが挙げられます。
<各取引で発生するコストの一例>
- 年間取引ボーナス:年間購入額が設定基準を上回った顧客に支払われるボーナス
- 現金割引:短期間の支払いの場合、請求価格に適用される割引き
- 委託販売費用:メーカーが販売店・卸売店の商品在庫を負担するためのコスト
- 共同広告協賛金:地元の小売店や卸売店が商品を広告してくれた場合に支払う協賛金
- 特別リベート:販売店が大口顧客や全国規模の顧客などの特定顧客に割引を適用した場合に払い戻すリベート
- 運送料:顧客に納入するまでにかかる運送料
- 新規市場開拓ボーナス:特定顧客セグメントを開拓するための適用する割引き
- プロモーション・ディスカウント:キャンペーン期間中の売上に対するリベートなどの販売
- 奨励金
- オンライン割引:インターネット、イントラネット経由での注文に適用される値引き
- ペナルティ:品質や配達時間などの約束が守られなかったときに適用される値引き
- 売掛コスト:代金請求から回収までにかかる金利など
- 販売枠確保のための費用:一定の商品スペースを確保してもらうために小売店に払う費用
- 在庫ディスカウント:季節的な需要増などを見込んで大量在庫を抱えてもらうときに小売店・卸売店に適用する値引き
プライスウォーターフォール分析の手順
プライスウォーターフォール分析は本来、収益構造を視覚化するためのものですが、これを活用することで、コスト改善を起点として収益改善を図れる「価格設定の基準」をつくります。そのステップについて詳しく解説します。
- 希望小売価格を確定させます。
- 希望小売価格から、商品のボリュームや特定の顧客への呼び込みを行うために行った値引きを差し引いて、請求価格を求めます。
- 希望小売価格から販売時の値引きを行った価格が請求価格であるが、これは顧客が支払った価格であり、売り手が実際に受け取る価格ではありません。
- 請求価格には含まれない価格があります。これは「請求外価格」とも呼ばれ、適時支払に対する割引、マーケティングやパートナーシップに関する手当、流通経費に関するリベート、販売目標や数量目標などの業績インセンティブなどが含まれます。
- 4番で求めた請求外価格を請求価格から差し引いた価格がポケットプライスとよばれ、各値引きを行った後の企業が受け取る最終的な価格です。
- 売上原価は商品の価値に直接に寄与する費用です。
- ポケット価格から売上原価を差し引いたものが企業が直接受け取るポケットマージンです。
- これまでのステップで割り引かれた「コスト」を適正化させるために、各コストが「正しく実行されたコスト」なのか、「不当に実行されたコスト」なのかを分別します。分別するためのそれぞれのコストの違いは以下のとおりです。
- 正しく実行されたコスト:価値を創造し、プラスのROIを生み出すのに役立つものを正しく実行されたコストとし、適正化の対象からは外れます。それらは、「取引投資または特別価格」と呼ばれます。
- 不適切に実行されたコスト: 価値の破壊につながり、利益の増加を促進せず、利益を生み出さないものを不適切に実行されたコストとします。それらは、積極的に排除するか、最小限にとどめる必要があります。
- 8番で適正化したコストをもとに、値引きのルールやポケットプライスの基準を設け、これを基準に価格を設定します。
<ルールの一例>
- 「不適切に実行されたコスト」として大幅な割引を受けている取引先に対しては、他社と釣り合う程度に価格を引き上げる、もしくは、取引を停止する。
- ポケットプライスを顧客特性に合わせて是正する。例えば、各顧客の取引量や取引の種類、顧客セグメントに基づいてポケットプライスの目標圏を設定する。
PSM分析
PSM分析とは、「Pricing Sensitivity Meter」 の略であり、顧客が商品とサービスに感じる価値に基づいて価格を決定するバリューベース・プライシングの手法の1つです。
↓バリューベースプライシングについては、下記ページをチェック
顧客がある商品に対して、価格に関する4つの質問を行い、「どれくらいの範囲で価格を受け入れるのか」を調査し、売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算することが可能です。
<PSM分析の4つの質問>
- その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?
PSM分析のやり方
PSM分析の「4つの交点」に学術的根拠はない。
PSM分析についてご存じの方であれば、「PSM分析を活用した価格設定では、4つの交点を参考に価格を設定します」という話を聞いたことはないでしょうか?
PSM分析では、直接的に購入したい価格を尋ねるのではく、4つの項目をアンケートで聞き、製品・サービスの価格に対する顧客の感覚(支払い意欲)を把握するのが特徴です。
<PSM分析のアンケートで聞く価格>
- 高すぎて検討に乗らない価格
- 高く感じる価格
- 安く感じる価格
- 安すぎて品質が低いと感じる価格
そして、価格調査の結果を集計すると、下記4つの交点が現れます。この交点を参考に価格決定を行うという内容です。
<PSM分析の4つの交点の価格>
- 理想価格:最も価格拒否感が少ないと見られる価格
- 妥協価格:高い・安いの評価が分かれる価格
- 最高価格:これ以上高くなると、消費者の購入されなくなると見られる価格
- 最低品質保証価格:これ以上安くなると、消費者が「品質が悪いのではないかと不安になる」と感じる価格
しかし実際のところ、このPSM分析の4つの交点について、学術的な側面からの根拠は提示されておりません。
実際、最高価格以上でも「購入が検討に乗る人」はいますし、同様に最低品質保証価格以下でも「品質が悪いと思わない人」が存在します。
理想価格に関しても、本来顧客が最大化する価格は「安すぎて品質が低いと思う人」と、「高すぎて検討に乗らないと思う人」が最小となる価格であり、必ずしも交点と一致するとは限らないのです。
多くのステークホルダーに説明責任が存在するビジネスシーンでの価格の意思決定において、この交点の正確性は全くといっていいほど力不足です。
そのため、PSM分析を活用する際は、収集したデータをプロットし、交点を参照するのではなく、集計して価格ごとの購買人数と売上を推計した方が、説明責任を果たすのに十分な結果を出すことができます。
PSM分析を活用した適切な価格の求め方
①注目すべき価格
「高すぎて検討に乗らない価格」と「安すぎて品質が低いと感じる価格」の2つに注目して、分析を行っていきます。
前者よりも高い価格で売ってしまえば、高すぎてお客さんに買ってもらえません。
同様に、後者よりも安い価格で売ってしまえば品質に不安を持たれてお客さんに買ってもらえません。
これらのことから逆に、この2つの価格の間の金額で売ればお客さんは買ってくれるだろうと考えられます。
PSM分析の結果を見るときは、この仮定を置くことが大切です。
②価格ごとの顧客数と売上を推計する
それぞれの価格にした場合、どのくらいのお客さんが買ってくれるか(顧客数の推計)、そこに単価をかけることで、どのくらいの売上でたつのか(売上の推計)がわかります。
推計したデータをグラフと表に整理すると下記のような図が出来上がります。
上記図を分析することで、価格に対して下記のような根拠をもった意思決定ができるはずです。
<価格決定の例>
- まずは戦略上市場シェアを取っていく必要があるから、「顧客最大価格」に設定しよう。
- 売上をより伸ばしていきたいから「売上最大価格」に設定しよう。
- 顧客の離脱が最小限に収まる範囲内で、売上が上がるこの金額に設定しよう。
PSM分析の具体的な調査・分析プロセスについては、下記ページにて解説しています。
まとめ
今回は、日用消費財業界の価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップのうち、STEP2の「金額を決める」ステップについて解説いたしました。
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プライシングスタジオが提供するホワイトペーパーも配布中!
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