(この記事は、PSM分析の基礎と実施プロセスの全体像の続きの記事です。)
「PSM分析のやり方がわからない」 「適正価格はどう設定したら良いんだろう」「そもそもPSM分析は実用性があるの?」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?
今回は「価格」の分析手法であるPSM分析の具体的な実施プロセスについてまとめました。
この記事は、以下のような方におすすめの記事です。
- PSM分析とはどんな方法なのか?を知りたい
- PSM分析の調査・分析⽅法を知りたい
- PSM分析の実務レベルでの活⽤⽅法を知りたい
全部で3部構成となっており、
本記事では、第2部となる「PSM分析の実施プロセスの具体的な業務内容」を解説します。
PSM分析の基礎や実施プロセスの全体像を知りたい方は、第1部からお読みください。
- PSM分析の基礎と実施プロセスの全体像→第1部
- 実施プロセスの具体的な業務内容 → 第2部(本記事)
- 価格体系の種類とメリット・デメリット一覧 → 第3部(4/28掲載予定)
第1部~第3部まで通して読んでいただくことで、
PSM分析を、基礎から実施方法まで理解でき、実務として活用できるようになります。
ぜひ最後まで一読ください!
目次
PSM分析の実施プロセスの全体像
早速PSM分析の実施プロセスについて解説していきます。全体の流れとしては7つのステップで進んでいきます。
- ステップ1:目標設定・価格仮説立案
- ステップ2:調査仮説の策定(顧客像と価格体系の仮説
- ステップ3:アンケートの設問を考える
- ステップ4:調査対象の選定
- ステップ5:調査実施
- ステップ6:分析結果の⾒⽅
- ステップ7:価格の意思決定に活かす分析結果の加⼯の仕⽅
各ステップごとの細かな業務内容について詳しく解説していきます。
ステップ1:目標設定・価格仮説立案
PSM分析の成否を分ける最も重要なことが、この⽬的設定・価格仮説⽴案です。
まず「売上が最⼤化する価格」と「顧客数が最⼤化する価格」は異なります。
事業がどうありたいのか、「売上」と「顧客数」のどちらにプライオリティーをおきたいのか、といった目的によって、プライシングで調査・分析すべき価格が異なります。すると、立案すべき価格仮説も異なってくるため、PSM分析を行う際は、この最初の目的設定と、その目的に合わせた価格仮説を立案することが最も重要なのです。
目的設定を行う際のポイントは、「事業レイヤー」「プライシングレイヤー」の2つの観点から考えることです。
具体的には、「事業がどうありたいのか」といった事業レイヤーでの目的と、「それを実現するための価格はどのようなものか」、言い換えると「どんなプライシング戦略でそれを実現するのか」といったプライシングレイヤーでの目的をそれぞれ考えることになります。
事業レイヤーでの目的「事業で何を実現したいのか」というのは、すなわち「価格の検討が必要な背景」になります。例えば以下のようなことです。
<価格の検討が必要な背景の例>
- 中期経営計画での売り上げ目標達成
- 新規サービスローンチ時の顧客獲得
- サービス成熟期の利益改善
- 顧客業界別の効率的な営業活動の実現
- 新規ターゲット顧客層の獲得
背景が明文化できたら次は、プライシングレイヤーでの目的設定を行います。明文化した課題を解決できるような目的を考えます。具体的には以下のようなことです。
<目的の例>
- 【中期経営計画での売り上げ目標達成】
→ あり得る価格変更余地を検証し、売り上げ目標を達成できるような値上げを実現する。
- 【新規サービスローンチ時の顧客獲得】
→ ローンチ時の顧客獲得を実現できるような、顧客に受け入れられやすい価格を策定する。
- 【サービス成熟期の利益改善】
→ 顧客毀損を抑えつつ、利益目標を達成できるような値上げを実現する。
- 【顧客業界別の効率的な営業活動の実現】
→ 顧客の業界別に適切な価格を設定する。
- 【新規ターゲット顧客層の獲得】
→ 既存顧客とは異なるターゲット層を獲得しやすい価格を設定する。
そしてこの目的こそが、これから始まる価格変更(決定)プロジェクトの目的であり、実現するプライシングの理想の姿となります。
ステップ2以降ではこの状態を目指し、実行プロセスを進めていくことになります。
ステップ2:調査仮説の策定
アンケート調査を行う前に、調査仮説を立てます。
有効なアンケート調査を獲得するためには、良い調査仮説を⽴てることが重要です。
考え方としては、「顧客像」と「価格体系」の2つの観点から調査仮説を⽴てます。
顧客像の仮説
顧客像の調査仮説をたてる際は、どのような特徴の顧客であれば、より多くの⾦額でも出してくれそうか(⽀払い意欲が変わりそうか)を考えます。
考える軸としては、「顧客性」「サービス利⽤状況」の2点です。B2CとB2Bに分けてそれぞれ考えると以下のようになります。
<B2C>
- 顧客属性:性別・年収・居住地・趣味嗜好
- サービス利用状況:利⽤している機能や、購買の頻度といったサービスの利⽤状況
<B2B>
- 顧客属性:売り上げ・従業員数などの企業規模・業界
- サービス利⽤状況:利⽤している機能やアカウント数といったサービスの利⽤状況
仮に候補を出すのが難しい場合は、重視したい顧客像の特徴を洗い出すと、仮説が見えやすくなります。
価格体系の仮説
価格体系の調査仮説を立てる際は、洗い出した顧客像に対して、定額課⾦や従量課⾦といった適切と思われる価格体系の仮説を立てます。
価格体系は特徴ごとにメリットデメリットが存在し、サービスの提供価値に応じて、適した価格体系が異なります。
例えば、「使った分だけお⾦を⽀払う」従量課⾦を検討している場合、課⾦軸の利⽤量に⽐例して⽀払い意欲が変わるのかを調査する必要がありますが、検討していない場合はそれを調査する必要はありません。
調査仮説を立てる際は、価格変更後の価格体系をイメージしておき、それを検証する形で調査を行っていくのがポイントです。
様々な「価格体系」の種類や違いなどの詳しい内容については「価格体系の種類とメリット・デメリット一覧(第3話)」(4/28公開予定)にて解説します。
ステップ3:アンケートの設問を考える
アンケートの設問文を考えます。
設問には⽀払い意欲を調べる「⽀払い意欲調査設問」と顧客の属性を調べる「属性設問」の2種類があります。
分析の段階では、これらの 「⽀払い意欲調査設問」と「属性設問」で得られた情報を突合して分析します。
支払い意欲調査設問
「支払い意欲調査設問」とは、PSM分析を行う際によく使用される次の4つのアンケート項目です。
- その製品・サービスについて、あなたが⾼いと感じ始める⾦額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める⾦額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたがこれ以上⾼いと検討に乗らない⾦額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる⾦額はいくらくらいですか?
属性設問
「属性設問」とは 「⽀払意欲の差」を特定するための情報、つまり、⽀払い意欲が変わるペルソナを明確化するための質問です。
「支払い意欲が高い層は〇〇のような特徴がある」「支払い意欲が低い層は〇〇のような特徴がある」といった仮説を検証するために、この〇〇の部分を属性調査で調査します。
例えば「支払い意欲が高い層は年収が高い特徴がある」という仮説があれば、年収が高いか低いかが分かる設問を加えるといった具合です。
テンプレートのある支払い意欲調査と比べると、格段に難易度が上がります。
イメージしやすいように、実際に当社が行った、Netflix(ネットフリックス)の調査で作成した設問を記載します。
支払い意欲の差を生みそうな下記3つの仮説を検証するための設問を入れました。
<Netflixの支払い意欲差が現れそうな条件>
- 同居人数の数(購入アカウント数によって支払い意欲が変わるかもしれないという仮説)
- 視聴デバイス(利用デバイスによって支払い意欲が変わるかもしれないという仮説)
- 利用時間(利用量に基づき、支払い意欲が上がるのかもしれないという仮説)
また実際にお金を払っているか、現在どのプランに加入しているかによっても、支払い意欲は変わるので、分析の際に振り分けられるように情報を取得しています。
<Netflixの調査で使用した属性設問文の例>
ステップ4:調査対象の選定
アンケート設問が完成したら、調査の対象を選定します。
アンケート調査の対象は、潜在顧客または既存顧客のどちらか、またはその両⽅に対して⾏います。
潜在顧客を対象にする場合
潜在顧客とは、商品・サービスの存在を知れば(あるいはその必要性を感じさせることができれば)購⼊してくれる⾒込みのある⼈々のことを指します。
潜在顧客を対象とするケースとしては、「新規事業」の値付けの場合や既存顧客にないペルソナの顧客を獲得していく場合に調査対象とすることが多いです。
調査方法としては、調査会社を活⽤することが多いです。
既存顧客を対象にする場合
既存顧客とは、自社製品をすでに使用したことがあり、⾃社製品の価値を最も理解している人々のことを指します。
既存顧客を対象にするケースとしては、既存製品の価格変更や支払い意欲を把握したい場合に調査対象とすることが多いです。
調査⽅法としては、自社の保有リストにアンケートを実施、もしくは調査会社を活用してアンケートを実施し、自社製品の利用経験のある分析データを集計することが多いです。
<注意点>
調査対象を絞り込みすぎないようにします。
顧客属性の仮説が外れていた場合、集めた全てのデータが無意味となり、リカバリーすることができないためです。
複数の顧客属性に対し、アンケート調査を実施し、仮説Aが外れたら、仮説B、Cを検証する、といったことができるようにしておくと良いでしょう。
ステップ5:調査実施
設計した調査を実施します。
なお、調査を実施する前に今⼀度、プライシングの⽬的や、それをどのように実現するか、ずれた設問設計になってはいないかなどの調査内容の見直しを行いますが、調査要件の精度が高ければ高いほど負荷は減ります。
そして、調査の進捗を定期的にモニタリングし、アンケートの回収状況が良くない場合はリマインドの連絡をしたり、配信していない別の顧客にもアンケートを配信したりすることも必要となります。
ステップ6:分析結果の⾒⽅
調査が終了したら、分析結果のズレにつながる「ノイズデータ」を特定・排除した後に集計します。
データクレンジング
分析結果のズレにつながる「ノイズデータ」を特定・排除します。
例えば下記の様なデータは排除対象です。
<ノイズデータの例>
- 価格が⽭盾している回答(例:「⾼すぎると感じる価格」より「安すぎると感じる価格」のほうが価格が⾼い回答しているなど)
- ストレートアンサー(例:すべての設問回答が「1」など。)
- 無回答
データの集計
データクレンジング後、価格調査の結果を集計します。
グラフに回答者を累積してプロット(打点)していくと、下記4つの交点がわかります。ここで判明する4つの交点だけではまだ根拠を持った価格決定ができる判断材料になっていない点に注意です。
価格の意思決定に活かすためには分析結果を加工する必要があります。
- 上限価格:顧客が「これ以上⾼いと検討に乗らない」と感じる⾦額
- 妥協価格:顧客が「⾼い」と感じ始める⾦額
- 最適価格:顧客が「安い」と感じ始める⾦額
- 下限価格:顧客が「これ以上安いと品質に不安」と感じる⾦額
ステップ7:価格の意思決定に活かす分析結果の活用の仕⽅
価格の意思決定に活かすために、集計した価格ごとの購買⼈数と売り上げを推計していきます。
そうすることで、「〇〇円では、購買人数がどれくらいいるのか、売上はいくらになるのか」が各価格ごとに分かり、価格決定において、説明責任を果たせるほど⼗分な分析結果を出すことができます。
購買⼈数と売上を推計する
下記方法で価格ごとの購買⼈数と売上の推計をしていきます。
<購買人数と売上を推計する手順>
- 分析対象の顧客が「⾼すぎて検討に乗らない価格」より安く、かつ「安すぎて品質や効果に不安を感じる⾦額」より⾼い⾦額であれば購買可能と仮定します。
- 各価格毎に何%の顧客が購買可能か、を集計し、「購買⼈数を推計」します。
- 売り上げ=単価×数量ですから、「購買人数」に単価をかけ「売上を推計」します。
こうして作成したグラフが図Aで、これをわかりやすく表現したのが、図Bです。
▼図A
図Aからは、「顧客最大価格」で価格決定を行えば、顧客数を最大に伸ばすことができる可能性があるということが分かり、「売上最大価格」で価格決定を行えば、売上を最大に伸ばすことができる可能性があるということがわかります。
▼図B
図Bを見ていけば、顧客の離脱率を最も抑えながら売上を伸ばせる可能性が高い価格「最適価格」がわかります。
例えば、図Bでは、1790円まで価格を上げてしまうと、売上は11%プラスになりますが、顧客が14%離脱してしまう可能性が考えられます。一方、1490円であれば顧客の離脱を3%に抑えながら、売上は10%もアップする可能性が高いということが分かるのです。
調査・分析が済んだら「事業がどうあってほしいのか」といった事業レイヤーでの目標を達成するために「どんなプライシング戦略でそれを実現するのか」というプライシングレイヤーでの目的を達成できる価格がいくらなのかを分析結果から選びます。
PSM分析と購買人数の推計の結果の注意点
ここで、注意点が一つあります。
このPSM分析と購買人数の推計の結果は、分析対象とする回答者の顧客属性によって左右されます。
分析の対象に、支払い意欲が高い顧客が多く含まれている場合、顧客最大価格が右に寄り、そうでない場合左に寄るということです。
顧客毎の「⽀払い意欲の差」が⽣まれる変数を特定し、実際の戦略や顧客実態と⼀致する分析対象のみで、推計を⾏う必要があります。
【支払い意欲差を特定する方法】については、主に以下に記載する2つの方法を使用します。
⽀払い意欲差を特定する⽅法
⽀払い意欲差を特定する⽅法として大きく分けて2つあり、「箱ひげ図」と「散布図」があります。
箱ひげ図
箱ひげ図とはデータを可視化する際に活用されるグラフの1つで、主にデータの分布を把握したい場合に使われます。
データを4等分に分け、それらを同一のフォーマットで表します。
箱部分の中央の線は、中央値を表しており、垂直方向に出た線(ひげ)の最下部、最上部はそれぞれ最小値、最大値を表しています。また最小値、最大値だけでなく、四分位数の情報を含んでいます。
四分位数は、データを小さい順に並べて、小さなものから順位をつけた時に、
- 25%(第一四分位数・25パーセンタイル)
- 50%(第二四分位数・50パーセンタイル)
- 75%(第三四分位数・75パーセンタイル)
に該当する値のことを指します。
プライシングの分析では、この箱ひげ図の、特に平均値やボリュームゾーン(図の長方形部分)に注目し、支払い意欲の傾向を確認する際に活用します。
<例:業界別の支払い意欲の比較>
箱ひげ図を用いた例として、次の図では、BtoBサービスの支払い意欲調査から得られた比較データを表しています。
縦軸では、PSM分析で取得した顧客がこれ以上高いと検討に乗らない金額(=購買してくれない金額)をとっており、横軸では比較したい顧客の属性(=今回はクライアント企業の業界)をとっています。
これを見ると「製造業」の支払い意欲が「卸売・小売業」「サービス業」に比べて、高いということがわかります。
あくまでも例ですが、「製造業のクライアントの方が、課題を強く感じており、支払い意欲が高く出ていると推察される」といった考察をすることができます。
主に「製造業」が使うサービスなのか、「それ以外の業界」が使うサービスなのかによって価格を変えたり、利用用途の差異となるトリガー(機能や利用頻度・量など)に差をつけ、「一物多価」で販売するなどの戦略を考えることができます。
定性的な要素の比較には箱ひげ図が有効ですが、定量的な要素の比較なら散布図を活用するのがいいでしょう。
散布図
散布図とは、下記のように横軸と縦軸にそれぞれ別の量をとり、データが当てはまるところにプロット(打点)して示すグラフです。
2つの量に関係があるかどうかをみるのに非常に便利なグラフです。
散布図からわかることは、あるデータに関して、縦軸と横軸のそれぞれの要素に相関関係があるのかどうかです。
相関関係とは、それぞれの要素の変動がどう関係しているかを示すもので、片方の要素がどのようにもう片方の要素に影響を与えているかを示す因果関係とは異なることに注意が必要です。相関関係があったとしても因果関係があるとは限らないということです。
<例:ビジネスマッチングアプリへの支払い意欲の比較>
散布図を用いた例として、次の図はビジネスマッチングアプリを例に、3つの散布図を比較しているものです。
3つの図それぞれで、縦軸に、支払い意欲の高低をとっており、上に行けば行くほど支払い意欲が高いということです。横軸には、左の図はオファー候補としてプロフィールを閲覧した人数、中央の図はマッチングした人数、右はオファーの送信数を取っています。
この3つの図を比較すると、マッチングした人数が多ければ多いほど顧客の支払い意欲は高いが、閲覧した人数が多くても支払い意欲は上がらないということがわかります。
ここから、マッチング数が増えるごとに課金額が増える従量課金だと顧客に受け入れられやすいということがわかります。
このように散布図は、ある変数と、支払い意欲は相関するのかを検証するのに有効な手法です。
まとめ
今回はPSM分析について、実施プロセスの具体的な業務内容を解説しました。
PSM分析は、製品・サービスの適正価格を導くために⽤いられる分析⼿法です。
顧客のアンケートにもとづき、顧客価値 から価格を算出することで、しっかりと根拠を持った適切な価格決定が実行できます。
本記事に続き「価格体系の種類とメリット・デメリット一覧(第3部)」を公開します。
どんな価格体系が良いのか・価格体系によってどんなメリット・デメリットがあるのかが知りたい方はぜひご一読ください。
また、PSM分析について不明点がある方やバリューベースの価格設定を実現したい事業者様は、お気軽に、プライシングスタジオにお問い合わせください。
プライシングスタジオが提供するホワイトペーパーも配布中!
SaaS/サブスク業界や日用消費財業界などの事業成長に向けた価格戦略の考え方と価格プロジェクトのフレームワークを収録した資料もダウンロードいただくことが可能です。
(この記事は、PSM分析の基礎と実施プロセスの全体像の続きの記事です。)
「PSM分析のやり方がわからない」 「適正価格はどう設定したら良いんだろう」「そもそもPSM分析は実用性があるの?」
このような悩みや疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?
今回は「価格」の分析手法であるPSM分析の具体的な実施プロセスについてまとめました。
この記事は、以下のような方におすすめの記事です。
- PSM分析とはどんな方法なのか?を知りたい
- PSM分析の調査・分析⽅法を知りたい
- PSM分析の実務レベルでの活⽤⽅法を知りたい
全部で3部構成となっており、
本記事では、第2部となる「PSM分析の実施プロセスの具体的な業務内容」を解説します。
PSM分析の基礎や実施プロセスの全体像を知りたい方は、第1部からお読みください。
- PSM分析の基礎と実施プロセスの全体像→第1部
- 実施プロセスの具体的な業務内容 → 第2部(本記事)
- 価格体系の種類とメリット・デメリット一覧 → 第3部(4/28掲載予定)
第1部~第3部まで通して読んでいただくことで、
PSM分析を、基礎から実施方法まで理解でき、実務として活用できるようになります。
ぜひ最後まで一読ください!
目次
PSM分析の実施プロセスの全体像
早速PSM分析の実施プロセスについて解説していきます。全体の流れとしては7つのステップで進んでいきます。
- ステップ1:目標設定・価格仮説立案
- ステップ2:調査仮説の策定(顧客像と価格体系の仮説
- ステップ3:アンケートの設問を考える
- ステップ4:調査対象の選定
- ステップ5:調査実施
- ステップ6:分析結果の⾒⽅
- ステップ7:価格の意思決定に活かす分析結果の加⼯の仕⽅
各ステップごとの細かな業務内容について詳しく解説していきます。
ステップ1:目標設定・価格仮説立案
PSM分析の成否を分ける最も重要なことが、この⽬的設定・価格仮説⽴案です。
まず「売上が最⼤化する価格」と「顧客数が最⼤化する価格」は異なります。
事業がどうありたいのか、「売上」と「顧客数」のどちらにプライオリティーをおきたいのか、といった目的によって、プライシングで調査・分析すべき価格が異なります。すると、立案すべき価格仮説も異なってくるため、PSM分析を行う際は、この最初の目的設定と、その目的に合わせた価格仮説を立案することが最も重要なのです。
目的設定を行う際のポイントは、「事業レイヤー」「プライシングレイヤー」の2つの観点から考えることです。
具体的には、「事業がどうありたいのか」といった事業レイヤーでの目的と、「それを実現するための価格はどのようなものか」、言い換えると「どんなプライシング戦略でそれを実現するのか」といったプライシングレイヤーでの目的をそれぞれ考えることになります。
事業レイヤーでの目的「事業で何を実現したいのか」というのは、すなわち「価格の検討が必要な背景」になります。例えば以下のようなことです。
<価格の検討が必要な背景の例>
- 中期経営計画での売り上げ目標達成
- 新規サービスローンチ時の顧客獲得
- サービス成熟期の利益改善
- 顧客業界別の効率的な営業活動の実現
- 新規ターゲット顧客層の獲得
背景が明文化できたら次は、プライシングレイヤーでの目的設定を行います。明文化した課題を解決できるような目的を考えます。具体的には以下のようなことです。
<目的の例>
- 【中期経営計画での売り上げ目標達成】
→ あり得る価格変更余地を検証し、売り上げ目標を達成できるような値上げを実現する。
- 【新規サービスローンチ時の顧客獲得】
→ ローンチ時の顧客獲得を実現できるような、顧客に受け入れられやすい価格を策定する。
- 【サービス成熟期の利益改善】
→ 顧客毀損を抑えつつ、利益目標を達成できるような値上げを実現する。
- 【顧客業界別の効率的な営業活動の実現】
→ 顧客の業界別に適切な価格を設定する。
- 【新規ターゲット顧客層の獲得】
→ 既存顧客とは異なるターゲット層を獲得しやすい価格を設定する。
そしてこの目的こそが、これから始まる価格変更(決定)プロジェクトの目的であり、実現するプライシングの理想の姿となります。
ステップ2以降ではこの状態を目指し、実行プロセスを進めていくことになります。
ステップ2:調査仮説の策定
アンケート調査を行う前に、調査仮説を立てます。
有効なアンケート調査を獲得するためには、良い調査仮説を⽴てることが重要です。
考え方としては、「顧客像」と「価格体系」の2つの観点から調査仮説を⽴てます。
顧客像の仮説
顧客像の調査仮説をたてる際は、どのような特徴の顧客であれば、より多くの⾦額でも出してくれそうか(⽀払い意欲が変わりそうか)を考えます。
考える軸としては、「顧客性」「サービス利⽤状況」の2点です。B2CとB2Bに分けてそれぞれ考えると以下のようになります。
<B2C>
- 顧客属性:性別・年収・居住地・趣味嗜好
- サービス利用状況:利⽤している機能や、購買の頻度といったサービスの利⽤状況
<B2B>
- 顧客属性:売り上げ・従業員数などの企業規模・業界
- サービス利⽤状況:利⽤している機能やアカウント数といったサービスの利⽤状況
仮に候補を出すのが難しい場合は、重視したい顧客像の特徴を洗い出すと、仮説が見えやすくなります。
価格体系の仮説
価格体系の調査仮説を立てる際は、洗い出した顧客像に対して、定額課⾦や従量課⾦といった適切と思われる価格体系の仮説を立てます。
価格体系は特徴ごとにメリットデメリットが存在し、サービスの提供価値に応じて、適した価格体系が異なります。
例えば、「使った分だけお⾦を⽀払う」従量課⾦を検討している場合、課⾦軸の利⽤量に⽐例して⽀払い意欲が変わるのかを調査する必要がありますが、検討していない場合はそれを調査する必要はありません。
調査仮説を立てる際は、価格変更後の価格体系をイメージしておき、それを検証する形で調査を行っていくのがポイントです。
様々な「価格体系」の種類や違いなどの詳しい内容については「価格体系の種類とメリット・デメリット一覧(第3話)」(4/28公開予定)にて解説します。
ステップ3:アンケートの設問を考える
アンケートの設問文を考えます。
設問には⽀払い意欲を調べる「⽀払い意欲調査設問」と顧客の属性を調べる「属性設問」の2種類があります。
分析の段階では、これらの 「⽀払い意欲調査設問」と「属性設問」で得られた情報を突合して分析します。
支払い意欲調査設問
「支払い意欲調査設問」とは、PSM分析を行う際によく使用される次の4つのアンケート項目です。
- その製品・サービスについて、あなたが⾼いと感じ始める⾦額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める⾦額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたがこれ以上⾼いと検討に乗らない⾦額はいくらくらいですか?
- その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる⾦額はいくらくらいですか?
属性設問
「属性設問」とは 「⽀払意欲の差」を特定するための情報、つまり、⽀払い意欲が変わるペルソナを明確化するための質問です。
「支払い意欲が高い層は〇〇のような特徴がある」「支払い意欲が低い層は〇〇のような特徴がある」といった仮説を検証するために、この〇〇の部分を属性調査で調査します。
例えば「支払い意欲が高い層は年収が高い特徴がある」という仮説があれば、年収が高いか低いかが分かる設問を加えるといった具合です。
テンプレートのある支払い意欲調査と比べると、格段に難易度が上がります。
イメージしやすいように、実際に当社が行った、Netflix(ネットフリックス)の調査で作成した設問を記載します。
支払い意欲の差を生みそうな下記3つの仮説を検証するための設問を入れました。
<Netflixの支払い意欲差が現れそうな条件>
- 同居人数の数(購入アカウント数によって支払い意欲が変わるかもしれないという仮説)
- 視聴デバイス(利用デバイスによって支払い意欲が変わるかもしれないという仮説)
- 利用時間(利用量に基づき、支払い意欲が上がるのかもしれないという仮説)
また実際にお金を払っているか、現在どのプランに加入しているかによっても、支払い意欲は変わるので、分析の際に振り分けられるように情報を取得しています。
<Netflixの調査で使用した属性設問文の例>
ステップ4:調査対象の選定
アンケート設問が完成したら、調査の対象を選定します。
アンケート調査の対象は、潜在顧客または既存顧客のどちらか、またはその両⽅に対して⾏います。
潜在顧客を対象にする場合
潜在顧客とは、商品・サービスの存在を知れば(あるいはその必要性を感じさせることができれば)購⼊してくれる⾒込みのある⼈々のことを指します。
潜在顧客を対象とするケースとしては、「新規事業」の値付けの場合や既存顧客にないペルソナの顧客を獲得していく場合に調査対象とすることが多いです。
調査方法としては、調査会社を活⽤することが多いです。
既存顧客を対象にする場合
既存顧客とは、自社製品をすでに使用したことがあり、⾃社製品の価値を最も理解している人々のことを指します。
既存顧客を対象にするケースとしては、既存製品の価格変更や支払い意欲を把握したい場合に調査対象とすることが多いです。
調査⽅法としては、自社の保有リストにアンケートを実施、もしくは調査会社を活用してアンケートを実施し、自社製品の利用経験のある分析データを集計することが多いです。
<注意点>
調査対象を絞り込みすぎないようにします。
顧客属性の仮説が外れていた場合、集めた全てのデータが無意味となり、リカバリーすることができないためです。
複数の顧客属性に対し、アンケート調査を実施し、仮説Aが外れたら、仮説B、Cを検証する、といったことができるようにしておくと良いでしょう。
ステップ5:調査実施
設計した調査を実施します。
なお、調査を実施する前に今⼀度、プライシングの⽬的や、それをどのように実現するか、ずれた設問設計になってはいないかなどの調査内容の見直しを行いますが、調査要件の精度が高ければ高いほど負荷は減ります。
そして、調査の進捗を定期的にモニタリングし、アンケートの回収状況が良くない場合はリマインドの連絡をしたり、配信していない別の顧客にもアンケートを配信したりすることも必要となります。
ステップ6:分析結果の⾒⽅
調査が終了したら、分析結果のズレにつながる「ノイズデータ」を特定・排除した後に集計します。
データクレンジング
分析結果のズレにつながる「ノイズデータ」を特定・排除します。
例えば下記の様なデータは排除対象です。
<ノイズデータの例>
- 価格が⽭盾している回答(例:「⾼すぎると感じる価格」より「安すぎると感じる価格」のほうが価格が⾼い回答しているなど)
- ストレートアンサー(例:すべての設問回答が「1」など。)
- 無回答
データの集計
データクレンジング後、価格調査の結果を集計します。
グラフに回答者を累積してプロット(打点)していくと、下記4つの交点がわかります。ここで判明する4つの交点だけではまだ根拠を持った価格決定ができる判断材料になっていない点に注意です。
価格の意思決定に活かすためには分析結果を加工する必要があります。
- 上限価格:顧客が「これ以上⾼いと検討に乗らない」と感じる⾦額
- 妥協価格:顧客が「⾼い」と感じ始める⾦額
- 最適価格:顧客が「安い」と感じ始める⾦額
- 下限価格:顧客が「これ以上安いと品質に不安」と感じる⾦額
ステップ7:価格の意思決定に活かす分析結果の活用の仕⽅
価格の意思決定に活かすために、集計した価格ごとの購買⼈数と売り上げを推計していきます。
そうすることで、「〇〇円では、購買人数がどれくらいいるのか、売上はいくらになるのか」が各価格ごとに分かり、価格決定において、説明責任を果たせるほど⼗分な分析結果を出すことができます。
購買⼈数と売上を推計する
下記方法で価格ごとの購買⼈数と売上の推計をしていきます。
<購買人数と売上を推計する手順>
- 分析対象の顧客が「⾼すぎて検討に乗らない価格」より安く、かつ「安すぎて品質や効果に不安を感じる⾦額」より⾼い⾦額であれば購買可能と仮定します。
- 各価格毎に何%の顧客が購買可能か、を集計し、「購買⼈数を推計」します。
- 売り上げ=単価×数量ですから、「購買人数」に単価をかけ「売上を推計」します。
こうして作成したグラフが図Aで、これをわかりやすく表現したのが、図Bです。
▼図A
図Aからは、「顧客最大価格」で価格決定を行えば、顧客数を最大に伸ばすことができる可能性があるということが分かり、「売上最大価格」で価格決定を行えば、売上を最大に伸ばすことができる可能性があるということがわかります。
▼図B
図Bを見ていけば、顧客の離脱率を最も抑えながら売上を伸ばせる可能性が高い価格「最適価格」がわかります。
例えば、図Bでは、1790円まで価格を上げてしまうと、売上は11%プラスになりますが、顧客が14%離脱してしまう可能性が考えられます。一方、1490円であれば顧客の離脱を3%に抑えながら、売上は10%もアップする可能性が高いということが分かるのです。
調査・分析が済んだら「事業がどうあってほしいのか」といった事業レイヤーでの目標を達成するために「どんなプライシング戦略でそれを実現するのか」というプライシングレイヤーでの目的を達成できる価格がいくらなのかを分析結果から選びます。
PSM分析と購買人数の推計の結果の注意点
ここで、注意点が一つあります。
このPSM分析と購買人数の推計の結果は、分析対象とする回答者の顧客属性によって左右されます。
分析の対象に、支払い意欲が高い顧客が多く含まれている場合、顧客最大価格が右に寄り、そうでない場合左に寄るということです。
顧客毎の「⽀払い意欲の差」が⽣まれる変数を特定し、実際の戦略や顧客実態と⼀致する分析対象のみで、推計を⾏う必要があります。
【支払い意欲差を特定する方法】については、主に以下に記載する2つの方法を使用します。
⽀払い意欲差を特定する⽅法
⽀払い意欲差を特定する⽅法として大きく分けて2つあり、「箱ひげ図」と「散布図」があります。
箱ひげ図
箱ひげ図とはデータを可視化する際に活用されるグラフの1つで、主にデータの分布を把握したい場合に使われます。
データを4等分に分け、それらを同一のフォーマットで表します。
箱部分の中央の線は、中央値を表しており、垂直方向に出た線(ひげ)の最下部、最上部はそれぞれ最小値、最大値を表しています。また最小値、最大値だけでなく、四分位数の情報を含んでいます。
四分位数は、データを小さい順に並べて、小さなものから順位をつけた時に、
- 25%(第一四分位数・25パーセンタイル)
- 50%(第二四分位数・50パーセンタイル)
- 75%(第三四分位数・75パーセンタイル)
に該当する値のことを指します。
プライシングの分析では、この箱ひげ図の、特に平均値やボリュームゾーン(図の長方形部分)に注目し、支払い意欲の傾向を確認する際に活用します。
<例:業界別の支払い意欲の比較>
箱ひげ図を用いた例として、次の図では、BtoBサービスの支払い意欲調査から得られた比較データを表しています。
縦軸では、PSM分析で取得した顧客がこれ以上高いと検討に乗らない金額(=購買してくれない金額)をとっており、横軸では比較したい顧客の属性(=今回はクライアント企業の業界)をとっています。
これを見ると「製造業」の支払い意欲が「卸売・小売業」「サービス業」に比べて、高いということがわかります。
あくまでも例ですが、「製造業のクライアントの方が、課題を強く感じており、支払い意欲が高く出ていると推察される」といった考察をすることができます。
主に「製造業」が使うサービスなのか、「それ以外の業界」が使うサービスなのかによって価格を変えたり、利用用途の差異となるトリガー(機能や利用頻度・量など)に差をつけ、「一物多価」で販売するなどの戦略を考えることができます。
定性的な要素の比較には箱ひげ図が有効ですが、定量的な要素の比較なら散布図を活用するのがいいでしょう。
散布図
散布図とは、下記のように横軸と縦軸にそれぞれ別の量をとり、データが当てはまるところにプロット(打点)して示すグラフです。
2つの量に関係があるかどうかをみるのに非常に便利なグラフです。
散布図からわかることは、あるデータに関して、縦軸と横軸のそれぞれの要素に相関関係があるのかどうかです。
相関関係とは、それぞれの要素の変動がどう関係しているかを示すもので、片方の要素がどのようにもう片方の要素に影響を与えているかを示す因果関係とは異なることに注意が必要です。相関関係があったとしても因果関係があるとは限らないということです。
<例:ビジネスマッチングアプリへの支払い意欲の比較>
散布図を用いた例として、次の図はビジネスマッチングアプリを例に、3つの散布図を比較しているものです。
3つの図それぞれで、縦軸に、支払い意欲の高低をとっており、上に行けば行くほど支払い意欲が高いということです。横軸には、左の図はオファー候補としてプロフィールを閲覧した人数、中央の図はマッチングした人数、右はオファーの送信数を取っています。
この3つの図を比較すると、マッチングした人数が多ければ多いほど顧客の支払い意欲は高いが、閲覧した人数が多くても支払い意欲は上がらないということがわかります。
ここから、マッチング数が増えるごとに課金額が増える従量課金だと顧客に受け入れられやすいということがわかります。
このように散布図は、ある変数と、支払い意欲は相関するのかを検証するのに有効な手法です。
まとめ
今回はPSM分析について、実施プロセスの具体的な業務内容を解説しました。
PSM分析は、製品・サービスの適正価格を導くために⽤いられる分析⼿法です。
顧客のアンケートにもとづき、顧客価値 から価格を算出することで、しっかりと根拠を持った適切な価格決定が実行できます。
本記事に続き「価格体系の種類とメリット・デメリット一覧(第3部)」を公開します。
どんな価格体系が良いのか・価格体系によってどんなメリット・デメリットがあるのかが知りたい方はぜひご一読ください。
また、PSM分析について不明点がある方やバリューベースの価格設定を実現したい事業者様は、お気軽に、プライシングスタジオにお問い合わせください。
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