(この記事は、『日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説』の続きの記事です。)
「日用消費財業界の価格戦略とは?」
「どんなフレームワークや分析が必要になるんだろう…」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?
前回の記事では、食品・消費財メーカー向けに、日用消費財業界の動向と、
価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップをご紹介しました。
「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」
今回は、そのうち「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」の戦略立案方法について、「実際にどのように戦略を立案していくべきなのか?」を実務ベースに解説いたします。
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」については、5/29掲載予定「日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説」にて解説いたします。
全部で3部構成となっておりますので、まだ前回の記事をお読みでない方は、下記のリンクよりお読みください。
第1部:『日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説』
目次
価格戦略の立案に欠かせない2つの分析手法
前回の記事でもご紹介した通り、野村総合研究所の「⽣活者1万⼈アンケート調査」(9回⽬)の調査結果から、消費者の商品を買う際の判断基準の傾向に大きな変化があることが分かりました。
消費者の判断基準が「安さ重視」から「高くても自分が気に入った商品を買う(プレミアム消費)」へ変化してきている今、価格を考える上で、企業は自社の立ち位置をより意識し、差別化するためのより練られた価格戦略が重要です。
市場での自社の⽴ち位置を整理・把握し、戦略を考えていくためには、下記2つの分析手法が有効です。
<価格戦略立案に欠かせない2つの分析手法>
- STP分析
- ロールポジション分析
STP分析
STP分析とは、S(セグメンテーション)T(ターゲティング)P(ポジショニング)の略称で、市場の中で自社の⽴ち位置を整理・把握するために有効なフレームワークです。
S(セグメンテーション)で市場を細分化し、T(ターゲティング)で参入する市場を定め、P(ポジショニング)でどのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していくことができます。
ロールポジション分析
ロールポジション分析とは、STP分析のP(ポジショニング)の中で使えるフレームワークで、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類し整理することで、役割ごとの製品のありなし、単価の整合性を見ることができ、戦略の指針とすることが可能です。
また、自社製品と競合製品のPOSデータ(販売実績データ)などのデータを元にロールポジション分析上で並べて比較することで競合優位性がとれている製品と、取れていない製品を明確にできます。これらの情報から、自社がとるべき戦略などを考えることができます。
STP分析のやり方と手順
STP分析の目的
STP分析を実行していく目的としては、市場における、自社の顧客像や製品の立ち位置を把握することで、戦略を考える上で必要な土台を整えることです。
他社との競争に効果的に勝つためには、⾃社が狙っていくターゲットの標準を、自社が最も「満⾜」を提供する可能性が⾼い消費者に標準を合わせる必要があります。
その際に、誤って他の企業と同じ市場セグメントを追求してしまうと、もっと収益が上がるはずのセグメントを⾒逃してしまうことになります。 正しく市場を分析し、追求することで、自社の立ち位置を精度高く把握することができ、戦略を考える上で必要な土台ができるのです。
STP分析の3つのフレーム
次にSTP分析の実施に必要な下記3つのフレームについて理解を深めていきましょう。
セグメンテーション
市場を細分化するプロセスです。ニーズや選好の異なる購買者グループを特定し、その特徴を明らかにします。
市場を細分化する軸としては、下記4つの軸が用いられます。
<市場を分類する4つの軸>
①地理軸:市場を国、州、地域、郡、地元エリアといった多様な地理的に単位で市場を細分化
②人口動態軸(デモグラフィック):年齢、世帯規模、家族のライフサイクル、性別、所得、職業、教育⽔準、宗教、⼈種、世 代、国籍、社会階層等によって、市場を細分化
③社会⼼理学軸(サイコグラフィック):⼼理⾯や性格の特徴、ライフスタイル、価値観に基づいて市場を細分化
④行動学軸:製品に対する知識、態度、使用法、反応に基づいて細分化
ターゲティング
参⼊する市場を選ぶプロセスです。 ⾃社にとって最も収益性や⽬的の実現に近づける市場を決定します。
市場の決定方法としては、下記5パターンが挙げられます。
ポジショニング
参入市場に対して⾃社の市場提供物の明確なベネフィットを確⽴し、どのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していくプロセスです。
取るべきポジショニングの戦略を判断する際には、先述したロールポジション分析を活用します。
ロールポジション分析で、商品ごとに自社と競合の立ち位置を把握し、後述する自社の競争地位に応じたとるべき戦略を検討します。
セグメンテーションのやり方
セグメンテーションをする際に持つべき5つの観点と評価方法
ただ闇雲に市場を細かく細分化するだけでは意味を成しません。
市場を細分化する際には、上述の4つの軸(地理軸・人口動態軸・社会⼼理学軸・行動学軸)を参考に切り分けつつ、以下の5つの観点を持って細分化することが大切です。
①測定可能性:セグメントの規模、購買力、特性を測定できるかどうかという視点です。
②利益確保可能性:セグメントが製品やサービスを提供するのに十分な規模と収益性を有しているのかどうかという視点です。
③接近可能性:セグメントに効果的に到達し、製品やサービスを提供できるのかという視点です。
④差別化可能性:セグメントが概念的に区別できるかどうかという視点です。
⑤実⾏可能性:セグメントを引き付けて製品とサービスを提供するのに、効果的な成果を出すことができるかどうかという視点です。
- ニーズに基づいた細分化を⾏う
- 特定の消費問題を解決する際に顧客が求める類似したニーズやベネフィットに基づき、顧客をセグメントにわけます。
- セグメントの「特徴」を特定する
- 分類したセグメントをどのような要因が特徴づけているのか判断する必要があります。
具体的にセグメントを特徴づける要因としては、消費者のライフスタイルや、デモグラフィックス、使用行動などがあります。
- 分類したセグメントをどのような要因が特徴づけているのか判断する必要があります。
- セグメントの「魅⼒」を判断する
- あらかじめ規定されたセグメントの魅力度の基準(市場成長性、競争の激しさ、市場アクセスなど)を使い、各セグメントの全体としての魅力を判断します。
- セグメントの「収益性」を判断する
ターゲティングのやり方
市場を細分化し、評価が完了したら、参⼊する市場を選んでいきます。
ターゲティングの5つのアプローチ方法
参入市場の選び方として、5つのアプローチ方法が存在します。
それぞれ見ていきましょう。
①単一セグメントへの集中
単一セグメントとは名前の通り、ある特定のセグメントに特化した商品やサービスを提供することです。
メリットは、特化したセグメントのニーズについてより多くの知識を得て、強力な存在感を持つことができます。
自動車会社のフォルクスワーゲンは、小型車市場に、ポルシェはスポーツカー市場に集中することで、成功しています。
デメリットとして、ある特定のセグメントに特化することは高いリスクを伴います。
特定の市場セグメントとの状況が悪化したり、競合会社がそのセグメントに参入してくる可能性もあります。
その事例としてポラロイド社が挙げられます。 ポロライド社はデジタルカメラ技術が生まれ、インスタント写真に特化していたポロライド社の売上は大きく落ちこみました。このように高いリスクが伴うため、多くの企業は複数の市場セグメントに事業を分散させることを好みます。
企業の目的に合わせて、魅力的かつ適切な複数のセグメントに絞り、対象とすることです。
メリットはそれぞれ自社の商品やサービスに適していると判断され、選ばれたセグメントなので、高い収益性が期待できます。またリスクを分散させる効果もあります。
事例としては、P&Gがクレスト・ホワイトストリップスを発売した際、標的セグメントには、結婚間近な女性に加え、同性愛者の男性も含まれていました。
③製品専⾨化
いくつかのセグメントに販売できる1種類の商品に特化することです。
メリットは、特定の製品エリアにおいて評価を得ることができることです。
事例として、顕微鏡メーカーは、顕微鏡という一つの製品に特化していますが、標的セグメントは大学の研究室や、政府の研究機関、企業の研究部門など複数のセグメントが存在しています。
④市場専⾨家
特定の顧客グループの多数のニーズを満たすことに集中します。
メリットは、この顧客グループから高い評価が得られると、このグループに別の商品を売り込むことができることです。
事例としては、研究室にのみに多様な製品を販売する企業が挙げられます。
デメリットとしては、特定の顧客グループが予算を削ったり、財政が悪化したりすると、売上が落ちこむリスクがあることです。
⑤市場のフルカバレッジ
全ての顧客グループに彼らが求めるあらゆる製品を提供することです。巨大企業のみができる戦略です。
事例としては、コカ・コーラ(飲料メーカー)やIBM(コンピューター市場)、GM(自動車市場)などがあります。
この戦略の中にも「差別型マーケティング」と「無差別型マーケティング」があります。
<無差別型マーケティング>
「無差別型マーケティング」は市場セグメントの違いを無視し、単一の製品やサービスで市場全体を対象とします。
メリットとしては、製品ラインが少ないため、研究開発、製造、在庫管理、輸送、マーケティング・リサーチ、広告、製品管理に関するコストを抑えることができます。
デメリットとしては、企業は最大多数の購買者にアピールする必要があるため、莫大な予算が必要となるので、大きな企業しかできない戦略ともいえるでしょう。
<差別型マーケティング>
「差別型マーケティング」は企業が複数のセグメントに事業を展開し、セグメントごとに異なる製品を設計します。
一般的に差別型マーケティングのほうが、無差別型マーケティングよりもコストがかかると言われています。
考慮する点としては、コスト面からは、「製品改良コスト」「製造コスト」「マーケティング管理コスト」「在庫管理コスト」「プロモーションコスト」があります。
ポジショニングのやり方
セグメンテーション、ターゲティングの操作が終わったら、どのような立ち位置で参入するのか、自社が取るべきポジショニング戦略を判断していきます。
ポジショニングは、4つのステップで進めていきます。
<ポジショニングの4つのステップ>
- POSデータを活用し、自社の競争地位を把握する。
- ⾃社製品の商品ポートフォリオを4つの役割ごとに整理する。
- 競合製品も同じように整理する。
- 競争地位に応じた取るべき戦略を検討・判断する。
競争地位と取るべき戦略
4つのステップのご説明の前に、「競争地位の種類」と「地位ごとの取るべき戦略」を解説していきます。
競争地位①:リーダー
- リーダーの特徴:関連製品の市場で最⼤の市場シェアを誇っています。そして通常、価格変更、新製品導⼊、 流通範囲、プロモーションの⾯で他社をリードしています。
- リーダーの取るべき戦略:基本方針としては、全方位戦略をとり、自社シェアの維持や市場の拡大をさせることが戦略的目標になります。
競争地位②:チャレンジャー
- チェレンジャーの特徴:業界で第2位、第3位、あるいは更に低い地位にある企業はしばしば2番⼿企業もしくは追⾛企業と⾔われます。
- チャレンジャーの取るべき戦略:市場戦略による利益への影響を分析するPIMS研究によると、一般的にシェアが高まれば収益性が高まることがわかっています。そのため、基本方針としては差別化戦略を取り、攻撃対象を明確にして競合他社の弱点をつくなどしてシェアを高めることが戦略目標になります。
競争地位③:フォロワー
- フォロワーの特徴:リーダーに挑戦するよりも、追随する傾向にあります。リーダーを追い越す可能性は低いですが、イノベーション費用を負担していないため、高い利益を挙げることができます。
- フォロワーの取るべき戦略:基本方針としては、模倣戦略を取り、製品開発コストを抑えて高収益を達成させることが戦略目標となります。
競争地位④:ニッチャー
- ニッチャーの特徴:大規模市場でのシェア率が低くても、小規模市場すなわちニッチャーでリーダーになる道もあります。
- ニッチャーの戦略:基本方針としては、集中戦略を取り、扱い商品の価格帯や販売チャネルなどを限定して専門化することで収益を高めることが戦略目標になります。
ポジショニングの4つの実行ステップと戦略立案例
競争地位と取るべき戦略が理解できたら、早速実行ステップを進めていきましょう。
ステップ1:POSデータを活用し、自社の競争地位を把握する。
POSデータをバブルチャートに整理することで、
- 自社がシェアを取れている商品はどういった価格帯・容量帯の商品なのか?
- 自社がシェアを取れていない・取っていくべき商品はどういった価格帯・容量帯の商品なのか?
などを視覚的に明らかにすることが可能です。
例えば、こちらのバブルチャートをご覧ください。
各容量と各平均価格ごとにバルブが分布しており、オレンジ色は自社商品、グレー色は他社商品のバルブを表しています。
バルブの大きさは、その商品の当期売上金額に比例した大きさになっており、他社のバルブより大きければ大きいほど、その容量帯・価格帯で自社がシェアを取っていることを表しています。
この図からは、容量200~500gの層では、自社の売上が最も大きく「リーダー」のポジションが取れていることがわかります。
しかし、小容量100~200gと大容量500~700gの層では、他社商品は存在しているものの、自社製品はない状態となっております。小容量層と大容量層だけで考えるとシェアが取れていないことがわかり、自社は「チャレンジャー」的なポジションに居ることがわかります。
ステップ2:⾃社製品の商品ポートフォリオを4つの役割ごとに整理する。
ロールポジション分析を用いて、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類・整理していきます。
<4つの役割>
- エントリー:量単価(内容量1gあたりの値段など)は高いが、容量が少なく、価格を抑えた製品。商品カテゴリーに馴染みのない顧客が、手軽に購入してもらいやすくし、気に入った場合にはメインの商品の購入に繋げる導入の役割がある。
- メイン:顧客に最も頻繁に購入される製品で、容量・価格・量単価すべてが商品ラインナップの中で「スタンダードな基準」となる製品。
- アップサイズ:大容量サイズやセット商品など、容量が増え、価格も高くなるが、量単価が安くなることでお買い得に購入できる商品。
- プレミアム:より高い価値を求めるターゲット層向けの、メイン商品の機能以外に高い付加価値が付いた商品。量単価が高いのが特徴。
ここで4つの役割に分類することで、役割ごとの製品のありなし、単価の整合性を見ることが出来るだけでなく、他社と比較して「シェアが取れている商品が何か」「チャレンジャーとして対抗すべき商品が何か」「これからシェアを伸ばせる商品は何か」など、商品個別の価格戦略を考えていくことが可能です。
ステップ3:競合製品も同じように整理する。
競合商品のラインナップも自社商品と同様に4つの役割に分類していきます。
上記図は、「惣菜」を例に自社製品と競合製品を4つの役割に分類した図です。
加えて、POSデータ上でのシェア順位や割合も合わせて記載することで、メイン商品・アップサイズ商品ではシェアが取れているが、プレミアム商品では他社にシェアを取られているなど、自社と他社の状況を俯瞰的に把握することが可能です。
ステップ4:競争地位に応じた取るべき戦略を検討・判断する。
自社商品と他社商品を比較した後、事業方針に応じてどの商品で、どんなポジション戦略を取っていくかを個別に検討し判断していきます。
上記図は、「ヘアスプレー」を例に、競合他社(競争地位:リーダー)に追随している自社(競争地位:チャレンジャー)が検討している戦略の一例です。
競合他社は、メイン商品の市場シェアが1~3位の上位を独占しており、その他、エントリー・アップサイズ・プレミアム商品をそれぞれ展開しています。
チャレンジャーである自社は、アップサイズの一部の製品でシェア4位を取っているが、その他の商品ではシェアが取れていないため、下記の様な戦略を検討しています。
<戦略立案例>
- エントリー:自社がエントリーとして認識している商品は、果たして新規顧客層にとってエントリーとしてのポジションにあるのだろうか?より小ぶりな商品が必要ではないか?など、容量・価格・量単価においてエントリー商品の役割をどう定義するのか、役割の見直しを検討する。
- メイン:市場シェア1~3位を独占する競合製品と比較し、自社商品は容量が少ない割に価格が高く、量当たり単価も高くなっている。そこで、価格を下げるか、量単価を下げるなどの価格の見直しを検討する。
- アップサイズ:一部の製品では市場シェア4位を取れているが、競合他社から追随されている状態。そこで競合の追随に対し、どの商品であれば、容量・価格・量単価で対抗できるか検討する。
- プレミアム:自社にはプレミアムにあたる高付加価値製品がない。競合に追随すべく、プレミアム商品の開発を検討する。
まとめ
今回は、日用消費財業界の価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップのうち、STEP1の戦略立案方法について解説いたしました。
「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」←本記事
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」
戦略が固まったら、次は「金額を決める」ステップに移ります。
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」については、5/29掲載予定『日用消費財業界の最適価格の求め方を徹底解説』にて解説いたします。
プライシングスタジオでは、日用消費財業界の価格決定のコンサルティング支援を行っており、不明点や自社の最適な価格決定を実現したい事業者様は、お気軽にプライシングスタジオまでお問い合わせください。
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「どんなフレームワークや分析が必要になるんだろう…」
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価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップをご紹介しました。
「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」
今回は、そのうち「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」の戦略立案方法について、「実際にどのように戦略を立案していくべきなのか?」を実務ベースに解説いたします。
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」については、5/29掲載予定「日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説」にて解説いたします。
全部で3部構成となっておりますので、まだ前回の記事をお読みでない方は、下記のリンクよりお読みください。
第1部:『日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説』
目次
価格戦略の立案に欠かせない2つの分析手法
前回の記事でもご紹介した通り、野村総合研究所の「⽣活者1万⼈アンケート調査」(9回⽬)の調査結果から、消費者の商品を買う際の判断基準の傾向に大きな変化があることが分かりました。
消費者の判断基準が「安さ重視」から「高くても自分が気に入った商品を買う(プレミアム消費)」へ変化してきている今、価格を考える上で、企業は自社の立ち位置をより意識し、差別化するためのより練られた価格戦略が重要です。
市場での自社の⽴ち位置を整理・把握し、戦略を考えていくためには、下記2つの分析手法が有効です。
<価格戦略立案に欠かせない2つの分析手法>
- STP分析
- ロールポジション分析
STP分析
STP分析とは、S(セグメンテーション)T(ターゲティング)P(ポジショニング)の略称で、市場の中で自社の⽴ち位置を整理・把握するために有効なフレームワークです。
S(セグメンテーション)で市場を細分化し、T(ターゲティング)で参入する市場を定め、P(ポジショニング)でどのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していくことができます。
ロールポジション分析
ロールポジション分析とは、STP分析のP(ポジショニング)の中で使えるフレームワークで、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類し整理することで、役割ごとの製品のありなし、単価の整合性を見ることができ、戦略の指針とすることが可能です。
また、自社製品と競合製品のPOSデータ(販売実績データ)などのデータを元にロールポジション分析上で並べて比較することで競合優位性がとれている製品と、取れていない製品を明確にできます。これらの情報から、自社がとるべき戦略などを考えることができます。
STP分析のやり方と手順
STP分析の目的
STP分析を実行していく目的としては、市場における、自社の顧客像や製品の立ち位置を把握することで、戦略を考える上で必要な土台を整えることです。
他社との競争に効果的に勝つためには、⾃社が狙っていくターゲットの標準を、自社が最も「満⾜」を提供する可能性が⾼い消費者に標準を合わせる必要があります。
その際に、誤って他の企業と同じ市場セグメントを追求してしまうと、もっと収益が上がるはずのセグメントを⾒逃してしまうことになります。 正しく市場を分析し、追求することで、自社の立ち位置を精度高く把握することができ、戦略を考える上で必要な土台ができるのです。
STP分析の3つのフレーム
次にSTP分析の実施に必要な下記3つのフレームについて理解を深めていきましょう。
セグメンテーション
市場を細分化するプロセスです。ニーズや選好の異なる購買者グループを特定し、その特徴を明らかにします。
市場を細分化する軸としては、下記4つの軸が用いられます。
<市場を分類する4つの軸>
①地理軸:市場を国、州、地域、郡、地元エリアといった多様な地理的に単位で市場を細分化
②人口動態軸(デモグラフィック):年齢、世帯規模、家族のライフサイクル、性別、所得、職業、教育⽔準、宗教、⼈種、世 代、国籍、社会階層等によって、市場を細分化
③社会⼼理学軸(サイコグラフィック):⼼理⾯や性格の特徴、ライフスタイル、価値観に基づいて市場を細分化
④行動学軸:製品に対する知識、態度、使用法、反応に基づいて細分化
ターゲティング
参⼊する市場を選ぶプロセスです。 ⾃社にとって最も収益性や⽬的の実現に近づける市場を決定します。
市場の決定方法としては、下記5パターンが挙げられます。
ポジショニング
参入市場に対して⾃社の市場提供物の明確なベネフィットを確⽴し、どのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していくプロセスです。
取るべきポジショニングの戦略を判断する際には、先述したロールポジション分析を活用します。
ロールポジション分析で、商品ごとに自社と競合の立ち位置を把握し、後述する自社の競争地位に応じたとるべき戦略を検討します。
セグメンテーションのやり方
セグメンテーションをする際に持つべき5つの観点と評価方法
ただ闇雲に市場を細かく細分化するだけでは意味を成しません。
市場を細分化する際には、上述の4つの軸(地理軸・人口動態軸・社会⼼理学軸・行動学軸)を参考に切り分けつつ、以下の5つの観点を持って細分化することが大切です。
①測定可能性:セグメントの規模、購買力、特性を測定できるかどうかという視点です。
②利益確保可能性:セグメントが製品やサービスを提供するのに十分な規模と収益性を有しているのかどうかという視点です。
③接近可能性:セグメントに効果的に到達し、製品やサービスを提供できるのかという視点です。
④差別化可能性:セグメントが概念的に区別できるかどうかという視点です。
⑤実⾏可能性:セグメントを引き付けて製品とサービスを提供するのに、効果的な成果を出すことができるかどうかという視点です。
- ニーズに基づいた細分化を⾏う
- 特定の消費問題を解決する際に顧客が求める類似したニーズやベネフィットに基づき、顧客をセグメントにわけます。
- セグメントの「特徴」を特定する
- 分類したセグメントをどのような要因が特徴づけているのか判断する必要があります。
具体的にセグメントを特徴づける要因としては、消費者のライフスタイルや、デモグラフィックス、使用行動などがあります。
- 分類したセグメントをどのような要因が特徴づけているのか判断する必要があります。
- セグメントの「魅⼒」を判断する
- あらかじめ規定されたセグメントの魅力度の基準(市場成長性、競争の激しさ、市場アクセスなど)を使い、各セグメントの全体としての魅力を判断します。
- セグメントの「収益性」を判断する
ターゲティングのやり方
市場を細分化し、評価が完了したら、参⼊する市場を選んでいきます。
ターゲティングの5つのアプローチ方法
参入市場の選び方として、5つのアプローチ方法が存在します。
それぞれ見ていきましょう。
①単一セグメントへの集中
単一セグメントとは名前の通り、ある特定のセグメントに特化した商品やサービスを提供することです。
メリットは、特化したセグメントのニーズについてより多くの知識を得て、強力な存在感を持つことができます。
自動車会社のフォルクスワーゲンは、小型車市場に、ポルシェはスポーツカー市場に集中することで、成功しています。
デメリットとして、ある特定のセグメントに特化することは高いリスクを伴います。
特定の市場セグメントとの状況が悪化したり、競合会社がそのセグメントに参入してくる可能性もあります。
その事例としてポラロイド社が挙げられます。 ポロライド社はデジタルカメラ技術が生まれ、インスタント写真に特化していたポロライド社の売上は大きく落ちこみました。このように高いリスクが伴うため、多くの企業は複数の市場セグメントに事業を分散させることを好みます。
企業の目的に合わせて、魅力的かつ適切な複数のセグメントに絞り、対象とすることです。
メリットはそれぞれ自社の商品やサービスに適していると判断され、選ばれたセグメントなので、高い収益性が期待できます。またリスクを分散させる効果もあります。
事例としては、P&Gがクレスト・ホワイトストリップスを発売した際、標的セグメントには、結婚間近な女性に加え、同性愛者の男性も含まれていました。
③製品専⾨化
いくつかのセグメントに販売できる1種類の商品に特化することです。
メリットは、特定の製品エリアにおいて評価を得ることができることです。
事例として、顕微鏡メーカーは、顕微鏡という一つの製品に特化していますが、標的セグメントは大学の研究室や、政府の研究機関、企業の研究部門など複数のセグメントが存在しています。
④市場専⾨家
特定の顧客グループの多数のニーズを満たすことに集中します。
メリットは、この顧客グループから高い評価が得られると、このグループに別の商品を売り込むことができることです。
事例としては、研究室にのみに多様な製品を販売する企業が挙げられます。
デメリットとしては、特定の顧客グループが予算を削ったり、財政が悪化したりすると、売上が落ちこむリスクがあることです。
⑤市場のフルカバレッジ
全ての顧客グループに彼らが求めるあらゆる製品を提供することです。巨大企業のみができる戦略です。
事例としては、コカ・コーラ(飲料メーカー)やIBM(コンピューター市場)、GM(自動車市場)などがあります。
この戦略の中にも「差別型マーケティング」と「無差別型マーケティング」があります。
<無差別型マーケティング>
「無差別型マーケティング」は市場セグメントの違いを無視し、単一の製品やサービスで市場全体を対象とします。
メリットとしては、製品ラインが少ないため、研究開発、製造、在庫管理、輸送、マーケティング・リサーチ、広告、製品管理に関するコストを抑えることができます。
デメリットとしては、企業は最大多数の購買者にアピールする必要があるため、莫大な予算が必要となるので、大きな企業しかできない戦略ともいえるでしょう。
<差別型マーケティング>
「差別型マーケティング」は企業が複数のセグメントに事業を展開し、セグメントごとに異なる製品を設計します。
一般的に差別型マーケティングのほうが、無差別型マーケティングよりもコストがかかると言われています。
考慮する点としては、コスト面からは、「製品改良コスト」「製造コスト」「マーケティング管理コスト」「在庫管理コスト」「プロモーションコスト」があります。
ポジショニングのやり方
セグメンテーション、ターゲティングの操作が終わったら、どのような立ち位置で参入するのか、自社が取るべきポジショニング戦略を判断していきます。
ポジショニングは、4つのステップで進めていきます。
<ポジショニングの4つのステップ>
- POSデータを活用し、自社の競争地位を把握する。
- ⾃社製品の商品ポートフォリオを4つの役割ごとに整理する。
- 競合製品も同じように整理する。
- 競争地位に応じた取るべき戦略を検討・判断する。
競争地位と取るべき戦略
4つのステップのご説明の前に、「競争地位の種類」と「地位ごとの取るべき戦略」を解説していきます。
競争地位①:リーダー
- リーダーの特徴:関連製品の市場で最⼤の市場シェアを誇っています。そして通常、価格変更、新製品導⼊、 流通範囲、プロモーションの⾯で他社をリードしています。
- リーダーの取るべき戦略:基本方針としては、全方位戦略をとり、自社シェアの維持や市場の拡大をさせることが戦略的目標になります。
競争地位②:チャレンジャー
- チェレンジャーの特徴:業界で第2位、第3位、あるいは更に低い地位にある企業はしばしば2番⼿企業もしくは追⾛企業と⾔われます。
- チャレンジャーの取るべき戦略:市場戦略による利益への影響を分析するPIMS研究によると、一般的にシェアが高まれば収益性が高まることがわかっています。そのため、基本方針としては差別化戦略を取り、攻撃対象を明確にして競合他社の弱点をつくなどしてシェアを高めることが戦略目標になります。
競争地位③:フォロワー
- フォロワーの特徴:リーダーに挑戦するよりも、追随する傾向にあります。リーダーを追い越す可能性は低いですが、イノベーション費用を負担していないため、高い利益を挙げることができます。
- フォロワーの取るべき戦略:基本方針としては、模倣戦略を取り、製品開発コストを抑えて高収益を達成させることが戦略目標となります。
競争地位④:ニッチャー
- ニッチャーの特徴:大規模市場でのシェア率が低くても、小規模市場すなわちニッチャーでリーダーになる道もあります。
- ニッチャーの戦略:基本方針としては、集中戦略を取り、扱い商品の価格帯や販売チャネルなどを限定して専門化することで収益を高めることが戦略目標になります。
ポジショニングの4つの実行ステップと戦略立案例
競争地位と取るべき戦略が理解できたら、早速実行ステップを進めていきましょう。
ステップ1:POSデータを活用し、自社の競争地位を把握する。
POSデータをバブルチャートに整理することで、
- 自社がシェアを取れている商品はどういった価格帯・容量帯の商品なのか?
- 自社がシェアを取れていない・取っていくべき商品はどういった価格帯・容量帯の商品なのか?
などを視覚的に明らかにすることが可能です。
例えば、こちらのバブルチャートをご覧ください。
各容量と各平均価格ごとにバルブが分布しており、オレンジ色は自社商品、グレー色は他社商品のバルブを表しています。
バルブの大きさは、その商品の当期売上金額に比例した大きさになっており、他社のバルブより大きければ大きいほど、その容量帯・価格帯で自社がシェアを取っていることを表しています。
この図からは、容量200~500gの層では、自社の売上が最も大きく「リーダー」のポジションが取れていることがわかります。
しかし、小容量100~200gと大容量500~700gの層では、他社商品は存在しているものの、自社製品はない状態となっております。小容量層と大容量層だけで考えるとシェアが取れていないことがわかり、自社は「チャレンジャー」的なポジションに居ることがわかります。
ステップ2:⾃社製品の商品ポートフォリオを4つの役割ごとに整理する。
ロールポジション分析を用いて、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類・整理していきます。
<4つの役割>
- エントリー:量単価(内容量1gあたりの値段など)は高いが、容量が少なく、価格を抑えた製品。商品カテゴリーに馴染みのない顧客が、手軽に購入してもらいやすくし、気に入った場合にはメインの商品の購入に繋げる導入の役割がある。
- メイン:顧客に最も頻繁に購入される製品で、容量・価格・量単価すべてが商品ラインナップの中で「スタンダードな基準」となる製品。
- アップサイズ:大容量サイズやセット商品など、容量が増え、価格も高くなるが、量単価が安くなることでお買い得に購入できる商品。
- プレミアム:より高い価値を求めるターゲット層向けの、メイン商品の機能以外に高い付加価値が付いた商品。量単価が高いのが特徴。
ここで4つの役割に分類することで、役割ごとの製品のありなし、単価の整合性を見ることが出来るだけでなく、他社と比較して「シェアが取れている商品が何か」「チャレンジャーとして対抗すべき商品が何か」「これからシェアを伸ばせる商品は何か」など、商品個別の価格戦略を考えていくことが可能です。
ステップ3:競合製品も同じように整理する。
競合商品のラインナップも自社商品と同様に4つの役割に分類していきます。
上記図は、「惣菜」を例に自社製品と競合製品を4つの役割に分類した図です。
加えて、POSデータ上でのシェア順位や割合も合わせて記載することで、メイン商品・アップサイズ商品ではシェアが取れているが、プレミアム商品では他社にシェアを取られているなど、自社と他社の状況を俯瞰的に把握することが可能です。
ステップ4:競争地位に応じた取るべき戦略を検討・判断する。
自社商品と他社商品を比較した後、事業方針に応じてどの商品で、どんなポジション戦略を取っていくかを個別に検討し判断していきます。
上記図は、「ヘアスプレー」を例に、競合他社(競争地位:リーダー)に追随している自社(競争地位:チャレンジャー)が検討している戦略の一例です。
競合他社は、メイン商品の市場シェアが1~3位の上位を独占しており、その他、エントリー・アップサイズ・プレミアム商品をそれぞれ展開しています。
チャレンジャーである自社は、アップサイズの一部の製品でシェア4位を取っているが、その他の商品ではシェアが取れていないため、下記の様な戦略を検討しています。
<戦略立案例>
- エントリー:自社がエントリーとして認識している商品は、果たして新規顧客層にとってエントリーとしてのポジションにあるのだろうか?より小ぶりな商品が必要ではないか?など、容量・価格・量単価においてエントリー商品の役割をどう定義するのか、役割の見直しを検討する。
- メイン:市場シェア1~3位を独占する競合製品と比較し、自社商品は容量が少ない割に価格が高く、量当たり単価も高くなっている。そこで、価格を下げるか、量単価を下げるなどの価格の見直しを検討する。
- アップサイズ:一部の製品では市場シェア4位を取れているが、競合他社から追随されている状態。そこで競合の追随に対し、どの商品であれば、容量・価格・量単価で対抗できるか検討する。
- プレミアム:自社にはプレミアムにあたる高付加価値製品がない。競合に追随すべく、プレミアム商品の開発を検討する。
まとめ
今回は、日用消費財業界の価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップのうち、STEP1の戦略立案方法について解説いたしました。
「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」←本記事
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」
戦略が固まったら、次は「金額を決める」ステップに移ります。
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」については、5/29掲載予定『日用消費財業界の最適価格の求め方を徹底解説』にて解説いたします。
プライシングスタジオでは、日用消費財業界の価格決定のコンサルティング支援を行っており、不明点や自社の最適な価格決定を実現したい事業者様は、お気軽にプライシングスタジオまでお問い合わせください。
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