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グローバルトレンドから考える、SaaS・サブスク企業のプライシング戦略

2021/04/19 (更新日:2021/08/19)

2021年4月15日、サブスクリプションビジネスのプライシング戦略について、海外のトレンドやその手法などを解説するオンラインセミナーが開催された。

本セミナーには、STRIVEのベンチャーキャピタリスト四方智之氏や、プライシングSaaS「Pricing Sprint」を運営するプライシングスタジオの高橋嘉尋氏、サブスク管理システム「サブスクONE」を提供するサジェスタムの藤田聡敏氏が登壇した。

バリューベースプライシングとは?

1番手で登壇したSTRIVE 四方氏は、冒頭で近年再注目されているプライシング手法、バリューベースプライシングについて説明した。

バリューベースプライシングとは、原価や競合の価格にとらわれずに、顧客が商品・サービスに感じている価値に基づいて価格を設定する手法だ。その他の有名なプライシング手法にコストベースプライシングがあるが、四方氏は両者の違いを、次のように解説した。

「コストベースプライシングは、製品にかかるコストの上にマークアップ(利益を上乗せ)して価格を設定します。しかし、これは顧客がサービスに対して感じる価値を考慮していません。一方のバリューベースプライシングは、Perceived Value(知覚価値)をベースにして価格を設定します」(四方氏)

バリューベースプライシングには、次の3点のメリットがある。

1. サービス収益の最大化
2. 顧客起点の開発・改善
3. カスタマーサクセスの質向上

「1つ目はサービス収益の最大化です。顧客の支払意欲に基づいて価格を決めるので、顧客にとって検討に乗らない価格に設定することが減りますし、知覚価値が高まることで値上げも可能になります。

2つ目は顧客起点の開発・改善です。バリューベースプライシングではアンケートやインタビューなどのヒアリング調査を実施し、その結果から顧客ニーズが分かるので、顧客起点でプロダクトの開発や改善ができます。

3つ目はカスタマーサクセスの質が向上することです。SaaSビジネスの成功には顧客との継続的な関係構築が必要ですが、アンケートやインタビューを通じて顧客と深い関係構築につなげられます」(四方氏)

グローバルでのプライシングトレンド

つづいて四方氏は、米国のSaaSスタートアップがおこなっているプライシングの最新トレンドに言及した。

前述のとおり、バリューベースプライシングはさまざまなメリットがある手法だが、日本と比べて先行している米国のSaaSスタートアップであっても、実践できている企業は少ないという。

「バリューベースプライシングは米国SaaSスタートアップでも40%しか実施できていないというデータもあります。まだまだ『勘と経験』に頼っていたり、『競合比較』で判断している状況です」(四方氏)

価格設定したあとは、どのようにマネタイズにつなげているのか。主要な課金方法は次の4つに分けられる。

1. アカウント課金(ユーザー数に応じた課金)
2. 従量課金
3. 企業(従業員)規模に応じた課金
4. その他

米国SaaSスタートアップで数多く採用されている課金方式はアカウント課金と従量課金の2つだが、2021年時点では、米国スタートアップではアカウント課金を選択している企業が一番多いという。

「アカウント課金よりも従量課金のほうがARPA(Average Revenue per Account:アカウントあたりの平均収益)が高く、顧客満足度も高いと言われています。実際に2014年と2021年の7年間で、従量課金の割合が増えてきており、今後もこの流れは加速すると思われます」(四方氏)

従量課金が最近のグローバルトレンド

従量課金を導入するメリットは次の4つだ。

1. 導入ハードルが低い:顧客が使い始める際に低コストあるいは無料で使えるので、導入ハードルが低い
2. 矛盾がない:顧客が感じる価値=支払う額が同じなので、矛盾が無い
3. ユーザーのアクセスが増える:1つのアカウントで複数のユーザーが使っても問題は発生しない
4. TAMが拡大する:より多くの潜在顧客にリーチでき、顧客単価を上限もなくせる

従量課金モデルを採用したSaaSの収益構造

さらに四方氏は、実際に従量課金を採用している企業の事例を挙げた。

「2020年にIPOしたデータレイクSaaSのSnowflakeはデータ量、CRMツールのHubspotはコンタクト数が指標となっています。自社のMRRの成長が顧客の成長に結びつくような指標にすることが重要です」(四方氏)

従量課金モデルのSaaSは、一部の顧客が収益の大部分を生む構造になっている。10%の顧客が70%の売上を生む「70:10ルール」なるルールができつつある。

「極端な例では、SlackやUnityはトップ1%の顧客が売上の40%以上を占めています。その他にもShopify、Snowflake、Unityなど、近年高成長を遂げているSaaSの多くは従量課金を採用しています」(四方氏)

そのSaaSは従量課金にすべきか?採用する条件

従量課金を採用するかどうかを判断する材料はあるのか。四方氏は3Cのフレームワークで、従量課金を採用するための条件を列挙した。

四方氏は「市場・顧客に関しては高いITリテラシーを持っていること、特定のソフトウェアから得られる成果に課金される、つまり成果報酬を許容することが必要です。加えて、顧客の予算が大きいことも重要。少ないと、サービスを使わないような逆インセンティブが働いてしまうからです」と説明した。

「自社においては『顧客の成功』が明確に定義されており、定量的かつリアルタイムに観測できるかも大切です。

そして、競合が従量課金であることも見なければいけません。もし従量課金でない場合、十分な顧客へのヒアリングや市場調査が必要です」(四方氏)

プライシングを見直すことでLTVが大きく成長

最後に四方氏は、プライシングの見直し頻度とインパクトについて解説した。

同氏によれば、「米国のスタートアップの80%が年1回に価格の見直しをしており、そのうち40%は2回以上行っている」という。

「計画的にプライシングを見直している企業とそうでない企業で、ユニットエコノミクス(LTV/CAC)に大きな差が出てくる。継続的にレビューしている企業の11.1倍に対し、価格改定しない企業は1.7倍程度。価格を見直すことで、チャーンレートを抑えたりアップセルしやすくなったり、CACに効いてきます」(四方氏)

実際にプライシングに対する感度が高い企業として、四方氏はNetflixやSmart HRを例に挙げた。

「Netflixは1、2年のスパンで10〜20%の値上げを実施しており、Smart HRもまた、年1度のペースで値上げしているほか、従業員規模に応じた課金から従業員1名あたりの課金に変えるなどしています」(四方氏)

「細かくプライシングの見直しを行っている企業が順調に業績を伸ばしている」ことを強調し、四方氏は自身の講演を締めくくった。

Netflixのプライシング戦略は正しい?考察してみた

2番手で登場したのは、プライシングSaaS「Pricing Sprint」を開発・提供するプライシングスタジオのCEO、高橋氏だ。

Netflixは2021年2月15日、日本国内におけるサービス価格の値上げを行った。最も安いベーシックプランを880円から990円に、中間のスタンダードプランを1,320円から1,490円に値上げした(最も高いプレミアムプランは変更なし)。

この値上げの意図を探るべく、プライシングスタジオではNetflixの既存顧客106名にアンケート調査を実施。次の図は、調査結果からプライシングスタジオが独自に算出した価格シミュレーションである。

プライシングスタジオが実施したNetflixの価格シミュレーション

注目すべきは、価格を変えたときに何%のユーザーが許してくれるかを示した「許容ユーザー比率」だ。

この調査結果を見て高橋氏は「もし私がNetflixの価格担当だとしても、同じような価格に変更していたでしょう」と断言する。

「当社の調査では、たとえばベーシックプランの価格を880円から990円に変えたとき、許容ユーザー比率は94%から92%と、ほとんど下がりませんでした。
しかし1,090円まで値上げしてしまうと、許容ユーザー比率は82%まで下がってしまう。値上げしてもユーザーがあまり離脱しない、ギリギリの価格に設定しているのです(高橋氏)

また、この調査によってプレミアムプランを値上げしなかった理由も考察できたという。

「現行価格の1,980円から100円でも値上げすると、許容ユーザー比率は89%から78%までガクっと下がってしまうので、値上げしなかったと考えられます」(高橋氏)
ベーシックプランでは、現行価格と比べたときの売上比率が高い、つまり売上を最大化できる価格設定ができたのにも関わらず実施していない。これについても高橋氏は次のように解説する。

「1,490円に設定すれば売上は上がる。しかし、許容ユーザーは78%まで下がってしまいます。この価格にしなかったのは『まだまだ顧客獲得を優先したい』というNetflixの意思表明だと思われます」

NetFlixの値上げで行った調査手法「PSM分析」とは

今回プライシングスタジオが行った調査は、PSM分析という分析手法を応用しているという。

PSM(Pricing Sensitivity Meter)分析とは、顧客の支払意欲を調査するために使われる手法である。信ぴょう性の高さに定評があり、近年ではグローバルで有名なSaaS企業でも採用されているものだ。

PSM分析は、次の2つのステップで行われる。

1.アンケート調査
2.可視化

1つめのアンケート調査では、次の4つを既存顧客に質問する。

    1. その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?

 

    1. その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?

 

    1. その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?

 

    その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?

次の図(左)はこの回答結果をプロットして図示したものだ。

PSM分析を活用した価格の決め方

一般的なPSM分析では、「安すぎて質が低い価格」と「高すぎて検討に乗らない価格」の交点をみて価格を参考にすることで、価格設定に目安をつけられるという。

このようにPSM分析は比較的簡易に始められる調査だが、実施する際には落とし穴もあると高橋氏は語る。

「『安すぎて質が低い』価格と『高すぎて検討に乗らない』価格の交点だけを見て価格を設定するのは危険です。

PSM分析で収集したデータをプロットした左図だけでなく、さらに深堀りして「顧客数を最大化させる価格」と「売上を最大化させる価格」を算出した「購買ポテンシャル」を推計する図も作りましょう。これにより、価格を変えたときにどのようなインパクトがあるかを、より正確に把握できます」

事業フェーズごとの価格戦略

つづいて高橋氏は、事業フェーズごとの価格戦略について説明した。

「事業が成長するにつれ、価格体系も常に見直し続けなければいけません。シードステージは事業ニーズを仮説検証しましょう。そのために、シンプルな価格体系である単一価格モデルを採用し、顧客数を最大化させる価格を選択します。

事業フェーズごとの価格戦略

アーリーステージになると、徐々に顧客のニーズが多様化してきます。顧客の予算や利用量が違うのに同じ金額を使っていたりする場合には、多様なニーズに応えるために複数プランを追加します。また、シードと同様に顧客数を最大化させる価格を選びます。

ミドルステージでは、未開拓顧客セグメントの開拓やリテンション率の向上、既存顧客の単価向上を目指します。そのために、未開拓顧客と既存顧客それぞれにPSM分析を行い、価格体系を整理します。

レイターステージでは、顧客獲得数が頭打ちになる、複数プロダクトが存在するようになります。このステージでは、追加サービスで既存の売上を毀損せず、相乗効果の出る座組みを作ります」(高橋氏)

最後に高橋氏は「ここまで見てきたように、ユーザーの支払い意欲を正しく把握し、適切なプライシングを行うには高い専門性や膨大な調査・分析工数が必要になります。

弊社ではバリューベースプライシングなどの手法を活用した戦略的なSaaSプライシングを提案できます。プライシングについてお悩みの方はぜひお問い合わせください」と語り、講演を締めくくった。

サブスクの価格仕様をスムーズに行うには?

望ましい価格水準が決まったら、これを速やかにディテールを決め、テスト、実装、PDCAを回せるように落とし込まなければならない。最後に登壇した藤田氏は、サブスクリプションにおける価格変更をスムーズに実行するポイントを解説した。

まず藤田氏は「サブスクリプションは継続的な取引により顧客が積み重なっていくので、価格体系全体の整合性を取ることが重要」と説明した。

「新プランをつくる場合は、既存プランと矛盾がないようにします。特に安いプランを作る場合は、既存プランからの移動が起こり思わぬ収益減が発生し得るので、既存価格から移動できる条件をあらかじめ定めておきましょう」

また藤田氏は、決めるべき主な仕様の構成要素を次の図で挙げた。

サブスクの価格仕様を詰める上での要素

「サービスによってはすべて決める必要はありませんが、一つひとつの仕様を細かくみていく必要があります」(藤田氏)

価格のテストと整合性の取り方

次に藤田氏は、価格のテストと整合性の取り方を説明した。

売り切り型のサービスで価格テストをする場合は比較的簡単だ。たとえばECサイトで価格をランダムで出し分けたりクーポンをランダムで発行したり、エリアを限定してテストしたりすれば良い。

価格テストと整合性の取り方

「しかし、サブスクの場合は少々工夫が必要です。プランが増えて断片化してしまい、矛盾を抱えるリスクがあるからです。キャンペーンと明記したり、提供期間を限定にしたりと、テスト期間が終了した時点の扱いをあらかじめ顧客と合意しておくことが重要です」(藤田氏)

サブスク管理ツールの選び方

では、どのようにして価格変更を実装すればいいのか。サジェスタムはサブスク管理プラットフォーム「サブスクONE」を提供しており、さまざまな事業者から引き合いがあるという。藤田氏は、サブスク事業者におけるよくあるシステム構成を次の図を交えて説明した。

サブスク事業におけるよくあるシステム構成

「サブスク事業者のシステム構成は、SFA/CRMに登録された顧客データが独自で構築した簡易的なシステムやExcelを介して請求・決済ツールに連携されている場合が多いです。しかし簡易システムやExcelでは仕様の対応に限界があり、周辺ツールとの連携も限定的になります」

こうした課題を解決するために、価格や契約を一元管理できるサブスク管理ツールを導入することが近道だという。

最後に藤田氏は、サブスク管理ツールを選ぶ際のポイントを2つ挙げて講演を締めくくった。

「1つ目は『価格の構成要素になり得る項目がスムーズに設定できるか』です。2つ目は『サブスクビジネスにおける重要KPIを取得でき、PDCAに活かすことができるか』です。

サブスク管理ツールは数多くありますので、(サジェスタムの)サブスクONEをはじめフラットな視点で選んでいただけたら幸いです」(藤田氏)

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皆様のSaaS事業が価格によって、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまでよろしくお願いします。

プライスハック監修

執筆者

時田 信太朗

編集長 at PRICE HACK

2011年、日本ヒューレット・パッカードにインフラエンジニアとして入社。その後、ソフトバンクグループのSBクリエイティブでエンタープライズITメディア「ビジネス+IT」編集記者として活動。2017年、スマートキャンプに入社し、SaaS比較メディア「ボクシル」Media部門の編集長を歴任。2019年からメディアコンサルタントとして、B2Bメディアの企画プロデュース・運営に携わる。

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