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2020.11.24(更新日:2023.07.13)

単一価格モデルとは?メリット・デメリット・導入企業例【SaaS価格体系】

単一価格モデルとは?メリット・デメリット・導入企業例【SaaS価格体系】
単一価格モデルとは?メリット・デメリット・導入企業例【SaaS価格体系】
その他・価格業界情報
#SaaS・サブスク
#価格戦略

サービスを利用する時に1つのプランがある場合と複数のプランがある場合があるかと思います。
ここではSaaSの価格体系の中でも1つのプランを提供する単一価格モデルをご紹介します。

単一価格モデル(Flat rate pricing model)とは

単一価格モデル(Flat rate pricing model)とは、サービスに対して料金体系が1つであるサブスクリプションモデルです。

全てのユーザーに対して単一の製品・機能・価格を提供するため、SaaSの価格体系の中でも最もシンプルなものになります。例えば、ターゲットセグメントが画一的であったり、機能や価値が単一化されているシンプルなサービスで利用されます。

また、事業ニーズがあるかを仮説検証しやすいという観点から、PMFが優先されるシード(新規事業フェーズを含む)・アーリーステージなどで利用されることが多いです。

一方で、幅の広い顧客層のニーズに1つのプランで応えるということは難しく、SaaSの価格体系としてあまり多くは見受けられません。

今回は、単一価格モデルのメリット・デメリット・導入企業例を解説していきます。

単一価格モデルのメリット

単一価格モデルの最大のメリットは1つのサービスに対して、1つの価格体系というシンプルさから「サービス価値を顧客に伝えやすく売りやすい」ということがあげられます。

サービスを購買する顧客は、複数のプランがある場合よりも意思決定が容易です。このことから、新規顧客の獲得の増加にも繋がりやすくなっています。

また、サービスを紹介するLPやWebページ作成も容易になります。複数の価格プランがある場合、価格帯により見栄えも複雑になり、見にくくなってしまうことがあります。

それに対して、単一価格モデルの場合、顧客に伝えたいことは1つであり明確なため、サイト自体もシンプルな構成にすることが可能です。これは企業側の負担削減に繋がると同時に、顧客にとってもそのサービスに対する理解がしやすいという点から両者にとっての利点となります。

単一価格モデルのデメリット

次に単一価格モデルのデメリットを3つ挙げます。

幅広いユーザーのニーズに応えることが困難

1つのプランしか用意されていないがため、幅広いユーザーのニーズに応えることが困難になる場合があります。それにより、顧客の層を狭めてしまい本来獲得できていたはずの収益を逃す可能性があります。

また、BtoBサービスの場合でも、価格とサービスともに大企業と中小企業に対して同一です。規模の違う企業のニーズは大きく異なるため、両者にとって魅力的な価格設定は難しくなります。

売上の向上が困難

幅広いニーズに応えられないことで、売上の向上が困難になります。SaaS業界では、顧客のニーズに合わせて戦略・価値・価格を変化させていくことが重要です。しかし、単一価格モデルでは実現不可能になります。

コストリソースが顧客ごとに変動する場合、それに応じて対応できないのは収益を上げる際に大きな欠点です。柔軟な対応と変化に迅速に適応する能力は、SaaS業界においては必須となります。プランごとに顧客を惹きつけるような違いを出したり、柔軟な料金展開ができないことは顧客獲得において大きな弊害です。

また、複数プランがないことは、顧客の単価を向上させるために、顧客に対し高額な上位モデルに乗り換えてもらうアップセルを行うことができません

顧客に心理的弊害をもたらす場合がある

単一価格モデルは、プランの選択肢がないため、一部の顧客にとって包括的な扱いをされていると感じる可能性があります。このように顧客が感じてしまった場合、顧客は企業の提供するサービスを享受することはなくなります。

幅広い顧客ニーズを満たせない場合、顧客に対して心理的に不満を感じさせてしまいます。

単一価格モデルを導入している企業例

現在、単一価格モデルを導入している企業はほとんどありません。幅の広い顧客層のニーズに1つのプランで応えるということは難しく、柔軟性の欠如、アップセルを期待できないため収益拡大が困難な点が主な理由と言えるでしょう。

その中でも成功例として挙げられるのはBasecampという企業です。

Basecampでは、複数のアプリケーションの機能を、1つに集約したサービスを展開しています。
例えば、リアルタイムチャットの機能を持つSlack、やることリストを管理するAsana Premium、ファイルストレージを管理するDropbox、ドキュメント・カレンダー機能のあるGsuiteなどの機能が搭載されています。

これらのアプリケーションサービスを全て別々に購入した場合莫大な月額料金となりますが、これら全ての機能を月額99ドルでサービスを受けることができるのがBasecampです。

この企業の有料プランは単一価格モデルに該当します。月額99ドルで固定料金なため、追加費用は一切かかりません。月額99ドルというのは一見高額に見えますが、ユーザー数が増えても追加料金が発生しないということは、多くのユーザーを持つ大企業などは結果的にお得になります。月額料金以上支払うことなく無制限の数のユーザーを招待できるという点はこの企業のセールスポイントです。

また、この企業が成功した要因として様々なサービスの工夫が設けられています。
・1年間前払いすると15%の割引が適用
・30日間の無料トライアル期間
・非営利団体は10%の割引が適用
・教育(幼稚園から大学までの高校と教師)は無料で利用可能

これらの要因から、Basecampは単一価格モデルでも成功した事例となります。

まとめ

価格体系の1つである単一価格モデルは1つの価格を提供するモデルです。シンプルであるため、サービス内容を顧客に伝えやすく売りやすいというメリットがある反面、幅広いユーザーのニーズにこたえることが困難売上の向上が困難顧客に心理的弊害をもたらす可能性があるなど3つのデメリットがあります。

単一価格単体を導入している企業は数少なくその他の価格体系追加導入したり移行する企業が多いです。その理由としては、単一価格モデルは柔軟性に欠ける、収益向上できないということが一番の要因としてあげられるでしょう。

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Yoshihiro Takahashi

高橋 嘉尋

プライシングスタジオ株式会社

代表取締役CEO

プライシングスタジオ株式会社代表取締役 CEO。2019年、慶應義塾大学総合政策学部在学中に価格1%が企業の営業利益を約20%の改善につながるということを知り、その影響力に魅力を感じ、当社を設立。プライシングスタジオは設立以来、30以上の業界、100以上のサービスの値付けを支援している。著書に「値決めの教科書 勘と経験に頼らないプライシングの新常識」(日経BP)。「日経トップリーダー・ビジネス」にて「値決めの科学」、「ダイヤモンドオンライン」にて「価格戦略のプロが見た「あの値付け」」を連載中。「日経COMEMO」キーオピニオンリーダー。そのほか、テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、ABEMA「ABEMA Prime」、NewsPicks「メイクマネー」など多数メディアに出演。2023年Forbesによる「アジアを代表する30才未満の30人」に部門で選出される。

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ここではSaaSの価格体系の中でも1つのプランを提供する単一価格モデルをご紹介します。

単一価格モデル(Flat rate pricing model)とは

単一価格モデル(Flat rate pricing model)とは、サービスに対して料金体系が1つであるサブスクリプションモデルです。

全てのユーザーに対して単一の製品・機能・価格を提供するため、SaaSの価格体系の中でも最もシンプルなものになります。例えば、ターゲットセグメントが画一的であったり、機能や価値が単一化されているシンプルなサービスで利用されます。

また、事業ニーズがあるかを仮説検証しやすいという観点から、PMFが優先されるシード(新規事業フェーズを含む)・アーリーステージなどで利用されることが多いです。

一方で、幅の広い顧客層のニーズに1つのプランで応えるということは難しく、SaaSの価格体系としてあまり多くは見受けられません。

今回は、単一価格モデルのメリット・デメリット・導入企業例を解説していきます。

単一価格モデルのメリット

単一価格モデルの最大のメリットは1つのサービスに対して、1つの価格体系というシンプルさから「サービス価値を顧客に伝えやすく売りやすい」ということがあげられます。

サービスを購買する顧客は、複数のプランがある場合よりも意思決定が容易です。このことから、新規顧客の獲得の増加にも繋がりやすくなっています。

また、サービスを紹介するLPやWebページ作成も容易になります。複数の価格プランがある場合、価格帯により見栄えも複雑になり、見にくくなってしまうことがあります。

それに対して、単一価格モデルの場合、顧客に伝えたいことは1つであり明確なため、サイト自体もシンプルな構成にすることが可能です。これは企業側の負担削減に繋がると同時に、顧客にとってもそのサービスに対する理解がしやすいという点から両者にとっての利点となります。

単一価格モデルのデメリット

次に単一価格モデルのデメリットを3つ挙げます。

幅広いユーザーのニーズに応えることが困難

1つのプランしか用意されていないがため、幅広いユーザーのニーズに応えることが困難になる場合があります。それにより、顧客の層を狭めてしまい本来獲得できていたはずの収益を逃す可能性があります。

また、BtoBサービスの場合でも、価格とサービスともに大企業と中小企業に対して同一です。規模の違う企業のニーズは大きく異なるため、両者にとって魅力的な価格設定は難しくなります。

売上の向上が困難

幅広いニーズに応えられないことで、売上の向上が困難になります。SaaS業界では、顧客のニーズに合わせて戦略・価値・価格を変化させていくことが重要です。しかし、単一価格モデルでは実現不可能になります。

コストリソースが顧客ごとに変動する場合、それに応じて対応できないのは収益を上げる際に大きな欠点です。柔軟な対応と変化に迅速に適応する能力は、SaaS業界においては必須となります。プランごとに顧客を惹きつけるような違いを出したり、柔軟な料金展開ができないことは顧客獲得において大きな弊害です。

また、複数プランがないことは、顧客の単価を向上させるために、顧客に対し高額な上位モデルに乗り換えてもらうアップセルを行うことができません

顧客に心理的弊害をもたらす場合がある

単一価格モデルは、プランの選択肢がないため、一部の顧客にとって包括的な扱いをされていると感じる可能性があります。このように顧客が感じてしまった場合、顧客は企業の提供するサービスを享受することはなくなります。

幅広い顧客ニーズを満たせない場合、顧客に対して心理的に不満を感じさせてしまいます。

単一価格モデルを導入している企業例

現在、単一価格モデルを導入している企業はほとんどありません。幅の広い顧客層のニーズに1つのプランで応えるということは難しく、柔軟性の欠如、アップセルを期待できないため収益拡大が困難な点が主な理由と言えるでしょう。

その中でも成功例として挙げられるのはBasecampという企業です。

Basecampでは、複数のアプリケーションの機能を、1つに集約したサービスを展開しています。
例えば、リアルタイムチャットの機能を持つSlack、やることリストを管理するAsana Premium、ファイルストレージを管理するDropbox、ドキュメント・カレンダー機能のあるGsuiteなどの機能が搭載されています。

これらのアプリケーションサービスを全て別々に購入した場合莫大な月額料金となりますが、これら全ての機能を月額99ドルでサービスを受けることができるのがBasecampです。

この企業の有料プランは単一価格モデルに該当します。月額99ドルで固定料金なため、追加費用は一切かかりません。月額99ドルというのは一見高額に見えますが、ユーザー数が増えても追加料金が発生しないということは、多くのユーザーを持つ大企業などは結果的にお得になります。月額料金以上支払うことなく無制限の数のユーザーを招待できるという点はこの企業のセールスポイントです。

また、この企業が成功した要因として様々なサービスの工夫が設けられています。
・1年間前払いすると15%の割引が適用
・30日間の無料トライアル期間
・非営利団体は10%の割引が適用
・教育(幼稚園から大学までの高校と教師)は無料で利用可能

これらの要因から、Basecampは単一価格モデルでも成功した事例となります。

まとめ

価格体系の1つである単一価格モデルは1つの価格を提供するモデルです。シンプルであるため、サービス内容を顧客に伝えやすく売りやすいというメリットがある反面、幅広いユーザーのニーズにこたえることが困難売上の向上が困難顧客に心理的弊害をもたらす可能性があるなど3つのデメリットがあります。

単一価格単体を導入している企業は数少なくその他の価格体系追加導入したり移行する企業が多いです。その理由としては、単一価格モデルは柔軟性に欠ける、収益向上できないということが一番の要因としてあげられるでしょう。

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Yoshihiro Takahashi

高橋 嘉尋

プライシングスタジオ株式会社

代表取締役CEO

プライシングスタジオ株式会社代表取締役 CEO。2019年、慶應義塾大学総合政策学部在学中に価格1%が企業の営業利益を約20%の改善につながるということを知り、その影響力に魅力を感じ、当社を設立。プライシングスタジオは設立以来、30以上の業界、100以上のサービスの値付けを支援している。著書に「値決めの教科書 勘と経験に頼らないプライシングの新常識」(日経BP)。「日経トップリーダー・ビジネス」にて「値決めの科学」、「ダイヤモンドオンライン」にて「価格戦略のプロが見た「あの値付け」」を連載中。「日経COMEMO」キーオピニオンリーダー。そのほか、テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、ABEMA「ABEMA Prime」、NewsPicks「メイクマネー」など多数メディアに出演。2023年Forbesによる「アジアを代表する30才未満の30人」に部門で選出される。

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