「PSM分析のやり方がわからない」 「適正価格はどう設定したら良いんだろう」「そもそもPSM分析は実用性があるの?」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?
今回は「価格」の分析手法であるPSM分析の具体的な実施プロセスについてまとめました。
この記事は、以下のような方におすすめの記事です。
- PSM分析とはどんな方法なのか?を知りたい
- PSM分析の調査・分析⽅法を知りたい
- PSM分析の実務レベルでの活⽤⽅法を知りたい
全部で3部構成となっており、本記事では、「PSM分析の基礎と実施プロセスの全体像」を解説します。
- PSM分析の基礎と実施プロセスの全体像 → 第1部(本記事)
- 実施プロセスの具体的な業務内容 → 第2部(4/21掲載予定)
- 価格体系の種類とメリット・デメリット一覧 → 第3部(4/28掲載予定)
第1部~第3部まで通して読んでいただくことで、PSM分析を、基礎から実施方法まで理解でき、実務として活用できるようになります。ぜひ最後までご一読ください!
目次
1.PSM分析とは
1-1. PSM分析の「基本」
PSM分析(価格感応度分析)とは、顧客がある商品に対して、どれくらいの範囲で価格を受け入れるのかを調査するために使われる手法です。
PSMとは、「Pricing Sensitivity Meter」 の略であり、これらの頭文字をとってPSMというネーミングとなっています。オランダの経済学者「Van Westendorp」 によって開発されたモデルであることからVan Westendorp モデルと呼ばれることもあります。
PSM分析は価格に関する4つの質問を行い、その結果を分析することで、商品・サービスがどの程度の価格なら最も顧客に受け入れられるかを把握することができ、売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算することが可能です。
アンケートの設問文として、以下4つの項目を聞きます。
- その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?
1-2. PSM分析で「得られること」
調査結果を集計すると以下4点のような指標が出てきます。
- 理想価格:最も価格拒否感が少ないと見られる価格(「安すぎて品質が低い」価格と「高すぎて検討に乗らない」価格の交点)
- 妥協価格:高い・安いの評価が分かれる価格(「安く感じる」価格と「高く感じる」価格の交点)
- 最高価格:これ以上高くなると、消費者の購入されなくなると見られる価格(「安く感じる」価格と「高すぎて検討に乗らない」価格の交点)
- 最低品質保証価格:これ以上安くなると、消費者が「品質が悪いのではないかと不安になる」と感じる価格(「安すぎて品質が悪い」価格と「高く感じる」価格の交点)
よく上記4つの交点のみで調査終了と思われるケースが多いですが、実⽤性を⾼めるのであれば、より分析を進め、下記2つの指標を明らかにしていくことをおすすめします。
- 売上最⼤価格(売上が最⼤化する価格)
- 顧客最⼤価格(顧客数が最⼤化する価格)
1-3. PSM分析の「活⽤シーン」
PSM分析がよく活用されるシーン3つをご紹介します。
- 新製品の価格設定のタイミング
新しい製品を開発するときは、製品の価格に対する消費者の反応を把握することが重要です。
PSM分析を実施することで、製品が市場にどの程度需要があるか、どの価格帯で需要が最大化されるか、また競合他社の価格と比較した場合の競争力を判断することができます。
- 既存製品の価格変更を検討するタイミング
既存の製品の価格変更を検討する場合は、消費者が価格変更にどのように反応するかを理解することが重要です。
PSM分析を実施することで、価格変更によって需要がどの程度変化するか、価格変更によって受ける損失を最小限に抑えることができる価格帯は何かを評価することができます。
- サービス価値を把握したいタイミング
何かしらサービスを提供している場合、サービスの価値を価格以外も把握することが重要です。
PSM分析を使用することで、サービスに対する顧客のニーズと要件を評価し、顧客がサービスにどの程度価値を見出しているかを理解することができます。これにより、サービスを改善することができ、顧客満足度を向上させることができます。
1-4. PSM分析の「よくある誤解」
PSM分析に対するよくある誤解について解説します。
- 【誤解1】PSM分析は⽀払意欲が把握できるだけで、実⽤性が薄い。
【 回答】PSM分析は顧客セグメント等と掛け合わせて分析することが⾮常に重要です。PSM分析から把握した⽀払意欲から様々な⽰唆を見出すことで実用性は高まります。
PSM分析と顧客セグメントを掛け合わせることで、支払い意欲に違いが有る顧客の特徴を見出すことが出来ます。
つまり、「支払い意欲が高い層は〇〇のような特徴があると考えられる」「支払い意欲が低い層は〇〇のような特徴があると考えられる」といった仮説を明らかにすることが出来るのです。
よく聞く 4つの交点はわかりやすい反⾯、学術的な側⾯からの根拠は提⽰されていません。交点だけではまだ根拠を持った価格決定ができる判断材料になっていないため実用性は低いです。
- 【誤解2】PSM分析で取得する⽀払意欲に信頼性はあるの?
【回答】PSM分析で取得できるデータは、信頼性が高いと⾔われています。直接質問法やCVM法などの他の⼿法と⽐べて、回答バイアスがかかりづらいと言われているからです。
直接質問法というのは、潜在的な購入者に対し、「〇〇(対象となる商品・サービス)をいくらなら買いたいと思いますか?」といったように製品に支払う金額を直接聞くというシンプルな手法です。この聞き方には潜在的な購入者が企業に対して、価格を下げるように交渉したいという回答バイアスが働き、実際の支払い意欲よりも低い価格で回答が集まるという欠点があります。
また、CVM分析は、「この商品が3000円だったら、購入したいと思いますか?」という質問を行い、「はい」と答えた場合、「3500円だったら、購入したいと思いますか?」などの質問を何度も繰り返していきます。あまりにも高い金額を提示しすぎると回答者が高い提示額につられて高い支払意思額を回答してしまったり、高い提示額に対する一部の支払い賛成回答によって、支払意思額の平均が高めに推定されてしまうなどのリスクが発生します。
一方、PSM分析は直接的に購入したい価格を尋ねるのではなく、製品・サービスの価格に対する顧客の感覚を把握するのが特徴のため、PSM分析のほうが回答バイアスが低く信頼性が高いと言われているのです。
2. PSM分析のメリット・デメリット
2-1. PSM分析のメリット
PSM分析を活⽤するメリットは3点あります。
①⾃由記述にて回答した価格のデータが得られるため、顧客視点での価格設定に活用できる。
自由記述形式なので回答バイアスがかかりづらく、直接質問法と違って、実際の支払い意欲よりも低い価格で回答が集まるリスクが低いです。
②設問数が少なくて済む。
4つの決まった設問文で実施できます。
③調査結果に基づいて根拠のある価格設定が可能。
勘や感覚ではなく、購買者の支払い意欲に基づいた数値やグラフで判断できます。
2-2. PSM分析のデメリット
PSM分析を活⽤するデメリットは2点あります。
①⼀般的なPSMで求める4つの交点の実⽤性が低いため、分析⽅法に⼯夫が必要。
先述した通り、4つの交点はあまり参考となる数値ではなく、顧客セグメント等と掛け合わせて分析することが⾮常に重要です。
実際、上限価格以上でも「購入が検討に乗る人」はいますし、同様に下限価格以下でも「品質が悪いと思わない人」が存在します。最適価格に関しても、本来顧客が最大化する価格は「安すぎて品質が低いと思う人」と、「高すぎて検討に乗らないと思う人」が最小となる価格であり、必ずしも交点と一致するとは限らないのです。
②原価等コストを加味しないと、実現性の薄い価格が算出される。
顧客視点での支払い意欲を調査しているため、コスト的観点からの価格は考慮されていないです。最終的な価格決定の際には、コスト的観点から実現可能かどうかを確認する必要があります。
3. PSM分析の実施プロセス(自力で行う場合)
早速PSM分析の実施プロセスについて解説していきます。全体の流れとしては7つのステップで進んでいきます。
- ステップ1:目標設定・価格仮説立案
- ステップ2:調査仮説の策定(顧客像と価格体系の仮説)
- ステップ3:アンケートの設問を考える
- ステップ4:調査対象の選定
- ステップ5:調査実施
- ステップ6:分析結果の⾒⽅
- ステップ7:価格の意思決定に活かす分析結果の加⼯の仕⽅
今回は、全体の流れをご理解いただくことにフォーカスしていますので、ステップごとの細かな業務内容については、「実施プロセスの具体的な業務内容(第2部)」(4/21公開予定)をお読みください。
4.PSM分析を活⽤した価格変更の事例
成功事例1:SaaS (SurveyMonkey)
SaaSの成功事例として、SurveyMonkeyの事例があります。
SurveyMonkeyはアンケート配信ツールを提供していることで有名なSaaS会社です。
価格を変えたことで、顧客数や売上が増加しました。
SaaSは価格体系の選択肢が多岐に渡るので、PSM分析のみで価格を決めるのは非常に難しいです。PSM分析とあらゆるアプローチを組み合わせて考えていく必要がありました。
SurveyMonkeyは、この価格変更の際に調査方法として「顧客セグメンテーション」「質的インタビュー」「PSM分析」の3つの手法を実施しました。
ここから言えることは、SaaSの価格を決めるときはPSM分析だけでは不十分ということです。
SurveyMonkeyの場合、顧客セグメンテーションと質的インタビューを行うことでPSM分析の精度を高めて価格を決めることに成功したと言えます。
成功事例2:サブスク(ネットフリックス)
サブスクの成功事例として、Netflix(ネットフリックス)が2021年2月に実施した値上げの事例があります。
Netflixは当時、ベーシックプランの月額料金を従来の880円から990円に、スタンダードプランの月額料金を従来の1320円から1490円に、それぞれ値上げしました。
一方、プレミアムプランについては1980円の価格を維持しました。
この件を受け、弊社独自で調査データを用いてシミュレーションを行いました。
料金プランごとに、料金がいくらで何%の顧客が増減するのかを可視化したところ、今回の値上げでは、いずれのプランにおいても、ユーザー数を維持できる範囲内で売り上げを最大にできる価格を選択していたことが分かりました。
この結果からも、Netflixは適切な調査方法に基づき、プランごとに適切な価格変更を行うことで、大幅な解約もなく売上も向上に成功しています。
<アンケート調査の概要>
- アンケート対象:実際にお金を支払って利用しているネットフリックスユーザー
- アンケート実施期間:2021/02/06~2021/02/07
- サンプル数:106件
- 調査内容:現行のプランの月額料金に対する支払い意欲、顧客属性情報(性別、年齢、居住人数、オリジナル作品の視聴有無、月間視聴時間、視聴デバイス、など)
成功事例3:⾷品(マクドナルド)
食品の成功事例として、かつて日本マクドナルドのCEOを務めていた原田泳幸氏が行ったマクドナルド改革の施策の1つ、2007年の「地域別価格」の導入の事例があります。
「地域別価格」は同じ商品であっても、東京都・神奈川県・大阪府・京都府では値段を上げ、宮城県・福島県・鳥取県・島根県では値下げをするという施策です。実は、海外ではこのように地域ごとに価格を変える施策は珍しくありません。
地域別価格の賛否について議論する場合、当然のように論点に上がるのがコストです。地域によって人件費や地価などの必要コストは変わりますし、特に飲食業態のような人件費や地価が利益率に大きく関わっているビジネスにおいてはなおさらです。コスト(原価)ベースプライシングという「コスト」を起点として価格を決める手法であれば、理にかなっているといえます。
しかし、当時のマクドナルドでは、少なくとも「コスト」を起点としたコスト(原価)ベースプライシングの発想でこの施策(地域別価格)を決めていなかったようです。
この施策は、どういう価格を設定すれば、最大の顧客が得られて、最大の利益につながるかという観点から導入したものだそうです。導入にあたっては、顧客の支払い意欲、原田氏の言葉では「プライス・センシティビティ(価格への受容性)」を考え、各地域の購買傾向を分析した末に1年がかりで各地域の価格を決定したということです。
これは居住する地域によっても、顧客の支払い意欲に差が出る可能性がある。少なくともマクドナルドの顧客においては、支払い意欲に差が出ているということです。この支払い意欲の差を基に、うまく価格設定をしたのが当時のマクドナルドです。
5.実際に寄せられたPSM分析に対する質問
- 【質問1】BtoBとBtoCで調査結果のあたりやすさやズレなどの差はあるか?
【回答】BtoCよりBtoBのほうが必要になるサンプル数が少ないケースが多いです。
理由としては、BtoBでは、担当者が予算を上申していたり決済をとりにいく関係で価格相場を覚えている⽅が多いため、少ないサンプル数でも妥当な回答が得られやすいためです。
- 【質問2】PSM分析をBtoBにて実施する場合、気をつける点は?
【回答】会社として払う⾦額なのか、個⼈で払う⾦額なのか、という点をしっかり明確にして聞く必要はあります。
- 【質問3】PSM分析をBtoCにて実施する場合、気をつける点は?
【回答】BtoCは⾊々な価値観の⽅が多く、回答される⾦額の幅が広いため、回答数が多く必要になります。
【補足】アンケート回答の精度と必要となるサンプルサイズについて
回答の精度が高い場合、必要なサンプルサイズは比較的小さくて済む可能性があります。
逆に回答の精度が低い場合、必要なサンプルサイズは比較的大きくする必要がある可能性があります。
これは、回答の精度が高いと、同じ程度の誤差率を許容した場合でも、統計的に有意な結果を得るために必要なサンプルサイズが減るためです。
逆に回答の精度が低い場合は、同じ程度の誤差率を許容した場合でも、統計的に有意な結果を得るために必要なサンプルサイズが増える傾向があります。
6.まとめ
今回はPSM分析について、基礎から実施方法の全体像を解説しました。
PSM分析は、製品・サービスの適正価格を導くために⽤いられる分析⼿法です。
顧客のアンケートにもとづき、顧客価値 から価格を算出することで、しっかりと根拠を持った適切な価格決定が実行できます。
続いて「実施プロセスの具体的な業務内容(第2部)」(4/21公開予定)を読み進めて頂くことで、より業務レベルでのPSM分析の実施プロセスについて理解することが可能です。
PSM分析について不明点がある方やバリューベースの価格設定を実現したい事業者様は、お気軽に、プライシングスタジオにお問い合わせください。
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SaaS・サブスク業界や日用消費財業界などの事業成長に向けた価格戦略の考え方と価格プロジェクトのフレームワークを収録した資料もダウンロードいただくことが可能です。
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- 実施プロセスの具体的な業務内容 → 第2部(4/21掲載予定)
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第1部~第3部まで通して読んでいただくことで、PSM分析を、基礎から実施方法まで理解でき、実務として活用できるようになります。ぜひ最後までご一読ください!
目次
1.PSM分析とは
1-1. PSM分析の「基本」
PSM分析(価格感応度分析)とは、顧客がある商品に対して、どれくらいの範囲で価格を受け入れるのかを調査するために使われる手法です。
PSMとは、「Pricing Sensitivity Meter」 の略であり、これらの頭文字をとってPSMというネーミングとなっています。オランダの経済学者「Van Westendorp」 によって開発されたモデルであることからVan Westendorp モデルと呼ばれることもあります。
PSM分析は価格に関する4つの質問を行い、その結果を分析することで、商品・サービスがどの程度の価格なら最も顧客に受け入れられるかを把握することができ、売り上げや顧客数を最大化できる価格を試算することが可能です。
アンケートの設問文として、以下4つの項目を聞きます。
- その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?
1-2. PSM分析で「得られること」
調査結果を集計すると以下4点のような指標が出てきます。
- 理想価格:最も価格拒否感が少ないと見られる価格(「安すぎて品質が低い」価格と「高すぎて検討に乗らない」価格の交点)
- 妥協価格:高い・安いの評価が分かれる価格(「安く感じる」価格と「高く感じる」価格の交点)
- 最高価格:これ以上高くなると、消費者の購入されなくなると見られる価格(「安く感じる」価格と「高すぎて検討に乗らない」価格の交点)
- 最低品質保証価格:これ以上安くなると、消費者が「品質が悪いのではないかと不安になる」と感じる価格(「安すぎて品質が悪い」価格と「高く感じる」価格の交点)
よく上記4つの交点のみで調査終了と思われるケースが多いですが、実⽤性を⾼めるのであれば、より分析を進め、下記2つの指標を明らかにしていくことをおすすめします。
- 売上最⼤価格(売上が最⼤化する価格)
- 顧客最⼤価格(顧客数が最⼤化する価格)
1-3. PSM分析の「活⽤シーン」
PSM分析がよく活用されるシーン3つをご紹介します。
- 新製品の価格設定のタイミング
新しい製品を開発するときは、製品の価格に対する消費者の反応を把握することが重要です。
PSM分析を実施することで、製品が市場にどの程度需要があるか、どの価格帯で需要が最大化されるか、また競合他社の価格と比較した場合の競争力を判断することができます。
- 既存製品の価格変更を検討するタイミング
既存の製品の価格変更を検討する場合は、消費者が価格変更にどのように反応するかを理解することが重要です。
PSM分析を実施することで、価格変更によって需要がどの程度変化するか、価格変更によって受ける損失を最小限に抑えることができる価格帯は何かを評価することができます。
- サービス価値を把握したいタイミング
何かしらサービスを提供している場合、サービスの価値を価格以外も把握することが重要です。
PSM分析を使用することで、サービスに対する顧客のニーズと要件を評価し、顧客がサービスにどの程度価値を見出しているかを理解することができます。これにより、サービスを改善することができ、顧客満足度を向上させることができます。
1-4. PSM分析の「よくある誤解」
PSM分析に対するよくある誤解について解説します。
- 【誤解1】PSM分析は⽀払意欲が把握できるだけで、実⽤性が薄い。
【 回答】PSM分析は顧客セグメント等と掛け合わせて分析することが⾮常に重要です。PSM分析から把握した⽀払意欲から様々な⽰唆を見出すことで実用性は高まります。
PSM分析と顧客セグメントを掛け合わせることで、支払い意欲に違いが有る顧客の特徴を見出すことが出来ます。
つまり、「支払い意欲が高い層は〇〇のような特徴があると考えられる」「支払い意欲が低い層は〇〇のような特徴があると考えられる」といった仮説を明らかにすることが出来るのです。
よく聞く 4つの交点はわかりやすい反⾯、学術的な側⾯からの根拠は提⽰されていません。交点だけではまだ根拠を持った価格決定ができる判断材料になっていないため実用性は低いです。
- 【誤解2】PSM分析で取得する⽀払意欲に信頼性はあるの?
【回答】PSM分析で取得できるデータは、信頼性が高いと⾔われています。直接質問法やCVM法などの他の⼿法と⽐べて、回答バイアスがかかりづらいと言われているからです。
直接質問法というのは、潜在的な購入者に対し、「〇〇(対象となる商品・サービス)をいくらなら買いたいと思いますか?」といったように製品に支払う金額を直接聞くというシンプルな手法です。この聞き方には潜在的な購入者が企業に対して、価格を下げるように交渉したいという回答バイアスが働き、実際の支払い意欲よりも低い価格で回答が集まるという欠点があります。
また、CVM分析は、「この商品が3000円だったら、購入したいと思いますか?」という質問を行い、「はい」と答えた場合、「3500円だったら、購入したいと思いますか?」などの質問を何度も繰り返していきます。あまりにも高い金額を提示しすぎると回答者が高い提示額につられて高い支払意思額を回答してしまったり、高い提示額に対する一部の支払い賛成回答によって、支払意思額の平均が高めに推定されてしまうなどのリスクが発生します。
一方、PSM分析は直接的に購入したい価格を尋ねるのではなく、製品・サービスの価格に対する顧客の感覚を把握するのが特徴のため、PSM分析のほうが回答バイアスが低く信頼性が高いと言われているのです。
2. PSM分析のメリット・デメリット
2-1. PSM分析のメリット
PSM分析を活⽤するメリットは3点あります。
①⾃由記述にて回答した価格のデータが得られるため、顧客視点での価格設定に活用できる。
自由記述形式なので回答バイアスがかかりづらく、直接質問法と違って、実際の支払い意欲よりも低い価格で回答が集まるリスクが低いです。
②設問数が少なくて済む。
4つの決まった設問文で実施できます。
③調査結果に基づいて根拠のある価格設定が可能。
勘や感覚ではなく、購買者の支払い意欲に基づいた数値やグラフで判断できます。
2-2. PSM分析のデメリット
PSM分析を活⽤するデメリットは2点あります。
①⼀般的なPSMで求める4つの交点の実⽤性が低いため、分析⽅法に⼯夫が必要。
先述した通り、4つの交点はあまり参考となる数値ではなく、顧客セグメント等と掛け合わせて分析することが⾮常に重要です。
実際、上限価格以上でも「購入が検討に乗る人」はいますし、同様に下限価格以下でも「品質が悪いと思わない人」が存在します。最適価格に関しても、本来顧客が最大化する価格は「安すぎて品質が低いと思う人」と、「高すぎて検討に乗らないと思う人」が最小となる価格であり、必ずしも交点と一致するとは限らないのです。
②原価等コストを加味しないと、実現性の薄い価格が算出される。
顧客視点での支払い意欲を調査しているため、コスト的観点からの価格は考慮されていないです。最終的な価格決定の際には、コスト的観点から実現可能かどうかを確認する必要があります。
3. PSM分析の実施プロセス(自力で行う場合)
早速PSM分析の実施プロセスについて解説していきます。全体の流れとしては7つのステップで進んでいきます。
- ステップ1:目標設定・価格仮説立案
- ステップ2:調査仮説の策定(顧客像と価格体系の仮説)
- ステップ3:アンケートの設問を考える
- ステップ4:調査対象の選定
- ステップ5:調査実施
- ステップ6:分析結果の⾒⽅
- ステップ7:価格の意思決定に活かす分析結果の加⼯の仕⽅
今回は、全体の流れをご理解いただくことにフォーカスしていますので、ステップごとの細かな業務内容については、「実施プロセスの具体的な業務内容(第2部)」(4/21公開予定)をお読みください。
4.PSM分析を活⽤した価格変更の事例
成功事例1:SaaS (SurveyMonkey)
SaaSの成功事例として、SurveyMonkeyの事例があります。
SurveyMonkeyはアンケート配信ツールを提供していることで有名なSaaS会社です。
価格を変えたことで、顧客数や売上が増加しました。
SaaSは価格体系の選択肢が多岐に渡るので、PSM分析のみで価格を決めるのは非常に難しいです。PSM分析とあらゆるアプローチを組み合わせて考えていく必要がありました。
SurveyMonkeyは、この価格変更の際に調査方法として「顧客セグメンテーション」「質的インタビュー」「PSM分析」の3つの手法を実施しました。
ここから言えることは、SaaSの価格を決めるときはPSM分析だけでは不十分ということです。
SurveyMonkeyの場合、顧客セグメンテーションと質的インタビューを行うことでPSM分析の精度を高めて価格を決めることに成功したと言えます。
成功事例2:サブスク(ネットフリックス)
サブスクの成功事例として、Netflix(ネットフリックス)が2021年2月に実施した値上げの事例があります。
Netflixは当時、ベーシックプランの月額料金を従来の880円から990円に、スタンダードプランの月額料金を従来の1320円から1490円に、それぞれ値上げしました。
一方、プレミアムプランについては1980円の価格を維持しました。
この件を受け、弊社独自で調査データを用いてシミュレーションを行いました。
料金プランごとに、料金がいくらで何%の顧客が増減するのかを可視化したところ、今回の値上げでは、いずれのプランにおいても、ユーザー数を維持できる範囲内で売り上げを最大にできる価格を選択していたことが分かりました。
この結果からも、Netflixは適切な調査方法に基づき、プランごとに適切な価格変更を行うことで、大幅な解約もなく売上も向上に成功しています。
<アンケート調査の概要>
- アンケート対象:実際にお金を支払って利用しているネットフリックスユーザー
- アンケート実施期間:2021/02/06~2021/02/07
- サンプル数:106件
- 調査内容:現行のプランの月額料金に対する支払い意欲、顧客属性情報(性別、年齢、居住人数、オリジナル作品の視聴有無、月間視聴時間、視聴デバイス、など)
成功事例3:⾷品(マクドナルド)
食品の成功事例として、かつて日本マクドナルドのCEOを務めていた原田泳幸氏が行ったマクドナルド改革の施策の1つ、2007年の「地域別価格」の導入の事例があります。
「地域別価格」は同じ商品であっても、東京都・神奈川県・大阪府・京都府では値段を上げ、宮城県・福島県・鳥取県・島根県では値下げをするという施策です。実は、海外ではこのように地域ごとに価格を変える施策は珍しくありません。
地域別価格の賛否について議論する場合、当然のように論点に上がるのがコストです。地域によって人件費や地価などの必要コストは変わりますし、特に飲食業態のような人件費や地価が利益率に大きく関わっているビジネスにおいてはなおさらです。コスト(原価)ベースプライシングという「コスト」を起点として価格を決める手法であれば、理にかなっているといえます。
しかし、当時のマクドナルドでは、少なくとも「コスト」を起点としたコスト(原価)ベースプライシングの発想でこの施策(地域別価格)を決めていなかったようです。
この施策は、どういう価格を設定すれば、最大の顧客が得られて、最大の利益につながるかという観点から導入したものだそうです。導入にあたっては、顧客の支払い意欲、原田氏の言葉では「プライス・センシティビティ(価格への受容性)」を考え、各地域の購買傾向を分析した末に1年がかりで各地域の価格を決定したということです。
これは居住する地域によっても、顧客の支払い意欲に差が出る可能性がある。少なくともマクドナルドの顧客においては、支払い意欲に差が出ているということです。この支払い意欲の差を基に、うまく価格設定をしたのが当時のマクドナルドです。
5.実際に寄せられたPSM分析に対する質問
- 【質問1】BtoBとBtoCで調査結果のあたりやすさやズレなどの差はあるか?
【回答】BtoCよりBtoBのほうが必要になるサンプル数が少ないケースが多いです。
理由としては、BtoBでは、担当者が予算を上申していたり決済をとりにいく関係で価格相場を覚えている⽅が多いため、少ないサンプル数でも妥当な回答が得られやすいためです。
- 【質問2】PSM分析をBtoBにて実施する場合、気をつける点は?
【回答】会社として払う⾦額なのか、個⼈で払う⾦額なのか、という点をしっかり明確にして聞く必要はあります。
- 【質問3】PSM分析をBtoCにて実施する場合、気をつける点は?
【回答】BtoCは⾊々な価値観の⽅が多く、回答される⾦額の幅が広いため、回答数が多く必要になります。
【補足】アンケート回答の精度と必要となるサンプルサイズについて
回答の精度が高い場合、必要なサンプルサイズは比較的小さくて済む可能性があります。
逆に回答の精度が低い場合、必要なサンプルサイズは比較的大きくする必要がある可能性があります。
これは、回答の精度が高いと、同じ程度の誤差率を許容した場合でも、統計的に有意な結果を得るために必要なサンプルサイズが減るためです。
逆に回答の精度が低い場合は、同じ程度の誤差率を許容した場合でも、統計的に有意な結果を得るために必要なサンプルサイズが増える傾向があります。
6.まとめ
今回はPSM分析について、基礎から実施方法の全体像を解説しました。
PSM分析は、製品・サービスの適正価格を導くために⽤いられる分析⼿法です。
顧客のアンケートにもとづき、顧客価値 から価格を算出することで、しっかりと根拠を持った適切な価格決定が実行できます。
続いて「実施プロセスの具体的な業務内容(第2部)」(4/21公開予定)を読み進めて頂くことで、より業務レベルでのPSM分析の実施プロセスについて理解することが可能です。
PSM分析について不明点がある方やバリューベースの価格設定を実現したい事業者様は、お気軽に、プライシングスタジオにお問い合わせください。
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