「どんな価格体系が存在しているんだろう」「価格体系ごとにどんな差があるんだろう」「どんな価格体系を採用したらいいんだろう」このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?
今回は「価格体系の種類とメリット・デメリット」についてまとめました。
それぞれの価格体系の特徴を踏まえて、各事業者様が価格を設定する際にお役に立てば幸いです。
この記事は、以下のような方におすすめの記事です。
- 価格体系にはどんな種類があるのか?を知りたい
- 価格体系ごとのメリット・デメリットを知りたい
- 価格体系の決め方を知りたい
PSM分析を実務で活用する方法を解説するための3部構成の記事となっており、本記事では、第3部としてPSM分析を実際に価格に反映するための「価格体系の種類とメリット・デメリット一覧」を解説します。
まずPSM分析の基礎や実施プロセスの全体像を知りたい方は第1部を、具体的なPSM分析の実施プロセスを知りたい方は第2部をお読みください。
- PSM分析の基礎と実施プロセスの全体像 → 第1部
- 実施プロセスの具体的な業務内容 → 第2部
- 価格体系の種類とメリット・デメリット一覧 → 第3部(本記事)
第1部~第3部まで通して読んでいただくことで、PSM分析を、基礎から実施方法まで理解でき、実務として活用できるようになります。ぜひ最後まで一読ください!
目次
1.価格体系とは?
最近では価格体系にも様々な種類があり、複雑化しています。
価格体系とは、「製品にいくら請求するか?の問いに答えるもの」と定義しています。
本来、1つの商品に対して1つの価格、いわゆる単一価格が決められておりました。しかし最近では世の中の製品は所有(モノ)としてだけでなく、利用(サービス)として認識されるようになってきており、単一価格ではない価格体系が登場してきました。
例えば、月額料金のシステムや人数ごとに課金するシステムや利用料で課金するシステムなどです。
製品の認識が所有(モノ)から利用(サービス)に変化したことで価格体系に多くの選択肢ができ、複雑化していっています。
2.価格体系の種類
よく採用されている4つの価格体系について解説していきます。
単一価格
【単一価格とは】
単一価格とは、サービスに対して料金体系が1つという最もシンプルな価格体系です。全ての顧客に対して単一の製品・機能・価格で提供します。
【単一価格のメリット】
単一価格の最大のメリットは1つのサービスに対して、1つの価格体系というシンプルさから「サービス価値を顧客に伝えやすく売りやすい」ということがあげられます。
サービスを購買する顧客は、複数のプランがある場合よりも意思決定が容易で、このことから、新規顧客の獲得の増加にもつながりやすくなります。
【単一価格のデメリット】
単一価格のデメリットは、3つあります。
①幅広いユーザーのニーズに応えることが困難
1つのプランしか用意されていないため、幅広いユーザーのニーズに応えることが困難になるということがあげられます。
そのため、顧客の層を狭めてしまい、本来獲得できていたはずの収益を逃す可能性があります。
BtoBサービスの場合でも、大企業と中小企業ともに同一の価格とサービスが提供されます。規模の違う企業では、ニーズも大きく異なるため、両者にとって魅力的な価格設定は難しくなります。
②売上の向上が困難
幅広いニーズに応えられないことで、売上の向上が困難になります。
複数プランがないことは、顧客の単価を向上させるための高額な上位モデルに乗り換えてもらうアップセルを行うことができません。
③顧客に心理的弊害をもたらす場合がある
プランの選択肢がないため、一部の顧客にとっては一緒くたな対応をされていると感じ、サービスへの好感度が低くなる可能性があります。
例えば、単一価格の商品やサービスに対して購入回数や購入量が多い顧客と少ない顧客がいる場合、購入回数や量が多い一部の顧客は、「こんなに購入しているのにも関わらず、価格が一定で優遇されていない」と感じるケースが考えられます。
こうしたケースの場合、購入回数や購入量が多い顧客には特別なベネフィットを提供することで、よりサービスに対して「信頼」や「愛着」などの顧客ロイヤルティが高まり、リピートに繋がる可能性が考えられます。
しかし、単一価格の場合は、上記のような対応ができないため、一部の顧客においては企業が提供するサービスを享受することが無くなることも想定されます。
【単一価格モデルを導入している企業例】
現在、単一価格モデルを導入している企業はほとんどありませんが、その中でも成功例として挙げられるのはBasecampという企業です。
Basecampでは、複数のアプリケーションの機能を、1つに集約したサービスを展開しています。
例えば、リアルタイムチャットの機能を持つSlack、やることリストを管理するAsana Premium、ファイルストレージを管理するDropbox、ドキュメント・カレンダー機能のあるGsuiteなどの機能が搭載されています。
これらのアプリケーションサービスを全て別々に購入した場合莫大な月額料金となりますが、これら全ての機能を月額99ドルでサービスを受けることができるのがBasecampです。
月額99ドルというのは一見高額に見えますが、ユーザー数が増えても追加料金が発生しないということは、多くのユーザーを持つ大企業などは結果的にお得になります。月額料金以上支払うことなく無制限の数のユーザーを招待できるという点はこの企業のセールスポイントであり、単一価格で成功した事例になります。
定額課金
【定額課金とは】
定額課金は期間ごとに定額の料金を請求する価格体系です。
【定額課金のメリット】
定額課金のメリットは、シンプルがゆえに、「顧客が価格を理解しやすく、また事業ニーズの検証がしやすい」特徴があり、特に初期のサービスで有効な価格体系です。
【定額課金のデメリット】
定額課金のデメリットは、単一価格と同様、幅広いユーザーのニーズに応えることが困難になるという点です。そのため、売上向上には工夫をこらす必要があります。
機能別課金
【機能別課金とは】
機能別課金とは、利用できる機能に応じて料金が変わる価格体系です。
「顧客のペルソナ」と「必要とされる機能」の把握ができていると設定しやすく、使用できる機能の数が多くなるほど価格は高くなります。
【機能別課金のメリット】
機能別課金は「一物多価」での販売になるため、単一価格や定額課金と比較し、収益を上げやすい構造になります。また、顧客がプラン変更することでアップセルが望めるという特徴もあります。
【機能別モデルを導入している企業例】
- Slack
顧客の規模の大きさごとのニーズに適した機能が追加されていく、4段階のプランを提供しています。「フリー」は無料プランでslackを無期限で試してみたいチーム向け、「スタンダード」は中小規模の企業向け、「ビジネスプラス」は大規模な企業や高度な管理ニーズを持っている企業向け、「Enterprise Grid」は規制業界や、非常に大規模で複雑な組織を持つ企業向けとわかれています。
従量課金
【従量課金とは】
従量課金は“量”に“従”って課金する、価格体系の1つです。顧客目線だと「使った分だけお金を支払う」仕組みといえます。
【従量課金のメリット】
従量課金のメリットは2つあります。
①金額に対する顧客の納得を得やすい
ユーザーが使えば使った分に応じて利用金額が確定されるため、顧客の納得を得やすくなります。
また、機能制限がある課金モデルと異なり、全機能をとりあえず利用できたり、単価が上がる要因を事前に把握できているため、顧客にとっては非常にわかりやすいモデルとなります。
さらに、企業にとっては、一定の金額で使い放題の場合と比べ、ユーザーの利用状況によって、より多くの金額を請求できるため収益の最大化につながります。
②解約を回避できる場合がある
定額課金や機能別課金のサービスは、場合によっては利用する期間が一定期間に集中し、月ごとに利用量が大きく異なる場合があります。導入企業の業績によってもその傾向はあるでしょう。
そのようなサービスは、利用量が少ない期間にコストカットの対象と判断され、解約されてしまう可能性があります。しかし、従量課金制を採用していれば、利用量の少ない期間は低単価になるため、解約されにくくなります。
【従量課金のデメリット】
従量課金のデメリットは3つあります。
①利用を控えられる
利用量やユーザー数が多ければ多いほど料金が高くなる従量課金制では、顧客が単価を抑えるために利用を控えてしまう可能性があります。そうなると、本来なら解決できた課題を解決できずに、顧客の満足度が低下してしまうかもしれません。
②前払いしてもらえない
従量課金では、サービス利用後に請求が発生するため、顧客獲得コストの回収に時間がかかります。この課題を解決するために、年間一括前払いなど事前に決裁を促す工夫がなされている場合もあります。
③収益予測ができない
多くのSaaSビジネスにおいて、定額課金や機能別課金では収益予測が容易で、この点においては非常に大きな強みとなります。しかし、単価が確定できない従量課金制ではそれができません。
収益の予測がしっかりできていればいるほど、顧客獲得などに投資できるため、中長期的に大きな差が生まれる可能性も孕んでしまいます。
従量課金の種類
従量課金制には、顧客のアカウント量に従う「アカウント別従量課金」と顧客の利用量に従う「利用従量課金」があります。
①アカウント別従量課金
アカウント別従量課金は、アカウント数毎に料金が設定され、利用アカウント数の増加に比例して単価がアップしていく特徴があります。
利用ユーザーが複数おり、アカウント別で保存される内容が異なるサービスに有効です。
難点として、企業がなるべく登録ユーザー数を増やさないようにする結果、サービス満足度が低下してしまうことがあげられます。
この問題点を解決できる、ユーザー数課金を応用した「アクティブユーザー課金」モデルも存在しています。
このモデルでは、アカウント自体は好きな数登録できて、アクティブユーザーの数に応じて請求を行います。これにより、気軽に多くの社員にサービスを導入してもらい、サービス満足度の低下を防ぐことが可能です。
②利用従量課金
利用料従量課金は、良くも悪くも顧客に左右される特徴を持ち(利用されればされるほど単価が高く、利用を抑制されると単価が低くなるため)、粘着度が高いサービスで特に有効です。
料金が顧客の利用量に比例するため、透明性が高く、フェアな価格体系とされていますが、顧客が料金を抑えるために利用を控えるリスクを孕みます。
またB2Bのサービスの場合、料金の予測が立てづらいため稟議が通りにくいという傾向もあります。
従量課金の金額の上がり方の種類
従量課金には下記の図のように金額の上がり方が異なる4つのパターンがあります。
①完全従量課金
完全従量課金は、利用量に比例して金額が上がっていきます。
ユーザーが使った分だけ支払うので、価格の納得感を得られやすいメリットがあります。ただし、毎月の請求額が大きく変わる可能性があり、売り上げの見通しが立てづらいデメリットがあります。
②超過従量課金
超過従量課金では、基本料金が設定されており、超過利用分に応じて料金が追加されます。そのため、特定のプランの制限から超過利用した場合にプランをアップグレードするのではなく、超過した分に従量課金をかけるモデルです。
超過従量課金は、利用量が少ないライトユーザーからも最低限の売り上げを確保できます。また、利用量の多いヘビーユーザーの単価を増加させることも可能です。一方で、超過する前に利用を控える可能性があります。
③段階従量課金
段階従量課金は、利用できるユーザー数の違いや利用できるストレージの量にもとづいて、複数の料金プランがあります。
段階従量課金は、顧客が完全従量課金や超過従量課金ほど利用を控えないメリットがあります。また、毎月の支払金額に下限があるため、売り上げの見通しが立つのも特徴です。一方で、下位プランが選ばれやすい傾向にあるため、プラン設計が肝になります。
導入している企業例としては、利用できるユーザー数の違いによって料金プランが異なる「Google Workspace」や、利用できるストレージの量の違いによって料金プランが異なる「DirectCloud-BOX」が挙げられます。
▼Google Workspace
▼DirectCloud-BOX
④超過定額課金
超過定額課金は、一定の上限額を定め、上限額に達するまでは利用量やユーザー数に応じて料金が課金され、上限額を超過する分については定額制が適用されます。
超過定額課金は、利用量が多いが支払い意欲が低い顧客層が多い場合でも、顧客数を確保できます。一方で、支払い意欲が高い顧客の売り上げを毀損する可能性があります。
導入しているサービス例としては、インターネットや携帯電話などのパケット通信料などが挙げられます。
3.企業にあった価格体系の決め方
価格体系を決める観点
価格体系を決める観点として、「顧客と価値」と「個別の価格体系」の2つの観点があります。「顧客と価値」とは誰に何を届けるか、「個別の価格体系」とは何にいくら請求するかということです。
①顧客と価値
「顧客と価値(誰に何を届けるのか)」を考えるためには、「顧客属性の整理」と「提供価値の整理」双方から、検討が必要です。
顧客属性の整理で行うこととしては、実際の顧客データベースを分類できるような、顧客分類を作成することが重要です。下記のような観点で分類します。
<顧客属性分類の観点>
- 業界/業種:どの業界、業種が対象か
- 企業規模:どの企業規模が対象か(SMB、エンタープライズなど)
- 部署:どの部署が対象か
価値提供の整理で行うこととしては、整理した顧客分類から「だれにどんな価値を与えているか」というサービス価値を整理します。下記のような観点で分類します。
<価値提供分類の観点>
- 利用目的(課題)
- 提供価値性質
②個別の価格体系
「個別の価格体系(何にいくら請求するか)」を考えるためには、価値と価格体系の整理・検討が必要です。
顧客への価値が「単一」か「複数」かで、1つの価格体系なのか、価格体系を組み合わせるかが決まります。
ターゲットとターゲットごとの価値を列挙し、価値ごとの価格体系を列挙していきます。
その後の流れとしては、全ターゲットに対するコア価値を選定し、ベース部分の価格体系を決定します。
その後、一部ターゲットに対するサブ価値から、オプション及びアップセル及び従量課金を選定するような流れです。
価値から考えて価格を検討している企業の実例
うまく価格体系を設定している企業の実例としては、「Survey Monkey」が挙げられます。
SurveyMonkeyはアンケート配信ツールを提供していることで有名なSaaS会社です。
顧客の80%は個人的な目的ではなく法人のビジネスシーンで活用しています。
そして、価格改定を行い、下記3点のように価値ベースの価格を整理し直しました。
<Survey Monkeyの価値と価格の関係>
①利用ユーザー数に比例した価値を表現。
②「最低利用人数」の明記で顧客対象をチーム活用前提に限定。
③一部対象が価値を感じる高度な機能を上位プランを価格体系として反映。
Survey Monkeyはこの価値と価格を整理し直し、価格変更を行った結果、ユーザーあたりの平均収益が14%増加しました。
まとめ
今回は価格体系の種類とメリット・デメリットについて、価格体系の種類からメリット・デメリット、そして企業にあった価格体系の選び方を解説しました。
価格体系の特徴ごとにメリット・デメリットが存在することは前述の通りです。
言い換えると、サービスの提供価値に応じて、適した価格体系が異なるということです。
従量課金を例にとっても、利用する量に比例して顧客へのインセンティブが増加するサービスでなければ成立しません。
価格体系を考える際は、価格設定後の価格体系をイメージしておき、それを検証する形でPSM分析などの調査を行っていくのがポイントです。
PSM分析について不明点がある方やバリューベースの価格設定を実現したい事業者様は、お気軽に、プライシングスタジオにお問い合わせください。
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「どんな価格体系が存在しているんだろう」「価格体系ごとにどんな差があるんだろう」「どんな価格体系を採用したらいいんだろう」このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?
今回は「価格体系の種類とメリット・デメリット」についてまとめました。
それぞれの価格体系の特徴を踏まえて、各事業者様が価格を設定する際にお役に立てば幸いです。
この記事は、以下のような方におすすめの記事です。
- 価格体系にはどんな種類があるのか?を知りたい
- 価格体系ごとのメリット・デメリットを知りたい
- 価格体系の決め方を知りたい
PSM分析を実務で活用する方法を解説するための3部構成の記事となっており、本記事では、第3部としてPSM分析を実際に価格に反映するための「価格体系の種類とメリット・デメリット一覧」を解説します。
まずPSM分析の基礎や実施プロセスの全体像を知りたい方は第1部を、具体的なPSM分析の実施プロセスを知りたい方は第2部をお読みください。
- PSM分析の基礎と実施プロセスの全体像 → 第1部
- 実施プロセスの具体的な業務内容 → 第2部
- 価格体系の種類とメリット・デメリット一覧 → 第3部(本記事)
第1部~第3部まで通して読んでいただくことで、PSM分析を、基礎から実施方法まで理解でき、実務として活用できるようになります。ぜひ最後まで一読ください!
目次
1.価格体系とは?
最近では価格体系にも様々な種類があり、複雑化しています。
価格体系とは、「製品にいくら請求するか?の問いに答えるもの」と定義しています。
本来、1つの商品に対して1つの価格、いわゆる単一価格が決められておりました。しかし最近では世の中の製品は所有(モノ)としてだけでなく、利用(サービス)として認識されるようになってきており、単一価格ではない価格体系が登場してきました。
例えば、月額料金のシステムや人数ごとに課金するシステムや利用料で課金するシステムなどです。
製品の認識が所有(モノ)から利用(サービス)に変化したことで価格体系に多くの選択肢ができ、複雑化していっています。
2.価格体系の種類
よく採用されている4つの価格体系について解説していきます。
単一価格
【単一価格とは】
単一価格とは、サービスに対して料金体系が1つという最もシンプルな価格体系です。全ての顧客に対して単一の製品・機能・価格で提供します。
【単一価格のメリット】
単一価格の最大のメリットは1つのサービスに対して、1つの価格体系というシンプルさから「サービス価値を顧客に伝えやすく売りやすい」ということがあげられます。
サービスを購買する顧客は、複数のプランがある場合よりも意思決定が容易で、このことから、新規顧客の獲得の増加にもつながりやすくなります。
【単一価格のデメリット】
単一価格のデメリットは、3つあります。
①幅広いユーザーのニーズに応えることが困難
1つのプランしか用意されていないため、幅広いユーザーのニーズに応えることが困難になるということがあげられます。
そのため、顧客の層を狭めてしまい、本来獲得できていたはずの収益を逃す可能性があります。
BtoBサービスの場合でも、大企業と中小企業ともに同一の価格とサービスが提供されます。規模の違う企業では、ニーズも大きく異なるため、両者にとって魅力的な価格設定は難しくなります。
②売上の向上が困難
幅広いニーズに応えられないことで、売上の向上が困難になります。
複数プランがないことは、顧客の単価を向上させるための高額な上位モデルに乗り換えてもらうアップセルを行うことができません。
③顧客に心理的弊害をもたらす場合がある
プランの選択肢がないため、一部の顧客にとっては一緒くたな対応をされていると感じ、サービスへの好感度が低くなる可能性があります。
例えば、単一価格の商品やサービスに対して購入回数や購入量が多い顧客と少ない顧客がいる場合、購入回数や量が多い一部の顧客は、「こんなに購入しているのにも関わらず、価格が一定で優遇されていない」と感じるケースが考えられます。
こうしたケースの場合、購入回数や購入量が多い顧客には特別なベネフィットを提供することで、よりサービスに対して「信頼」や「愛着」などの顧客ロイヤルティが高まり、リピートに繋がる可能性が考えられます。
しかし、単一価格の場合は、上記のような対応ができないため、一部の顧客においては企業が提供するサービスを享受することが無くなることも想定されます。
【単一価格モデルを導入している企業例】
現在、単一価格モデルを導入している企業はほとんどありませんが、その中でも成功例として挙げられるのはBasecampという企業です。
Basecampでは、複数のアプリケーションの機能を、1つに集約したサービスを展開しています。
例えば、リアルタイムチャットの機能を持つSlack、やることリストを管理するAsana Premium、ファイルストレージを管理するDropbox、ドキュメント・カレンダー機能のあるGsuiteなどの機能が搭載されています。
これらのアプリケーションサービスを全て別々に購入した場合莫大な月額料金となりますが、これら全ての機能を月額99ドルでサービスを受けることができるのがBasecampです。
月額99ドルというのは一見高額に見えますが、ユーザー数が増えても追加料金が発生しないということは、多くのユーザーを持つ大企業などは結果的にお得になります。月額料金以上支払うことなく無制限の数のユーザーを招待できるという点はこの企業のセールスポイントであり、単一価格で成功した事例になります。
定額課金
【定額課金とは】
定額課金は期間ごとに定額の料金を請求する価格体系です。
【定額課金のメリット】
定額課金のメリットは、シンプルがゆえに、「顧客が価格を理解しやすく、また事業ニーズの検証がしやすい」特徴があり、特に初期のサービスで有効な価格体系です。
【定額課金のデメリット】
定額課金のデメリットは、単一価格と同様、幅広いユーザーのニーズに応えることが困難になるという点です。そのため、売上向上には工夫をこらす必要があります。
機能別課金
【機能別課金とは】
機能別課金とは、利用できる機能に応じて料金が変わる価格体系です。
「顧客のペルソナ」と「必要とされる機能」の把握ができていると設定しやすく、使用できる機能の数が多くなるほど価格は高くなります。
【機能別課金のメリット】
機能別課金は「一物多価」での販売になるため、単一価格や定額課金と比較し、収益を上げやすい構造になります。また、顧客がプラン変更することでアップセルが望めるという特徴もあります。
【機能別モデルを導入している企業例】
- Slack
顧客の規模の大きさごとのニーズに適した機能が追加されていく、4段階のプランを提供しています。「フリー」は無料プランでslackを無期限で試してみたいチーム向け、「スタンダード」は中小規模の企業向け、「ビジネスプラス」は大規模な企業や高度な管理ニーズを持っている企業向け、「Enterprise Grid」は規制業界や、非常に大規模で複雑な組織を持つ企業向けとわかれています。
従量課金
【従量課金とは】
従量課金は“量”に“従”って課金する、価格体系の1つです。顧客目線だと「使った分だけお金を支払う」仕組みといえます。
【従量課金のメリット】
従量課金のメリットは2つあります。
①金額に対する顧客の納得を得やすい
ユーザーが使えば使った分に応じて利用金額が確定されるため、顧客の納得を得やすくなります。
また、機能制限がある課金モデルと異なり、全機能をとりあえず利用できたり、単価が上がる要因を事前に把握できているため、顧客にとっては非常にわかりやすいモデルとなります。
さらに、企業にとっては、一定の金額で使い放題の場合と比べ、ユーザーの利用状況によって、より多くの金額を請求できるため収益の最大化につながります。
②解約を回避できる場合がある
定額課金や機能別課金のサービスは、場合によっては利用する期間が一定期間に集中し、月ごとに利用量が大きく異なる場合があります。導入企業の業績によってもその傾向はあるでしょう。
そのようなサービスは、利用量が少ない期間にコストカットの対象と判断され、解約されてしまう可能性があります。しかし、従量課金制を採用していれば、利用量の少ない期間は低単価になるため、解約されにくくなります。
【従量課金のデメリット】
従量課金のデメリットは3つあります。
①利用を控えられる
利用量やユーザー数が多ければ多いほど料金が高くなる従量課金制では、顧客が単価を抑えるために利用を控えてしまう可能性があります。そうなると、本来なら解決できた課題を解決できずに、顧客の満足度が低下してしまうかもしれません。
②前払いしてもらえない
従量課金では、サービス利用後に請求が発生するため、顧客獲得コストの回収に時間がかかります。この課題を解決するために、年間一括前払いなど事前に決裁を促す工夫がなされている場合もあります。
③収益予測ができない
多くのSaaSビジネスにおいて、定額課金や機能別課金では収益予測が容易で、この点においては非常に大きな強みとなります。しかし、単価が確定できない従量課金制ではそれができません。
収益の予測がしっかりできていればいるほど、顧客獲得などに投資できるため、中長期的に大きな差が生まれる可能性も孕んでしまいます。
従量課金の種類
従量課金制には、顧客のアカウント量に従う「アカウント別従量課金」と顧客の利用量に従う「利用従量課金」があります。
①アカウント別従量課金
アカウント別従量課金は、アカウント数毎に料金が設定され、利用アカウント数の増加に比例して単価がアップしていく特徴があります。
利用ユーザーが複数おり、アカウント別で保存される内容が異なるサービスに有効です。
難点として、企業がなるべく登録ユーザー数を増やさないようにする結果、サービス満足度が低下してしまうことがあげられます。
この問題点を解決できる、ユーザー数課金を応用した「アクティブユーザー課金」モデルも存在しています。
このモデルでは、アカウント自体は好きな数登録できて、アクティブユーザーの数に応じて請求を行います。これにより、気軽に多くの社員にサービスを導入してもらい、サービス満足度の低下を防ぐことが可能です。
②利用従量課金
利用料従量課金は、良くも悪くも顧客に左右される特徴を持ち(利用されればされるほど単価が高く、利用を抑制されると単価が低くなるため)、粘着度が高いサービスで特に有効です。
料金が顧客の利用量に比例するため、透明性が高く、フェアな価格体系とされていますが、顧客が料金を抑えるために利用を控えるリスクを孕みます。
またB2Bのサービスの場合、料金の予測が立てづらいため稟議が通りにくいという傾向もあります。
従量課金の金額の上がり方の種類
従量課金には下記の図のように金額の上がり方が異なる4つのパターンがあります。
①完全従量課金
完全従量課金は、利用量に比例して金額が上がっていきます。
ユーザーが使った分だけ支払うので、価格の納得感を得られやすいメリットがあります。ただし、毎月の請求額が大きく変わる可能性があり、売り上げの見通しが立てづらいデメリットがあります。
②超過従量課金
超過従量課金では、基本料金が設定されており、超過利用分に応じて料金が追加されます。そのため、特定のプランの制限から超過利用した場合にプランをアップグレードするのではなく、超過した分に従量課金をかけるモデルです。
超過従量課金は、利用量が少ないライトユーザーからも最低限の売り上げを確保できます。また、利用量の多いヘビーユーザーの単価を増加させることも可能です。一方で、超過する前に利用を控える可能性があります。
③段階従量課金
段階従量課金は、利用できるユーザー数の違いや利用できるストレージの量にもとづいて、複数の料金プランがあります。
段階従量課金は、顧客が完全従量課金や超過従量課金ほど利用を控えないメリットがあります。また、毎月の支払金額に下限があるため、売り上げの見通しが立つのも特徴です。一方で、下位プランが選ばれやすい傾向にあるため、プラン設計が肝になります。
導入している企業例としては、利用できるユーザー数の違いによって料金プランが異なる「Google Workspace」や、利用できるストレージの量の違いによって料金プランが異なる「DirectCloud-BOX」が挙げられます。
▼Google Workspace
▼DirectCloud-BOX
④超過定額課金
超過定額課金は、一定の上限額を定め、上限額に達するまでは利用量やユーザー数に応じて料金が課金され、上限額を超過する分については定額制が適用されます。
超過定額課金は、利用量が多いが支払い意欲が低い顧客層が多い場合でも、顧客数を確保できます。一方で、支払い意欲が高い顧客の売り上げを毀損する可能性があります。
導入しているサービス例としては、インターネットや携帯電話などのパケット通信料などが挙げられます。
3.企業にあった価格体系の決め方
価格体系を決める観点
価格体系を決める観点として、「顧客と価値」と「個別の価格体系」の2つの観点があります。「顧客と価値」とは誰に何を届けるか、「個別の価格体系」とは何にいくら請求するかということです。
①顧客と価値
「顧客と価値(誰に何を届けるのか)」を考えるためには、「顧客属性の整理」と「提供価値の整理」双方から、検討が必要です。
顧客属性の整理で行うこととしては、実際の顧客データベースを分類できるような、顧客分類を作成することが重要です。下記のような観点で分類します。
<顧客属性分類の観点>
- 業界/業種:どの業界、業種が対象か
- 企業規模:どの企業規模が対象か(SMB、エンタープライズなど)
- 部署:どの部署が対象か
価値提供の整理で行うこととしては、整理した顧客分類から「だれにどんな価値を与えているか」というサービス価値を整理します。下記のような観点で分類します。
<価値提供分類の観点>
- 利用目的(課題)
- 提供価値性質
②個別の価格体系
「個別の価格体系(何にいくら請求するか)」を考えるためには、価値と価格体系の整理・検討が必要です。
顧客への価値が「単一」か「複数」かで、1つの価格体系なのか、価格体系を組み合わせるかが決まります。
ターゲットとターゲットごとの価値を列挙し、価値ごとの価格体系を列挙していきます。
その後の流れとしては、全ターゲットに対するコア価値を選定し、ベース部分の価格体系を決定します。
その後、一部ターゲットに対するサブ価値から、オプション及びアップセル及び従量課金を選定するような流れです。
価値から考えて価格を検討している企業の実例
うまく価格体系を設定している企業の実例としては、「Survey Monkey」が挙げられます。
SurveyMonkeyはアンケート配信ツールを提供していることで有名なSaaS会社です。
顧客の80%は個人的な目的ではなく法人のビジネスシーンで活用しています。
そして、価格改定を行い、下記3点のように価値ベースの価格を整理し直しました。
<Survey Monkeyの価値と価格の関係>
①利用ユーザー数に比例した価値を表現。
②「最低利用人数」の明記で顧客対象をチーム活用前提に限定。
③一部対象が価値を感じる高度な機能を上位プランを価格体系として反映。
Survey Monkeyはこの価値と価格を整理し直し、価格変更を行った結果、ユーザーあたりの平均収益が14%増加しました。
まとめ
今回は価格体系の種類とメリット・デメリットについて、価格体系の種類からメリット・デメリット、そして企業にあった価格体系の選び方を解説しました。
価格体系の特徴ごとにメリット・デメリットが存在することは前述の通りです。
言い換えると、サービスの提供価値に応じて、適した価格体系が異なるということです。
従量課金を例にとっても、利用する量に比例して顧客へのインセンティブが増加するサービスでなければ成立しません。
価格体系を考える際は、価格設定後の価格体系をイメージしておき、それを検証する形でPSM分析などの調査を行っていくのがポイントです。
PSM分析について不明点がある方やバリューベースの価格設定を実現したい事業者様は、お気軽に、プライシングスタジオにお問い合わせください。
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