この記事では、スキミングプライシングについてご紹介します。「スキミング」という言葉を聞くと、カードの情報を読み取って不正に使用することだと思っている人もいるかもしれません。
ですが、スキミングプライシングとは、価格設定における戦略の1つであり、不正利用とは全く別の概念になります。スキミングプライシングについて、メリットやデメリット、注意点などを分かりやすく解説します。
スキミングプライシングとは
スキミングプライシングとは、「初期段階の製品を高価格に設定し、早期に投資資金を回収する価格戦略」です。
スキミングプライシングは、活用次第では製品をマーケットに浸透させることができます。スキミングプライシングを行い、マーケットに浸透させていくまでの流れの一例をご紹介します。
ステップ2:顧客からフィードバックをもらい、製品の改善する。
ステップ3:徐々に価格を低下させ、ターゲットを拡大する。
ステップ4:ターゲットを全市場に拡大する。
ステップ1:新しい製品を早期から受け入れてくれる顧客を探す
ステップ1の顧客とは、高価格でも買ってくれる層のことを指します。新しい製品に早期の段階から興味を持ち、受け入れてくれる人をターゲットにすることがポイントです。
このような顧客は市場での割合は少ないですが、固定化することが出来れば早期に投資資金の回収が可能になります。
ステップ2:顧客からフィードバックをもらい、改善する
早い段階から受け入れてくれている顧客から評価を聞くことでより良い製品に改善することができます。
ステップ2では、価格と製品の質の満足度をあげた上で市場を拡大することを視野に入れて行動します。この段階をいかに効率的に進行できるかによって、競合の参入を防げます。
ステップ3:徐々に価格を低下させ、ターゲットを拡大する
より良い製品に改善した後、徐々に価格を低下させることで、ターゲットを拡大します。
ステップ3でターゲットとする顧客は、製品を購買するかの意思決定に関しては慎重でありながらも新しい製品への関心が高い層です。
このような顧客は、口コミを信頼材料としているケースが多いため、早期から自社の製品を使用している顧客の評価をより一層重視する必要があります。
ステップ4:ターゲットを全市場に拡大する
ターゲットを全市場に拡大するためには、製品が市場においてどの程度一般化されているかが重要になります。
全市場をターゲットにする場合、周囲を見て判断する顧客や保守的な顧客も入ってきます。信頼性の面でもステップ3の基盤を固められているかにかかっています。そのため、ターゲットを全市場に拡大する前に、ターゲットの中でどれだけ一般化できているかを確認する作業を行った方が良いでしょう。
スキミングプライシングのメリット
スキミングプライシングには、3つのメリットがあります。
1.資金の早期回収ができる
早期段階で顧客を獲得することで、顧客に企業側の希望する価格を提示することが可能です。そのため、早期の段階から高い収益をあげられ、研究費や宣伝費を早期に回収できます。さらに資金の早期回収をすることで、開発した製品の改善のための費用も確保できます。
2.ブランドイメージを確立することができる
顧客に初期段階で高価格な製品に興味を持ってもらうには、顧客側の立場になって考えてみることが必要です。高価格でも購入する製品は、分野において革新的な特性を持つことがあげられます。ステータスを求める顧客に対して、最先端の製品を高価格で提供することで、製品のブランディングに役立ちます。
3.ターゲットを拡大できる
早期の段階で新製品の顧客を獲得しておくことで、口コミによって実際に広い顧客層に対して宣伝することが可能になります。関心がある顧客だけでなく、興味を持っていない顧客層までを最終的に狙うことができるというのがスキミングプライシングの強みです。製品の機能や価格の面でどの層にも受け入れられる製品に仕上げることが必要になってきます。
スキミングプライシングのデメリット
一見、メリットが多い印象のスキミングプライシングですが、デメリットもあります。
競合が参入しやすい
スキミングプライシングにより、革新的な新製品を高価格で販売することに成功すると、競合が安い価格で参入してくる可能性が高いです。
スキミングプライシングの特徴として、初期段階からの支持層の評価にもとづいて、改善を行うことがあげられていました。より良い製品を提供できるようになる反面、より多くのターゲット層に浸透するまでに時間がかかるため、競合の参入を許してしまいがちになってしまいます。
代替商品が世に出回ると、顧客が選べる選択肢が増え、どうしても高い値段では買われにくくなってしまうことが問題点としてあげられます。そうならないために、類似品が出る前に独占的な利益を獲得する必要があります。
スキミングプライシングの注意点
メリットとデメリットを理解した所で、スキミングプライシングを導入する際に注意しなければいけないことについてご紹介したいと思います。
1.高い価格に見合う製品の質が求められる
スキミングプライシングでは、製品に高い価格を設定することになります。それにより独自のブランドを築くことができますが、それには初期段階での価格と製品の質が釣り合っていることが非常に重要です。
仮に製品の質が見合わないまま製品の価格だけを高く設定しても、顧客から信頼されるブランドは築けない上に、初期段階での顧客の集客は見込めません。そのため、まだ市場に競合がいない製品や分野において革新的な特性を持つ製品でないと、スキミングプライシングを行うのは難しいでしょう。
2.価格弾力性が大きい製品では難しい
スキミングプライシングを価格弾力性が大きい製品で活用することは非常に難しくなります。
価格弾力性とは、価格の変動によって製品の需要と供給が変化する度合いのことを言います。価格弾力性が小さい製品では、商品価格の差が購買意欲にあまり影響をおよぼしません。製品の価格を高く設定しても、高い製品価値を生み出すことができれば顧客に選んでもらえます。一方で、価格弾力性が大きい製品を高い価格に設定してしまうと、低価格で提供する競合に勝つことは難しいです。
スキミングプライシングと事業領域
スキミングプライシングの応用をしているのが、アップル社のiPhoneです。アップル社は、iPhoneを売り出す際にブランドイメージを重要視しました。
ブランドイメージを確立するため価格を高価格に設定することで、確固たるブランドイメージを植え付けるだけでなく、高価格の製品を早い段階から受け入れてくれる顧客の興味を引くことに成功しました。
それと同時に発売前からiPhoneの宣伝を積極的に行なうことで発売予定日が決まる頃には、顧客のiPhoneに対する関心を最大限まで高めました。当時の携帯電話よりiPhoneがどれだけ優れているかを比較するという手段を使うことで、価格と質の釣り合いも証明することが出来ました。
アップルの応用例をみても、スキミングプライシングは、特にハイテク産業と相性が良いと言えます。常に最先端を追求され、そのために莫大な資金を必要とする事業が向いていると考えられます。
まとめ
スキミングプライシングとは、初期段階の製品を高価格に設定し、早期に事業の投資資金を回収する価格戦略です。
主に初期段階の価格戦略であるため、導入後の戦略は様々です。スキミングプライシングの例として取り上げたアップル社は、その後も価格を変えずに市場を伸ばしています。
一方で、スキミングプライシングの流れの中で紹介した様にターゲット層を広げるために低価格にしていく価格戦略も考えられます。
「初期段階の製品を高価格に設定し、早期に投資資金を回収する」という本来の目的を達成するためには、初期段階での顧客の存在なしにはなし得ません。初期段階での顧客によって、その後の市場のターゲット層や価格が変わってくると考えられます。企業ごとにターゲットとしたい層を確認しながら、市場を広めることが必要になってくるでしょう。
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スキミングプライシングとは
スキミングプライシングとは、「初期段階の製品を高価格に設定し、早期に投資資金を回収する価格戦略」です。
スキミングプライシングは、活用次第では製品をマーケットに浸透させることができます。スキミングプライシングを行い、マーケットに浸透させていくまでの流れの一例をご紹介します。
ステップ2:顧客からフィードバックをもらい、製品の改善する。
ステップ3:徐々に価格を低下させ、ターゲットを拡大する。
ステップ4:ターゲットを全市場に拡大する。
ステップ1:新しい製品を早期から受け入れてくれる顧客を探す
ステップ1の顧客とは、高価格でも買ってくれる層のことを指します。新しい製品に早期の段階から興味を持ち、受け入れてくれる人をターゲットにすることがポイントです。
このような顧客は市場での割合は少ないですが、固定化することが出来れば早期に投資資金の回収が可能になります。
ステップ2:顧客からフィードバックをもらい、改善する
早い段階から受け入れてくれている顧客から評価を聞くことでより良い製品に改善することができます。
ステップ2では、価格と製品の質の満足度をあげた上で市場を拡大することを視野に入れて行動します。この段階をいかに効率的に進行できるかによって、競合の参入を防げます。
ステップ3:徐々に価格を低下させ、ターゲットを拡大する
より良い製品に改善した後、徐々に価格を低下させることで、ターゲットを拡大します。
ステップ3でターゲットとする顧客は、製品を購買するかの意思決定に関しては慎重でありながらも新しい製品への関心が高い層です。
このような顧客は、口コミを信頼材料としているケースが多いため、早期から自社の製品を使用している顧客の評価をより一層重視する必要があります。
ステップ4:ターゲットを全市場に拡大する
ターゲットを全市場に拡大するためには、製品が市場においてどの程度一般化されているかが重要になります。
全市場をターゲットにする場合、周囲を見て判断する顧客や保守的な顧客も入ってきます。信頼性の面でもステップ3の基盤を固められているかにかかっています。そのため、ターゲットを全市場に拡大する前に、ターゲットの中でどれだけ一般化できているかを確認する作業を行った方が良いでしょう。
スキミングプライシングのメリット
スキミングプライシングには、3つのメリットがあります。
1.資金の早期回収ができる
早期段階で顧客を獲得することで、顧客に企業側の希望する価格を提示することが可能です。そのため、早期の段階から高い収益をあげられ、研究費や宣伝費を早期に回収できます。さらに資金の早期回収をすることで、開発した製品の改善のための費用も確保できます。
2.ブランドイメージを確立することができる
顧客に初期段階で高価格な製品に興味を持ってもらうには、顧客側の立場になって考えてみることが必要です。高価格でも購入する製品は、分野において革新的な特性を持つことがあげられます。ステータスを求める顧客に対して、最先端の製品を高価格で提供することで、製品のブランディングに役立ちます。
3.ターゲットを拡大できる
早期の段階で新製品の顧客を獲得しておくことで、口コミによって実際に広い顧客層に対して宣伝することが可能になります。関心がある顧客だけでなく、興味を持っていない顧客層までを最終的に狙うことができるというのがスキミングプライシングの強みです。製品の機能や価格の面でどの層にも受け入れられる製品に仕上げることが必要になってきます。
スキミングプライシングのデメリット
一見、メリットが多い印象のスキミングプライシングですが、デメリットもあります。
競合が参入しやすい
スキミングプライシングにより、革新的な新製品を高価格で販売することに成功すると、競合が安い価格で参入してくる可能性が高いです。
スキミングプライシングの特徴として、初期段階からの支持層の評価にもとづいて、改善を行うことがあげられていました。より良い製品を提供できるようになる反面、より多くのターゲット層に浸透するまでに時間がかかるため、競合の参入を許してしまいがちになってしまいます。
代替商品が世に出回ると、顧客が選べる選択肢が増え、どうしても高い値段では買われにくくなってしまうことが問題点としてあげられます。そうならないために、類似品が出る前に独占的な利益を獲得する必要があります。
スキミングプライシングの注意点
メリットとデメリットを理解した所で、スキミングプライシングを導入する際に注意しなければいけないことについてご紹介したいと思います。
1.高い価格に見合う製品の質が求められる
スキミングプライシングでは、製品に高い価格を設定することになります。それにより独自のブランドを築くことができますが、それには初期段階での価格と製品の質が釣り合っていることが非常に重要です。
仮に製品の質が見合わないまま製品の価格だけを高く設定しても、顧客から信頼されるブランドは築けない上に、初期段階での顧客の集客は見込めません。そのため、まだ市場に競合がいない製品や分野において革新的な特性を持つ製品でないと、スキミングプライシングを行うのは難しいでしょう。
2.価格弾力性が大きい製品では難しい
スキミングプライシングを価格弾力性が大きい製品で活用することは非常に難しくなります。
価格弾力性とは、価格の変動によって製品の需要と供給が変化する度合いのことを言います。価格弾力性が小さい製品では、商品価格の差が購買意欲にあまり影響をおよぼしません。製品の価格を高く設定しても、高い製品価値を生み出すことができれば顧客に選んでもらえます。一方で、価格弾力性が大きい製品を高い価格に設定してしまうと、低価格で提供する競合に勝つことは難しいです。
スキミングプライシングと事業領域
スキミングプライシングの応用をしているのが、アップル社のiPhoneです。アップル社は、iPhoneを売り出す際にブランドイメージを重要視しました。
ブランドイメージを確立するため価格を高価格に設定することで、確固たるブランドイメージを植え付けるだけでなく、高価格の製品を早い段階から受け入れてくれる顧客の興味を引くことに成功しました。
それと同時に発売前からiPhoneの宣伝を積極的に行なうことで発売予定日が決まる頃には、顧客のiPhoneに対する関心を最大限まで高めました。当時の携帯電話よりiPhoneがどれだけ優れているかを比較するという手段を使うことで、価格と質の釣り合いも証明することが出来ました。
アップルの応用例をみても、スキミングプライシングは、特にハイテク産業と相性が良いと言えます。常に最先端を追求され、そのために莫大な資金を必要とする事業が向いていると考えられます。
まとめ
スキミングプライシングとは、初期段階の製品を高価格に設定し、早期に事業の投資資金を回収する価格戦略です。
主に初期段階の価格戦略であるため、導入後の戦略は様々です。スキミングプライシングの例として取り上げたアップル社は、その後も価格を変えずに市場を伸ばしています。
一方で、スキミングプライシングの流れの中で紹介した様にターゲット層を広げるために低価格にしていく価格戦略も考えられます。
「初期段階の製品を高価格に設定し、早期に投資資金を回収する」という本来の目的を達成するためには、初期段階での顧客の存在なしにはなし得ません。初期段階での顧客によって、その後の市場のターゲット層や価格が変わってくると考えられます。企業ごとにターゲットとしたい層を確認しながら、市場を広めることが必要になってくるでしょう。
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