(この記事は、『日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説』の続きの記事です。)
「日用消費財業界の価格戦略とは?」
「どんなフレームワークや分析が必要になるんだろう…」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?
前回の記事では、食品・消費財メーカー向けに、日用消費財業界の動向と、
価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップをご紹介しました。
今回は、そのうち「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」の戦略立案方法について、「実際にどのように戦略を立案していくべきなのか?」を実務ベースに解説いたします。
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」については、5/29掲載予定「日用消費財業界の『最適価格の求め方』を徹底解説」にて解説いたします。
全部で3部構成となっておりますので、まだ前回の記事をお読みでない方は、下記のリンクよりお読みください。
第1部:『日用消費財業界の価格戦略とは?業界の動向や戦略の流れを解説』
目次
前回の記事でもご紹介した通り、野村総合研究所の「⽣活者1万⼈アンケート調査」(9回⽬)の調査結果から、消費者の商品を買う際の判断基準の傾向に大きな変化があることが分かりました。
消費者の判断基準が「安さ重視」から「高くても自分が気に入った商品を買う(プレミアム消費)」へ変化してきている今、価格を考える上で、企業は自社の立ち位置をより意識し、差別化するためのより練られた価格戦略が重要です。
市場での自社の⽴ち位置を整理・把握し、戦略を考えていくためには、下記2つの分析手法が有効です。
<価格戦略立案に欠かせない2つの分析手法>
STP分析とは、S(セグメンテーション)T(ターゲティング)P(ポジショニング)の略称で、市場の中で自社の⽴ち位置を整理・把握するために有効なフレームワークです。
S(セグメンテーション)で市場を細分化し、T(ターゲティング)で参入する市場を定め、P(ポジショニング)でどのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していくことができます。
ロールポジション分析とは、STP分析のP(ポジショニング)の中で使えるフレームワークで、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類し整理することで、役割ごとの製品のありなし、単価の整合性を見ることができ、戦略の指針とすることが可能です。
また、自社製品と競合製品のPOSデータ(販売実績データ)などのデータを元にロールポジション分析上で並べて比較することで競合優位性がとれている製品と、取れていない製品を明確にできます。これらの情報から、自社がとるべき戦略などを考えることができます。
STP分析を実行していく目的としては、市場における、自社の顧客像や製品の立ち位置を把握することで、戦略を考える上で必要な土台を整えることです。
他社との競争に効果的に勝つためには、⾃社が狙っていくターゲットの標準を、自社が最も「満⾜」を提供する可能性が⾼い消費者に標準を合わせる必要があります。
その際に、誤って他の企業と同じ市場セグメントを追求してしまうと、もっと収益が上がるはずのセグメントを⾒逃してしまうことになります。 正しく市場を分析し、追求することで、自社の立ち位置を精度高く把握することができ、戦略を考える上で必要な土台ができるのです。
次にSTP分析の実施に必要な下記3つのフレームについて理解を深めていきましょう。
市場を細分化するプロセスです。ニーズや選好の異なる購買者グループを特定し、その特徴を明らかにします。
市場を細分化する軸としては、下記4つの軸が用いられます。
<市場を分類する4つの軸>
①地理軸:市場を国、州、地域、郡、地元エリアといった多様な地理的に単位で市場を細分化
②人口動態軸(デモグラフィック):年齢、世帯規模、家族のライフサイクル、性別、所得、職業、教育⽔準、宗教、⼈種、世 代、国籍、社会階層等によって、市場を細分化
③社会⼼理学軸(サイコグラフィック):⼼理⾯や性格の特徴、ライフスタイル、価値観に基づいて市場を細分化
④行動学軸:製品に対する知識、態度、使用法、反応に基づいて細分化
参⼊する市場を選ぶプロセスです。 ⾃社にとって最も収益性や⽬的の実現に近づける市場を決定します。
市場の決定方法としては、下記5パターンが挙げられます。
参入市場に対して⾃社の市場提供物の明確なベネフィットを確⽴し、どのような立ち位置で参入するのかを整理・把握していくプロセスです。
取るべきポジショニングの戦略を判断する際には、先述したロールポジション分析を活用します。
ロールポジション分析で、商品ごとに自社と競合の立ち位置を把握し、後述する自社の競争地位に応じたとるべき戦略を検討します。
ただ闇雲に市場を細かく細分化するだけでは意味を成しません。
市場を細分化する際には、上述の4つの軸(地理軸・人口動態軸・社会⼼理学軸・行動学軸)を参考に切り分けつつ、以下の5つの観点を持って細分化することが大切です。
市場を細分化し、評価が完了したら、参⼊する市場を選んでいきます。
参入市場の選び方として、5つのアプローチ方法が存在します。
それぞれ見ていきましょう。
①単一セグメントへの集中
単一セグメントとは名前の通り、ある特定のセグメントに特化した商品やサービスを提供することです。
メリットは、特化したセグメントのニーズについてより多くの知識を得て、強力な存在感を持つことができます。
自動車会社のフォルクスワーゲンは、小型車市場に、ポルシェはスポーツカー市場に集中することで、成功しています。
デメリットとして、ある特定のセグメントに特化することは高いリスクを伴います。
特定の市場セグメントとの状況が悪化したり、競合会社がそのセグメントに参入してくる可能性もあります。
その事例としてポラロイド社が挙げられます。 ポロライド社はデジタルカメラ技術が生まれ、インスタント写真に特化していたポロライド社の売上は大きく落ちこみました。このように高いリスクが伴うため、多くの企業は複数の市場セグメントに事業を分散させることを好みます。
企業の目的に合わせて、魅力的かつ適切な複数のセグメントに絞り、対象とすることです。
メリットはそれぞれ自社の商品やサービスに適していると判断され、選ばれたセグメントなので、高い収益性が期待できます。またリスクを分散させる効果もあります。
事例としては、P&Gがクレスト・ホワイトストリップスを発売した際、標的セグメントには、結婚間近な女性に加え、同性愛者の男性も含まれていました。
③製品専⾨化
いくつかのセグメントに販売できる1種類の商品に特化することです。
メリットは、特定の製品エリアにおいて評価を得ることができることです。
事例として、顕微鏡メーカーは、顕微鏡という一つの製品に特化していますが、標的セグメントは大学の研究室や、政府の研究機関、企業の研究部門など複数のセグメントが存在しています。
④市場専⾨家
特定の顧客グループの多数のニーズを満たすことに集中します。
メリットは、この顧客グループから高い評価が得られると、このグループに別の商品を売り込むことができることです。
事例としては、研究室にのみに多様な製品を販売する企業が挙げられます。
デメリットとしては、特定の顧客グループが予算を削ったり、財政が悪化したりすると、売上が落ちこむリスクがあることです。
⑤市場のフルカバレッジ
全ての顧客グループに彼らが求めるあらゆる製品を提供することです。巨大企業のみができる戦略です。
事例としては、コカ・コーラ(飲料メーカー)やIBM(コンピューター市場)、GM(自動車市場)などがあります。
この戦略の中にも「差別型マーケティング」と「無差別型マーケティング」があります。
<無差別型マーケティング>
「無差別型マーケティング」は市場セグメントの違いを無視し、単一の製品やサービスで市場全体を対象とします。
メリットとしては、製品ラインが少ないため、研究開発、製造、在庫管理、輸送、マーケティング・リサーチ、広告、製品管理に関するコストを抑えることができます。
デメリットとしては、企業は最大多数の購買者にアピールする必要があるため、莫大な予算が必要となるので、大きな企業しかできない戦略ともいえるでしょう。
<差別型マーケティング>
「差別型マーケティング」は企業が複数のセグメントに事業を展開し、セグメントごとに異なる製品を設計します。
一般的に差別型マーケティングのほうが、無差別型マーケティングよりもコストがかかると言われています。
考慮する点としては、コスト面からは、「製品改良コスト」「製造コスト」「マーケティング管理コスト」「在庫管理コスト」「プロモーションコスト」があります。
セグメンテーション、ターゲティングの操作が終わったら、どのような立ち位置で参入するのか、自社が取るべきポジショニング戦略を判断していきます。
ポジショニングは、4つのステップで進めていきます。
<ポジショニングの4つのステップ>
4つのステップのご説明の前に、「競争地位の種類」と「地位ごとの取るべき戦略」を解説していきます。
競争地位①:リーダー
競争地位②:チャレンジャー
競争地位③:フォロワー
競争地位④:ニッチャー
競争地位と取るべき戦略が理解できたら、早速実行ステップを進めていきましょう。
ステップ1:POSデータを活用し、自社の競争地位を把握する。
POSデータをバブルチャートに整理することで、
などを視覚的に明らかにすることが可能です。
例えば、こちらのバブルチャートをご覧ください。
各容量と各平均価格ごとにバルブが分布しており、オレンジ色は自社商品、グレー色は他社商品のバルブを表しています。
バルブの大きさは、その商品の当期売上金額に比例した大きさになっており、他社のバルブより大きければ大きいほど、その容量帯・価格帯で自社がシェアを取っていることを表しています。
この図からは、容量200~500gの層では、自社の売上が最も大きく「リーダー」のポジションが取れていることがわかります。
しかし、小容量100~200gと大容量500~700gの層では、他社商品は存在しているものの、自社製品はない状態となっております。小容量層と大容量層だけで考えるとシェアが取れていないことがわかり、自社は「チャレンジャー」的なポジションに居ることがわかります。
ステップ2:⾃社製品の商品ポートフォリオを4つの役割ごとに整理する。
ロールポジション分析を用いて、自社商品のラインナップを4つの役割(エントリー・メイン・アップサイズ・プレミアム)に分類・整理していきます。
<4つの役割>
ここで4つの役割に分類することで、役割ごとの製品のありなし、単価の整合性を見ることが出来るだけでなく、他社と比較して「シェアが取れている商品が何か」「チャレンジャーとして対抗すべき商品が何か」「これからシェアを伸ばせる商品は何か」など、商品個別の価格戦略を考えていくことが可能です。
ステップ3:競合製品も同じように整理する。
競合商品のラインナップも自社商品と同様に4つの役割に分類していきます。
上記図は、「惣菜」を例に自社製品と競合製品を4つの役割に分類した図です。
加えて、POSデータ上でのシェア順位や割合も合わせて記載することで、メイン商品・アップサイズ商品ではシェアが取れているが、プレミアム商品では他社にシェアを取られているなど、自社と他社の状況を俯瞰的に把握することが可能です。
ステップ4:競争地位に応じた取るべき戦略を検討・判断する。
自社商品と他社商品を比較した後、事業方針に応じてどの商品で、どんなポジション戦略を取っていくかを個別に検討し判断していきます。
上記図は、「ヘアスプレー」を例に、競合他社(競争地位:リーダー)に追随している自社(競争地位:チャレンジャー)が検討している戦略の一例です。
競合他社は、メイン商品の市場シェアが1~3位の上位を独占しており、その他、エントリー・アップサイズ・プレミアム商品をそれぞれ展開しています。
チャレンジャーである自社は、アップサイズの一部の製品でシェア4位を取っているが、その他の商品ではシェアが取れていないため、下記の様な戦略を検討しています。
<戦略立案例>
今回は、日用消費財業界の価格戦略の立案・実行の流れについて下記の2ステップのうち、STEP1の戦略立案方法について解説いたしました。
「STEP1:市場の⽴ち位置を把握し、戦略を考える」←本記事
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」
戦略が固まったら、次は「金額を決める」ステップに移ります。
「STEP2:価格の分析を⾏い、最適価格を決定する」については、5/29掲載予定『日用消費財業界の最適価格の求め方を徹底解説』にて解説いたします。
プライシングスタジオでは、日用消費財業界の価格決定のコンサルティング支援を行っており、不明点や自社の最適な価格決定を実現したい事業者様は、お気軽にプライシングスタジオまでお問い合わせください。
プライシングスタジオが提供するホワイトペーパーも配布中!
日用消費財業界の事業成長に向けた価格戦略の考え方と価格検討プロジェクトのフレームワークを収録した資料もダウンロードいただくことが可能です。