キャッシュバックという言葉を目にしたことはないでしょうか。商品を購入した後にいくらかのキャッシュバックを受け取れるという仕組みがあります。
あなたは支払いの場面で、ついついクレジットカードを使ってしまう経験はありませんか?
実際、買い手は現金払いより、クレジットカード払いを好むようです。それは実は「プロスペクト理論」という考え方によって説明できるのです。
この理論はマーケティング領域に様々な方法で利用されており、価格戦略を立てる際に、大きく役立てることができます。
この記事では、この理論を活用したプライシングのノウハウについて、実際の事例を交えながら解説します。
プロスペクト理論とは
プロスペクト理論とは、利益や損失に関わる意思決定のメカニズムをモデル化したもので、KahnemanとTverskyによって1979年に提唱されました。
プロスペクト(prospect)は「予想」「見通し」という意味を持ちます。その名前の通り「不確実性を伴う状況において、ある事象が生じる確率やそこから得られる損得が分かっている場合にどのような意思決定を行うか」を表しています。
この理論はよくグラフにて表されます。次のグラフをご覧ください。
横軸は損得の度合い、縦軸は効用の度合いです。効用とは「人が財を消費することから得られる満足度」のことです。
このように参照点という真ん中の点を境に損失局面と利得局面とにわけられます。
このグラフからわかることは主に2つあります。
1つ目に利得を感じると効用は確実に増えますが、その割合は減っていくということです。これは最初に1万円を得たときの効用は、さらに1万円を得たときの効用よりも大きくなるということです。また、これは逆に損失の場合も言えます。
重要なのは2つ目です。それは利得と損失のインパクトが違うということです。グラフを見ると損失局面の曲線の方が、利得局面の曲線より角度が急になっています。
これは同じ大きさの利得と損失を感じたとしても、私たちが損失の際の効用の方が、利得の時の効用よりも大きくなるということです。
例えば、宝くじを購入したとします。インターネットで当選番号を確認したところ自分の番号があり、三億円が当たりました。しかし、その一時間後に電話がかかってきて「すいません。今回の抽選は無効となり、あなたはハズレとなりました」と告げられたとします。
すると「当選者」になったはずが突然奈落の底に突き落とされたように感じるはずです。損得だけを考えるとプラスマイナス0なのにも関わらず、このやり取りを終えた後では大きく損失による痛みを感じてしまうはずです。
この事例のように、等しい量の利益と損失があった場合、損失によって感じる痛みの方が利益によって感じる幸福より大きいのです。そのため、人間はあらゆる場面で、損失を回避する傾向にあります。
プロスペクト理論と価格の関係性
ここまでプロスペクト理論の概要についてお話ししたしましたが、これは価格設定と大きく関係があります。
それは、お金を払うという行為はプロスペクト理論の「損失」にあたり、商品やサービスを購入・利用することは「利得」を意味するからです。
故に価格設定をする際に、プロスペクト理論を知っていて損はないのです。次の項目では日常に起こる様々な現象をプロスペクト理論によって説明します。
事例紹介
無料か有料か
仮にあなたがサッカー日本代表戦のチケットを手に入れたとします。しかし当日、あいにくの雨天になりました。
その際、その試合を観に行く確率は、チケットをプレゼントされた時より、自腹で購入したときの時の方が圧倒的に高くなります。すでに自分の財布で支払ったならば元を取ろうという思いは遥かに強くなるのです。
現金かクレジットカードか
顧客は現金で支払うよりクレジットカードで支払うことを好む傾向にあります。
その理由は、カード払いは現金払いと比べて、手元からお金が離れることによって生まれる負の効用を感じにくいからです。
カード払いの場合、署名やパスワードを打ち込むだけで決済が完了します。しかし現金払いの場合、財布の中のお金をレジの担当者に渡して、レジに収納される様子を見て初めて決済が完了します。つまり、カード払いは現金払いより、支払いをしているという「感覚」が薄いのです。
そのため同じ金額でも、現金払いの方がお金を支払うことによって生じる負の効用は大きく、顧客はクレジットカードで支払いをしたくなるのです。
キャッシュバック
キャッシュバックとは商品を購入してもらった後に一定の額を現金やギフトカード、ポイントなどで返すというものです。例えばPanasonicでは、2021年4月23日(金)からテレビやブルーレイレコーダー購入で最大9万円をキャッシュバックするキャンペーンを行っています。
何故最初から値引きをしないで、わざわざキャッシュバックをするのでしょうか。
それは本来ならお金を支払って生まれた負の効用が、商品を所持・消費することで生まれる正の効用によって帳尻が合うという仕組みになっています。
しかしキャッシュバックという仕組みを使うと、この一連のプロセスが終わった後にお金を少し返すので、追加で正の効用が生まれることになります。そのため、顧客の満足度はあらかじめ値引きをしている時より上がるのです。
ムーンプライス
ムーンプライスとは表示価格でも、誰も決して払うことがない価格のことです。180万円で売ることが決まっていても、200万円という価格を見せてから10%引きで180万円にするような手法のことです。
実際、ZOZOTOWNのサイトでは割引を行う時、値引きされた後の価格だけでなく、元々の価格と割引額を表示しています。
これは値引きされるということで普通の決済に加えて正の効用が生じるため、顧客は得をした気分になるというものです。しかしこの手法は大袈裟な価格を設定しすぎると、表示価格での信憑性を失うので注意が必要です。
まとめ
今回の記事ではプロスペクト理論という顧客の意思決定のメカニズムについて解説しました。プロスペクト理論はマーケティング領域に様々な方法で利用されている為、価格戦略を立てる際に、この原理を知っておくことは大切です。
プライシング・価格戦略にお悩みの事業者様は、一度プライシングスタジオにお問い合わせください。
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あなたは支払いの場面で、ついついクレジットカードを使ってしまう経験はありませんか?
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この理論はマーケティング領域に様々な方法で利用されており、価格戦略を立てる際に、大きく役立てることができます。
この記事では、この理論を活用したプライシングのノウハウについて、実際の事例を交えながら解説します。
プロスペクト理論とは
プロスペクト理論とは、利益や損失に関わる意思決定のメカニズムをモデル化したもので、KahnemanとTverskyによって1979年に提唱されました。
プロスペクト(prospect)は「予想」「見通し」という意味を持ちます。その名前の通り「不確実性を伴う状況において、ある事象が生じる確率やそこから得られる損得が分かっている場合にどのような意思決定を行うか」を表しています。
この理論はよくグラフにて表されます。次のグラフをご覧ください。
横軸は損得の度合い、縦軸は効用の度合いです。効用とは「人が財を消費することから得られる満足度」のことです。
このように参照点という真ん中の点を境に損失局面と利得局面とにわけられます。
このグラフからわかることは主に2つあります。
1つ目に利得を感じると効用は確実に増えますが、その割合は減っていくということです。これは最初に1万円を得たときの効用は、さらに1万円を得たときの効用よりも大きくなるということです。また、これは逆に損失の場合も言えます。
重要なのは2つ目です。それは利得と損失のインパクトが違うということです。グラフを見ると損失局面の曲線の方が、利得局面の曲線より角度が急になっています。
これは同じ大きさの利得と損失を感じたとしても、私たちが損失の際の効用の方が、利得の時の効用よりも大きくなるということです。
例えば、宝くじを購入したとします。インターネットで当選番号を確認したところ自分の番号があり、三億円が当たりました。しかし、その一時間後に電話がかかってきて「すいません。今回の抽選は無効となり、あなたはハズレとなりました」と告げられたとします。
すると「当選者」になったはずが突然奈落の底に突き落とされたように感じるはずです。損得だけを考えるとプラスマイナス0なのにも関わらず、このやり取りを終えた後では大きく損失による痛みを感じてしまうはずです。
この事例のように、等しい量の利益と損失があった場合、損失によって感じる痛みの方が利益によって感じる幸福より大きいのです。そのため、人間はあらゆる場面で、損失を回避する傾向にあります。
プロスペクト理論と価格の関係性
ここまでプロスペクト理論の概要についてお話ししたしましたが、これは価格設定と大きく関係があります。
それは、お金を払うという行為はプロスペクト理論の「損失」にあたり、商品やサービスを購入・利用することは「利得」を意味するからです。
故に価格設定をする際に、プロスペクト理論を知っていて損はないのです。次の項目では日常に起こる様々な現象をプロスペクト理論によって説明します。
事例紹介
無料か有料か
仮にあなたがサッカー日本代表戦のチケットを手に入れたとします。しかし当日、あいにくの雨天になりました。
その際、その試合を観に行く確率は、チケットをプレゼントされた時より、自腹で購入したときの時の方が圧倒的に高くなります。すでに自分の財布で支払ったならば元を取ろうという思いは遥かに強くなるのです。
現金かクレジットカードか
顧客は現金で支払うよりクレジットカードで支払うことを好む傾向にあります。
その理由は、カード払いは現金払いと比べて、手元からお金が離れることによって生まれる負の効用を感じにくいからです。
カード払いの場合、署名やパスワードを打ち込むだけで決済が完了します。しかし現金払いの場合、財布の中のお金をレジの担当者に渡して、レジに収納される様子を見て初めて決済が完了します。つまり、カード払いは現金払いより、支払いをしているという「感覚」が薄いのです。
そのため同じ金額でも、現金払いの方がお金を支払うことによって生じる負の効用は大きく、顧客はクレジットカードで支払いをしたくなるのです。
キャッシュバック
キャッシュバックとは商品を購入してもらった後に一定の額を現金やギフトカード、ポイントなどで返すというものです。例えばPanasonicでは、2021年4月23日(金)からテレビやブルーレイレコーダー購入で最大9万円をキャッシュバックするキャンペーンを行っています。
何故最初から値引きをしないで、わざわざキャッシュバックをするのでしょうか。
それは本来ならお金を支払って生まれた負の効用が、商品を所持・消費することで生まれる正の効用によって帳尻が合うという仕組みになっています。
しかしキャッシュバックという仕組みを使うと、この一連のプロセスが終わった後にお金を少し返すので、追加で正の効用が生まれることになります。そのため、顧客の満足度はあらかじめ値引きをしている時より上がるのです。
ムーンプライス
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実際、ZOZOTOWNのサイトでは割引を行う時、値引きされた後の価格だけでなく、元々の価格と割引額を表示しています。
これは値引きされるということで普通の決済に加えて正の効用が生じるため、顧客は得をした気分になるというものです。しかしこの手法は大袈裟な価格を設定しすぎると、表示価格での信憑性を失うので注意が必要です。
まとめ
今回の記事ではプロスペクト理論という顧客の意思決定のメカニズムについて解説しました。プロスペクト理論はマーケティング領域に様々な方法で利用されている為、価格戦略を立てる際に、この原理を知っておくことは大切です。
プライシング・価格戦略にお悩みの事業者様は、一度プライシングスタジオにお問い合わせください。
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