ダイナミックプライシングは、企業の利益最大化だけではなく、顧客満足度の向上につながる「混雑緩和」という価値を持っています。この記事では、ダイナミックプライシングと混雑緩和について解説します。
ダイナミックプライシングとは何かを詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
目次
混雑緩和とダイナミックプライシング
混雑って嫌ですよね。テーマパークに遊びに行こうと思っても、混雑していると知っただけで利用する気がなくなってしまうこともあるのではないでしょうか。混雑はサービスの満足度を低下させうるのです。また、withコロナで叫ばれている”密集”の回避も難しくなってしまいます。
実は、混雑緩和を実現するシステムとして、ダイナミックプライシングに近年注目が集まっています。この記事では、「ダイナミックプライシングがどのように混雑緩和に役立つか」「混雑緩和が期待できる業界はどこか」を解説します。
ダイナミックプライシングが混雑緩和につながる理由
混雑の原因とダイナミックプライシング
そもそもなぜ極端な混雑が起きるのでしょうか?
それは商品やサービスの需要が、社会生活の中で一定の日時に集中しているからなのです。遊園地の休日の来場者数が平日を大きく上回っていたり、飲食店が朝昼晩の食事時に混雑することを思い浮かべると、直感的におわかりいただけるでしょう。
ここでポイントとなるのは、日時によって「サービス内容」「価格」が変わらないがゆえに、人々の社会生活リズムに合わせて需要が集中する、ということです。値段も得られる体験も変わらないのであれば、自分のスケジュールの都合がいいタイミングで商品/サービスを利用したいと思うのは、当然のことでしょう。そして得てして、その”都合のいいタイミング”は、皆さんの間で大差ないものであるのです。
この混雑の問題を解決すべく、「価格」に注目したのがダイナミックプライシングのアプローチなのです。
ダイナミックプライシングによる需要のコントロール
ダイナミックプライシングは、時間と共に変動する人々の需要に合わせて、商品/サービスの価格を変更します。
需要が大きい=混雑している時間には、値上げをすることで、集中する需要を抑えることができます。
また、需要が小さい=空いている時間には、値下げをすることで、混んでいる時に利用しようとしていた客を、空いている時間に誘導することができるのです。
ポイントは、日時によって「サービス内容」は変えずに「価格」を変える点です。提供するサービス内容が変わらないなら、できるだけ安いタイミングで利用したいと思うのが自然でしょう。
このように、ダイナミックプライシングは価格を変化させて需要をコントロールすることで、商品/サービスの利用タイミングを分散させ、混雑を緩和できるのです。
ダイナミックプライシングの詳しい仕組みを知りたい方はこの記事をご覧ください。
DPのメリットについて知りたい方はこの記事をご覧ください。
ダイナミックプライシングによる混雑緩和が期待できる業界
なぜダイナミックプライシングがサービスの混雑緩和に役立つのかは理解していただけたかと思います。ここからはより具体的なイメージが持てるように、混雑問題を解決できそうな業界を紹介していきます。
1.テーマパークでのダイナミックプライシング
テーマパークは混雑が問題になっている業界の一つです。テーマパークにとって顧客満足度は非常に重要な指標となりますが、混雑はその顧客満足度に大きな悪影響を及ぼします。実際、テーマパーク業界ではファストパス制度の導入や、空き時間を把握できるアプリの開発など、混雑問題解決への取り組みがなされています。
例えば、日本最大級のテーマパークであるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下USJ)には、繁忙期にUSJのキャパシティの限界とされる10万人ほどの来場者が訪れます。ここまで人が集まってしまうと、来場者はテーマパークを落ち着いて回ることすら難しくなってしまいます。一方で、1月などの閑散期の平日には、来場者数は非常に少なくなり、売り上げが落ち込んでしまっています。
このような状況下で、USJは2019年1月からダイナミックプライシングを実際に導入しました。閑散期や平日の料金を低く設定することで来場を促して収益を拡大し、一方で繁忙期や休日の料金は高く設定して来場者数を抑えることで混雑を緩和したのです。
このようにテーマパークにおいて、DPは混雑緩和の有効な手段といえるでしょう。
参考
「日経XTREND」
2.高速道路でのダイナミックプライシング
混雑、つまり渋滞は高速道路にとって避けて通れない問題となっています。この原因は様々ですが、その一つが高速道路を利用したいと思う時間が、人々の間で被ってしまうことです。遊園地と同じように、平日か休日か、1日の中のどの時間帯かによって交通量は大きく異なります。特定の日時に交通量が集中し、それが渋滞につながるのです。
高速道路にダイナミックプライシングを導入することができれば、需要の大きい日や時間帯の料金を高く設定することにより、ドライバーに、時間帯をずらした利用や一般道の利用を促すことができます。
東京の主要な高速道路アクアラインでは、AIによる需要予測を通じ、需要が拡大するタイミングに合わせて高速道路周辺のショッピングモールのクーポンを発行しています。これは高速道路の需要が高まる、即ち混雑が予想されるタイミングでショッピングモールに立ち寄ってもらい、混雑を緩和する仕掛けです。道路料金の変更には至っていませんが、道路需要を予測できていることから、今後、料金にダイナミックプライシングを導入できる基盤が整っていると言えます。
また、高速道路でのダイナミックプライシング導入は国内でも実証実験が進んでおり、実装される日も遠くないかもしれません。
参考
「日経XTREND」
「乗り物ニュース」
3.公衆浴場/銭湯でのダイナミックプライシング
公衆浴場も混雑が問題になる業界の一つです。来場者が多くなりすぎると、入浴中にくつろぐことができず、顧客満足度に大きく影響します。公衆浴場の混雑状況を把握するためのウェブサイトまで存在しており、混雑度合いが顧客満足度に与える影響の大きさがうかがえます。テーマパークと同じく顧客満足度が非常に大切な業界だからこそ、需要の集中を防ぐ取り組みが期待されているでしょう。
公衆浴場でダイナミックプライシングが導入されている事例はまだ見受けられませんが、導入によって混雑を緩和できる可能性は大いにあります。
公衆浴場の利用客には一定数、地元住民がいます。彼らは自宅からの距離も短いため、来場する時間帯をコントロールできます。ダイナミックプライシングで混雑する時間帯の料金をあげると、そうした来場時間帯を調整できる人々が需要の小さな時間帯にうまく流れてくれると期待できるのではないでしょうか。
特に温泉地でないエリアであれば、周辺に公衆浴場が点在していることもまれでしょうし、需要が大きい時間に利用しなかった顧客も、他の浴場に流れることなく、別の時間帯に無事利用してもらえるでしょう。
このように銭湯が抱える混雑問題の解決にもダイナミックプライシングは利用できると考えられます。
まとめ
いかがでしたか?混雑問題が起きる要因である、需要の過度の集中を、ダイナミックプライシングは防ぐことができます。実際に遊園地や高速道路などで導入の検討が進んでおり、いずれ混雑問題の解決に貢献する可能性も低くないでしょう。
ダイナミックプライシングは企業にとってもメリットの多いシステムですが、行政、そして消費者にとっても恩恵のあるシステムだと言えます。今後もダイナミックプライシングの導入動向から目が離せませんね。
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混雑緩和とダイナミックプライシング
混雑って嫌ですよね。テーマパークに遊びに行こうと思っても、混雑していると知っただけで利用する気がなくなってしまうこともあるのではないでしょうか。混雑はサービスの満足度を低下させうるのです。また、withコロナで叫ばれている”密集”の回避も難しくなってしまいます。
実は、混雑緩和を実現するシステムとして、ダイナミックプライシングに近年注目が集まっています。この記事では、「ダイナミックプライシングがどのように混雑緩和に役立つか」「混雑緩和が期待できる業界はどこか」を解説します。
ダイナミックプライシングが混雑緩和につながる理由
混雑の原因とダイナミックプライシング
そもそもなぜ極端な混雑が起きるのでしょうか?
それは商品やサービスの需要が、社会生活の中で一定の日時に集中しているからなのです。遊園地の休日の来場者数が平日を大きく上回っていたり、飲食店が朝昼晩の食事時に混雑することを思い浮かべると、直感的におわかりいただけるでしょう。
ここでポイントとなるのは、日時によって「サービス内容」「価格」が変わらないがゆえに、人々の社会生活リズムに合わせて需要が集中する、ということです。値段も得られる体験も変わらないのであれば、自分のスケジュールの都合がいいタイミングで商品/サービスを利用したいと思うのは、当然のことでしょう。そして得てして、その”都合のいいタイミング”は、皆さんの間で大差ないものであるのです。
この混雑の問題を解決すべく、「価格」に注目したのがダイナミックプライシングのアプローチなのです。
ダイナミックプライシングによる需要のコントロール
ダイナミックプライシングは、時間と共に変動する人々の需要に合わせて、商品/サービスの価格を変更します。
需要が大きい=混雑している時間には、値上げをすることで、集中する需要を抑えることができます。
また、需要が小さい=空いている時間には、値下げをすることで、混んでいる時に利用しようとしていた客を、空いている時間に誘導することができるのです。
ポイントは、日時によって「サービス内容」は変えずに「価格」を変える点です。提供するサービス内容が変わらないなら、できるだけ安いタイミングで利用したいと思うのが自然でしょう。
このように、ダイナミックプライシングは価格を変化させて需要をコントロールすることで、商品/サービスの利用タイミングを分散させ、混雑を緩和できるのです。
ダイナミックプライシングの詳しい仕組みを知りたい方はこの記事をご覧ください。
DPのメリットについて知りたい方はこの記事をご覧ください。
ダイナミックプライシングによる混雑緩和が期待できる業界
なぜダイナミックプライシングがサービスの混雑緩和に役立つのかは理解していただけたかと思います。ここからはより具体的なイメージが持てるように、混雑問題を解決できそうな業界を紹介していきます。
1.テーマパークでのダイナミックプライシング
テーマパークは混雑が問題になっている業界の一つです。テーマパークにとって顧客満足度は非常に重要な指標となりますが、混雑はその顧客満足度に大きな悪影響を及ぼします。実際、テーマパーク業界ではファストパス制度の導入や、空き時間を把握できるアプリの開発など、混雑問題解決への取り組みがなされています。
例えば、日本最大級のテーマパークであるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下USJ)には、繁忙期にUSJのキャパシティの限界とされる10万人ほどの来場者が訪れます。ここまで人が集まってしまうと、来場者はテーマパークを落ち着いて回ることすら難しくなってしまいます。一方で、1月などの閑散期の平日には、来場者数は非常に少なくなり、売り上げが落ち込んでしまっています。
このような状況下で、USJは2019年1月からダイナミックプライシングを実際に導入しました。閑散期や平日の料金を低く設定することで来場を促して収益を拡大し、一方で繁忙期や休日の料金は高く設定して来場者数を抑えることで混雑を緩和したのです。
このようにテーマパークにおいて、DPは混雑緩和の有効な手段といえるでしょう。
参考
「日経XTREND」
2.高速道路でのダイナミックプライシング
混雑、つまり渋滞は高速道路にとって避けて通れない問題となっています。この原因は様々ですが、その一つが高速道路を利用したいと思う時間が、人々の間で被ってしまうことです。遊園地と同じように、平日か休日か、1日の中のどの時間帯かによって交通量は大きく異なります。特定の日時に交通量が集中し、それが渋滞につながるのです。
高速道路にダイナミックプライシングを導入することができれば、需要の大きい日や時間帯の料金を高く設定することにより、ドライバーに、時間帯をずらした利用や一般道の利用を促すことができます。
東京の主要な高速道路アクアラインでは、AIによる需要予測を通じ、需要が拡大するタイミングに合わせて高速道路周辺のショッピングモールのクーポンを発行しています。これは高速道路の需要が高まる、即ち混雑が予想されるタイミングでショッピングモールに立ち寄ってもらい、混雑を緩和する仕掛けです。道路料金の変更には至っていませんが、道路需要を予測できていることから、今後、料金にダイナミックプライシングを導入できる基盤が整っていると言えます。
また、高速道路でのダイナミックプライシング導入は国内でも実証実験が進んでおり、実装される日も遠くないかもしれません。
参考
「日経XTREND」
「乗り物ニュース」
3.公衆浴場/銭湯でのダイナミックプライシング
公衆浴場も混雑が問題になる業界の一つです。来場者が多くなりすぎると、入浴中にくつろぐことができず、顧客満足度に大きく影響します。公衆浴場の混雑状況を把握するためのウェブサイトまで存在しており、混雑度合いが顧客満足度に与える影響の大きさがうかがえます。テーマパークと同じく顧客満足度が非常に大切な業界だからこそ、需要の集中を防ぐ取り組みが期待されているでしょう。
公衆浴場でダイナミックプライシングが導入されている事例はまだ見受けられませんが、導入によって混雑を緩和できる可能性は大いにあります。
公衆浴場の利用客には一定数、地元住民がいます。彼らは自宅からの距離も短いため、来場する時間帯をコントロールできます。ダイナミックプライシングで混雑する時間帯の料金をあげると、そうした来場時間帯を調整できる人々が需要の小さな時間帯にうまく流れてくれると期待できるのではないでしょうか。
特に温泉地でないエリアであれば、周辺に公衆浴場が点在していることもまれでしょうし、需要が大きい時間に利用しなかった顧客も、他の浴場に流れることなく、別の時間帯に無事利用してもらえるでしょう。
このように銭湯が抱える混雑問題の解決にもダイナミックプライシングは利用できると考えられます。
まとめ
いかがでしたか?混雑問題が起きる要因である、需要の過度の集中を、ダイナミックプライシングは防ぐことができます。実際に遊園地や高速道路などで導入の検討が進んでおり、いずれ混雑問題の解決に貢献する可能性も低くないでしょう。
ダイナミックプライシングは企業にとってもメリットの多いシステムですが、行政、そして消費者にとっても恩恵のあるシステムだと言えます。今後もダイナミックプライシングの導入動向から目が離せませんね。
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