(この記事は『値上げを成功させる法則|値上げの成功の要因と失敗の原因』の続きの記事です。)
前回までの記事では、「値上げを成功させる法則」として、下記2つの要因を解説いたしました。
①顧客の許容⾦額を超えないこと
②顧客と適切なコミュニケーションを取ること
本記事では、上記2つのうち「①顧客の許容⾦額を超えないこと」について、「顧客の許容を超えない金額の求め方と有効な分析方法」と「適切な価格に設定することで値上げに成功した企業事例」について解説いたします。
- 「値上げをしたいが、どう⾏えばいいかわからない…」
- 「値上げをしても顧客離れが最⼩限に収まる価格が知りたい…」
このようにお悩みの方必見の内容になっておりますので、ぜひ最後までお読みください。『値上げを成功させる法則』については全部で3回に分けて解説しております。
前回の記事を読まれたい方は、下記のリンクよりご覧ください。
<値上げを成功させる法則の記事一覧>
- 第1部:値上げの成功の要因と失敗の原因
- 第2部:失敗しない値上げ金額の決め方(本記事)
→「成功の法則①:顧客の許容⾦額を超えないこと」を解説します。 - 第3部:値上げを成功に導く顧客へのコミュニケーションの取り方(6/23公開予定)
→「成功の法則②:顧客と適切なコミュニケーションを取ること」を解説します
「値上げを成功させる法則」として、「顧客の許容金額を超えないこと」と述べましたが、値上げが成功しやすい価格設定を行うためには、まず、「製品・サービスに対して顧客がどの程度の価値を感じているのか」を理解する必要があります。把握した顧客が感じている価値に基づいて価格設定を行う方法として、「バリューベースプライシング」というプライシング手法を用いることが重要です。ここで、「バリューベースプライシング」について詳しく解説していきます。
目次
バリューベースプライシングとは
バリューベースプライシングとは、顧客が商品・サービスに対して知覚している価値を起点に価格を決めるプライシング手法です。
顧客の知覚価値が高ければ、仮に原価率が低くても、競合価格より高くても、知覚価値の範囲内で価格を上げることができ、なおかつ顧客の納得も得ることができるのが特徴です。(ただし、顧客が競合価格を参考にして購入される傾向が高い商材は、知覚価値の範囲内であっても、競合に流動してしまうケースがあるので注意が必要です。)
バリューベースプライシングの重要性
バリューベースプライシングの重要性は既に海外で証明されており、世界各国の主要企業300社(幅広い業種で、半数は売上高10億ドル以上の企業)のうち、競合企業と比べて5%ポイント以上高い利益率を実現している企業の共通点として、価値ベースで定義された顧客セグメントごとにプライシングの戦略を実行している(バリューベースプライシングを実行している)という調査結果があります。
では実際にバリューベースプライシングを行ないたいとなったときに、どのようなプロセスが必要なのでしょうか。
バリューベースプライシングの実行方法
バリューベースプライシングは下記4つのステップで実施していきます。
- ステップ1:顧客ペルソナを定義する
- 製品・サービスに感じる価値は、顧客ペルソナ(顧客像)ごとに異なります。例えば、年齢や年収、趣味嗜好で支払い意欲は変化します。そのためまず自社の製品・サービスを利用する顧客ペルソナを整理することが必要となります。
- ステップ2:顧客価値を仮定する
- 次に、自社の製品・サービスに対して、顧客ペルソナごとにどこに価値を感じているのか、価値を感じているであろうポイントを仮定します。価値を仮定することで、次に行う顧客調査の際、価値と支払い意欲の関係性を把握することができるようになります。
- ステップ3:顧客調査を実施する
- 顧客ペルソナごとに感じている価値を仮定できたら、PSM分析などの支払い意欲を調査する手法を用いて調査を実施します。その調査を元に次は価格を設定します。
- ステップ4:価格を設定する
- これらのプロセスを通じて、「① 〇〇といった特徴を持つペルソナ」で「② 〇〇に価値を感じている」場合の「③ 支払い意欲は〇〇円だ」という情報から、顧客をセグメントごと分けていきます。
この情報を地道に集計していくことで、価格変更によってどんなセグメントの顧客が増減するのかや、売り上げ増減を推計できるため、事業目的に合わせて顧客数と売り上げのバランスを見て、価格を選択できます。
ここで、適切な調査が実施できている場合、価格変更によりどういった属性の顧客が離脱するかもしくは増えるかといったことも分かるため、事業戦略と相反していないかの確認も行い、事業戦略に適した価格を決定できるのです。
適切な価格を設定し値上げに成功した企業事例
実際に適切な価格を設定し、値上げに成功している企業の事例を2つ紹介します。
企業事例①Netflix
Netflixは当時、ベーシックプランの月額料金を従来の880円から990円に、スタンダードプランの月額料金を従来の1320円から1490円に、それぞれ値上げしました。一方、プレミアムプランについては1980円の価格を維持しました。なぜこのような値上げを実施したのかについて、自社で調査したところ、いずれのプランにおいても、ユーザー数を維持できる範囲内で売り上げを最大にできる価格を選択していたことが分かりました。
Netflixは、顧客調査を行いプランごとに顧客が感じている価値を把握し、どのプランだったら、どこまで値上げができるのかそれぞれ理解したうえで値上げを行っていたと考えられます。このことから、全てのプラン一律で値上げするのではなく、ベーシックプランとスタンダードプランのみの値上げを行うことで、解約数を最小限に抑えながら、売上を最大化することができたのです。
企業事例②らぁ麺 飯田商店
2022年、神奈川の人気ラーメン店「らぁ麺 飯田商店」が話題を呼びました。理由は、ラーメンが1600円、つけ麺が2000円と、従来のラーメン業界からするとかなり強気ともいえる価格設定にあります。
ラーメン業界には、古くから「1000円の壁」という言葉が存在します。文字通り、ラーメン1杯の価格が1000円を超えるのは難しいという意味です。実際、都内ラーメン店において、ラーメン1杯の価格のボリュームゾーンは、700円台後半から800円台に落ち着いているのが現状です。
ラーメンの適正価格を考える際には「出店する立地」が1つの指標になります。地方と首都圏ではラーメンの相場は異なるので、まず店舗を構える立地に着目する必要があります。その上で、そのエリアでラーメンを消費する層にとって、いくらまでが予算内なのかを調査によって明らかにしていくのが良いでしょう。
「らぁ麺 飯田商店」の立地は、神奈川県湯河原町という観光の名所です。客層のほとんどが地元在住ではないことは想定されますし、観光中の特別な体験を求めるのなら、ラーメン1杯に対する考え方や財布の大きさも普段とは異なり、2000円でも安く感じる人は多いと想定できます。もちろん、飯田商店のラーメンを食べるために、湯河原町まで行っている方も多いと思います。その層は、エリアとはまた別の要素が「支払い意欲の差」を生んでいます。「支払い意欲の差」を生む要素は1つではありません。
このように、一見すると常識での理解や半直感的な理解に苦しむプライシング戦略であっても、ターゲットとしたい層の支払い意欲を鑑みた値決め、もしくは希望する販売価格から逆算した支払い意欲を持つターゲット選定といった観点で考えると、実は裏にはしっかりした戦略があり、その戦略が理にかなっていることもあるのです。
まとめ
今回は「顧客の許容を超えない金額の求め方」について解説しました。スムーズな値上げを成功させるためには、適切なプロセスに基づく価格設定を行ったうえで、顧客と適切なコミュニケーションが重要です。
次回は、「値上げを成功させる法則」の2つ目の法則「②顧客と適切なコミュニケーションを取ること」の方法について、詳しく解説していきます。
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②顧客と適切なコミュニケーションを取ること
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- 「値上げをしたいが、どう⾏えばいいかわからない…」
- 「値上げをしても顧客離れが最⼩限に収まる価格が知りたい…」
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前回の記事を読まれたい方は、下記のリンクよりご覧ください。
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- 第2部:失敗しない値上げ金額の決め方(本記事)
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→「成功の法則②:顧客と適切なコミュニケーションを取ること」を解説します
「値上げを成功させる法則」として、「顧客の許容金額を超えないこと」と述べましたが、値上げが成功しやすい価格設定を行うためには、まず、「製品・サービスに対して顧客がどの程度の価値を感じているのか」を理解する必要があります。把握した顧客が感じている価値に基づいて価格設定を行う方法として、「バリューベースプライシング」というプライシング手法を用いることが重要です。ここで、「バリューベースプライシング」について詳しく解説していきます。
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バリューベースプライシングとは
バリューベースプライシングとは、顧客が商品・サービスに対して知覚している価値を起点に価格を決めるプライシング手法です。
顧客の知覚価値が高ければ、仮に原価率が低くても、競合価格より高くても、知覚価値の範囲内で価格を上げることができ、なおかつ顧客の納得も得ることができるのが特徴です。(ただし、顧客が競合価格を参考にして購入される傾向が高い商材は、知覚価値の範囲内であっても、競合に流動してしまうケースがあるので注意が必要です。)
バリューベースプライシングの重要性
バリューベースプライシングの重要性は既に海外で証明されており、世界各国の主要企業300社(幅広い業種で、半数は売上高10億ドル以上の企業)のうち、競合企業と比べて5%ポイント以上高い利益率を実現している企業の共通点として、価値ベースで定義された顧客セグメントごとにプライシングの戦略を実行している(バリューベースプライシングを実行している)という調査結果があります。
では実際にバリューベースプライシングを行ないたいとなったときに、どのようなプロセスが必要なのでしょうか。
バリューベースプライシングの実行方法
バリューベースプライシングは下記4つのステップで実施していきます。
- ステップ1:顧客ペルソナを定義する
- 製品・サービスに感じる価値は、顧客ペルソナ(顧客像)ごとに異なります。例えば、年齢や年収、趣味嗜好で支払い意欲は変化します。そのためまず自社の製品・サービスを利用する顧客ペルソナを整理することが必要となります。
- ステップ2:顧客価値を仮定する
- 次に、自社の製品・サービスに対して、顧客ペルソナごとにどこに価値を感じているのか、価値を感じているであろうポイントを仮定します。価値を仮定することで、次に行う顧客調査の際、価値と支払い意欲の関係性を把握することができるようになります。
- ステップ3:顧客調査を実施する
- 顧客ペルソナごとに感じている価値を仮定できたら、PSM分析などの支払い意欲を調査する手法を用いて調査を実施します。その調査を元に次は価格を設定します。
- ステップ4:価格を設定する
- これらのプロセスを通じて、「① 〇〇といった特徴を持つペルソナ」で「② 〇〇に価値を感じている」場合の「③ 支払い意欲は〇〇円だ」という情報から、顧客をセグメントごと分けていきます。
この情報を地道に集計していくことで、価格変更によってどんなセグメントの顧客が増減するのかや、売り上げ増減を推計できるため、事業目的に合わせて顧客数と売り上げのバランスを見て、価格を選択できます。
ここで、適切な調査が実施できている場合、価格変更によりどういった属性の顧客が離脱するかもしくは増えるかといったことも分かるため、事業戦略と相反していないかの確認も行い、事業戦略に適した価格を決定できるのです。
適切な価格を設定し値上げに成功した企業事例
実際に適切な価格を設定し、値上げに成功している企業の事例を2つ紹介します。
企業事例①Netflix
Netflixは当時、ベーシックプランの月額料金を従来の880円から990円に、スタンダードプランの月額料金を従来の1320円から1490円に、それぞれ値上げしました。一方、プレミアムプランについては1980円の価格を維持しました。なぜこのような値上げを実施したのかについて、自社で調査したところ、いずれのプランにおいても、ユーザー数を維持できる範囲内で売り上げを最大にできる価格を選択していたことが分かりました。
Netflixは、顧客調査を行いプランごとに顧客が感じている価値を把握し、どのプランだったら、どこまで値上げができるのかそれぞれ理解したうえで値上げを行っていたと考えられます。このことから、全てのプラン一律で値上げするのではなく、ベーシックプランとスタンダードプランのみの値上げを行うことで、解約数を最小限に抑えながら、売上を最大化することができたのです。
企業事例②らぁ麺 飯田商店
2022年、神奈川の人気ラーメン店「らぁ麺 飯田商店」が話題を呼びました。理由は、ラーメンが1600円、つけ麺が2000円と、従来のラーメン業界からするとかなり強気ともいえる価格設定にあります。
ラーメン業界には、古くから「1000円の壁」という言葉が存在します。文字通り、ラーメン1杯の価格が1000円を超えるのは難しいという意味です。実際、都内ラーメン店において、ラーメン1杯の価格のボリュームゾーンは、700円台後半から800円台に落ち着いているのが現状です。
ラーメンの適正価格を考える際には「出店する立地」が1つの指標になります。地方と首都圏ではラーメンの相場は異なるので、まず店舗を構える立地に着目する必要があります。その上で、そのエリアでラーメンを消費する層にとって、いくらまでが予算内なのかを調査によって明らかにしていくのが良いでしょう。
「らぁ麺 飯田商店」の立地は、神奈川県湯河原町という観光の名所です。客層のほとんどが地元在住ではないことは想定されますし、観光中の特別な体験を求めるのなら、ラーメン1杯に対する考え方や財布の大きさも普段とは異なり、2000円でも安く感じる人は多いと想定できます。もちろん、飯田商店のラーメンを食べるために、湯河原町まで行っている方も多いと思います。その層は、エリアとはまた別の要素が「支払い意欲の差」を生んでいます。「支払い意欲の差」を生む要素は1つではありません。
このように、一見すると常識での理解や半直感的な理解に苦しむプライシング戦略であっても、ターゲットとしたい層の支払い意欲を鑑みた値決め、もしくは希望する販売価格から逆算した支払い意欲を持つターゲット選定といった観点で考えると、実は裏にはしっかりした戦略があり、その戦略が理にかなっていることもあるのです。
まとめ
今回は「顧客の許容を超えない金額の求め方」について解説しました。スムーズな値上げを成功させるためには、適切なプロセスに基づく価格設定を行ったうえで、顧客と適切なコミュニケーションが重要です。
次回は、「値上げを成功させる法則」の2つ目の法則「②顧客と適切なコミュニケーションを取ること」の方法について、詳しく解説していきます。
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