SaaSプライシング戦略|SaaS事業に適した価格戦略

今回はSaaS事業に適したSaaSプライシング戦略についてご紹介します。プライシング戦略として、端数価格、価格表の記載の工夫などの各論の戦略も重要ですが、この記事ではより包括的にSaaS事業に適した価格を決めるSaaSプライシング戦略についてご紹介します。

また、次の記事では、スタートアップSaaSが押さえておくべきステージ別のプライシング戦略についても詳しく解説しています。合わせてお読みください。

SaaS事業にとっての価格とは

価格は純粋に収益化に直結する重要なものです。SaaS提供企業の大半がスタートアップ企業であり、資金調達によって資金を獲得することもできますが、売上からの収益の影響は大きく事業を収益化できるかは死活問題です。

収益化できれば、より事業投資を加速することができ、事業成長が可能です。一方、収益化の見込みがつかなければ投資ができず事業成長が鈍化していきます。事業を通じて顧客へ価値提供を行う観点からも、事業投資・事業成長を行わなければならなく、そのための収益化を決定づける価格は事業の礎です。

そのためSaaSの事業成長のためには、事業に合った適切な価格戦略が必要になります。

価格の3観点(3C)とSaaS事業特性に合わせたプライシング

SaaS事業に適した価格戦略を考えるために、まず価格決定で重要な3観点について説明します。価格を決める際、考慮すべきことは、コスト(Cost)、競合(Competitor)、顧客(Customer)の3つの観点(3C)です。

コスト

販売するほど生まれるコストはいくらか、販売量によってコスト構造は変わるかを検討します。SaaSにとっては、開発コストの他、カスタマーサクセスのコストを検討する必要があります。

競合

誰が競合なのか、競合はいくらで提供しているか、競合との価値の違いは何かを把握する必要があります。SaaSにとっては、同じSaaSの競合の他、買い切りソフトウェアや代替サービスも競合となるので注意が必要です。

顧客

顧客は誰か、顧客は自社の製品の何に価値を感じるか顧客セグメントによって支払意欲は変わるかを把握します。どんな顧客の課題を解決するために生まれたプロダクトか、現在の顧客はどのような属性かといった内容がSaaSでは重要になります。

この3点のうち、どれか1つだけで価格を決めるわけでなく、3つの観点(3C)を考慮して複合的に価格決定することが理想的なプライシングになります。

一方、3観点のうち何を起点に考えるかに応じてプライシングの手法が変わります。

  • コスト⇒コストベースプライシング:コストを起点に一定の利益/利益率を乗せて価格設定する方法
  • 競合⇒競合ベースプライシング:競合価格を起点に価格設定する方法
  • 顧客⇒バリューベースプライシング:顧客の支払意欲を起点に価格設定する方法

SaaSの場合、原価がほとんどないことと競合が少ないことからバリュー起点で価格検討を始めることが、ほとんどの場合で有効です。また、バリューベースプライシングは他のプライシングと異なり、顧客の購入可否を予想できるため、理想的な状態での販売数、売上の推計をおこなえ、計画性をもった事業運営が可能になります。

では、バリューベースプライシングが有効でない一部の場合とはどのような時でしょうか、それは下記のようなケースです。

製品カテゴリに差別化要因がない
差別化要因のない製品カテゴリでは、廉価なものが顧客に選考されるため競合ベースの価格設定が有効となります。

上記の場合には、競合ベースが価格検討起点の観点となるため、自社の事業内容を3つの観点(3C)で整理し、自社の事業に合ったプライシングの注力観点を見定める必要があります。

SaaS事業ステージに応じた価格戦略

注力すべきプライシング観点が把握できても、取り得る価格は複数存在します。売上/利益が最大化する価格、顧客が最も増える価格、もしくはブランド価値を高めるための価格という選択肢もあります。現在の事業状態と事業目標に照らして合目的な価格設定を選択する必要があります。

SaaSは事業ステージによって事業目標が変わってくるため、それぞれの事業ステージで価格戦略として何を大切にするべきかについて解説します。SaaSの事業ステージは、シードステージ・アーリーステージ・ミドルステージ・レイターステージ以降に分かれます。

シードステージ(新規事業フェーズも含む)

まずはプロダクトのPMFが優先されるシードステージにおいては、事業化するための顧客セグメントを見つけ出し顧客獲得を優先すべきフェイズです。価格体系は事業ニーズがあるかを仮説検証しやすい単一価格でおこない、価格設定は顧客最大となる価格をつける戦略が有効です。

アーリーステージ

どれくらい「再現性」をもって売上高を伸ばせるかが重要になるアーリーステージでは、より多くの顧客獲得を優先することになるでしょう。

この頃には、顧客セグメントも規模やニーズに合わせて多様化して来ているため、チャーンを下げる意味でも従量課金や複数課金モデルなど顧客のニーズに合わせられる価格体系に変更するタイミングになります。価格設定は顧客最大となる価格をつける戦略が有効です。

ミドルステージ

サービスがある程度軌道に乗ってくるミドルステージでは高い売上成長率が求められます。売上成長率のためには、未開拓顧客セグメントの開拓、既存顧客セグメントに対する解約率の低下(低チャーンレートの実現)、既存顧客の単価向上(アップセル)が必要です。

価格戦略としては、既存サービスの価格体系の見直しと最適化を行う時期です。未開拓顧客セグメント向けプランと既存顧客セグメントのアップセルのための改めてのプラン整備を行い、未開拓顧客セグメントの顧客最大化、既存顧客セグメントでの売上最大化の価格を設定していくことが有効です。

この際、既に顧客層も一定いるため値上げの場合は顧客離脱がどの程度発生し、どのようなセグメントが離脱するのか見通しをつけておくとチャーンを抑えることが可能になります。

レイターステージ以降

レイターステージ以降では、顧客価値の最大化のために、自社で周辺ニーズを満たすサービスの開発、他社サービスとの協業や連携機能の開発などを行っていき、複数の製品ポートフォリオで売上を作っていくステージです。このステージでは、複数の製品ポートフォリオでの価値最大化・売上最大化が求められます。

価格戦略としては、複数サービス踏まえた価格体系の見直しが必要な時期です。

追加サービスが自社サービスの売上を棄損せず、相乗効果が出る価格設定が求められます。入口となるサービスは顧客最大化する価格設定を行い、他のサービスは売上/利益最大化する価格にするなどの価格戦略が有効になります。

このように事業ステージに合わせて、価格設定を行うことで事業戦略と合目的の価格設定をおこなえます。価格決定で用いる顧客最大価格、売上/利益最大価格については、仮説から試算することもできますが、バリュープライシングで顧客調査を行い、テスト実施することでより根拠をもった意思決定が可能になります。

SaaS事業による価格の変更サイクル

価格の変更サイクルは、日頃の値引き、値上げなどの短期サイクルのものと長期サイクルの基本価格の変更に分けられます。

短期サイクルの価格変更

SaaS事業での短期サイクルの価格変更は、顧客ごとに値引きをおこなう場合やキャンペーン割引などが当たります。社内の職責ごとに値引き額の承認権限を設定するなど値引きルールを作成しておき、ルールに沿った運用を確実におこなうことが大切です。

長期サイクルの価格変更

長期サイクルの価格変更は、年間で1、2回の基本価格の見直しです。この際は、事業ステージの応じた価格戦略の選択を再度行います。事業ステージが変わらず現状価格維持が最も適している場合もありますが、SaaSの場合製品価値が時間とともに上がっていくため定期的な支払意欲調査が必要です。

顧客の支払意欲から顧客最大価格、売上/利益最大価格に変化がないかを定点観測していくことで事業環境の変化から最適な価格戦略を実施できるようになり、価格がコントロールできるものになります。

まとめ

この記事では、SaaS事業に適したSaaS価格戦略を行うための方法についてご案内しました。

まず、プライシングにおいて重要な3観点(3C)を踏まえた上で、SaaS事業に合ったバリューベースプライングを選択することが大切です。次に事業ステージに合わせた価格戦略を選択し、価格の運用ルールを定め実行していくことが推奨されます。最後に定点的に支払意欲を観測していくことで、価格改定をサイクルさせコントロールできるものにする方法についてご紹介しました。

戦略的なSaaSプライシングを実践したい方は、こちらをご一読いただくか、プライスハックまでお問い合わせください。

皆様のSaaS事業が価格によって、より加速することを願っております。価格についてのご相談はお気軽にプライシングスタジオまでよろしくお願いします。

プライシングスタジオにご相談ください
価格改善クラウド
執筆者

執筆者

高橋 嘉尋

CEO at プライシングスタジオ株式会社

プライシング専門メディア「プライスハック」を監修するなど、プライシングに関する専門知識が豊富。プライシングスタジオの全案件にて、クライアント企業の価格課題分析 及び プライシングのアドバイザリー業務を担当。コンサルティング経験としては、飲食業界のプライシングに関する長期プロジェクトに参画し、売上改善を達成。

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