ダイナミックプライシングとは?仕組み・事例をわかりやすく解説

近年注目を浴びているダイナミックプライシング(価格変動制)とはなにかについて、この記事では、定義・メリット・アルゴリズム・歴史・事例・導入方法など、様々な角度から解説します。

ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)とは、高頻度で価格を変更する仕組みです。

言葉を分解し理解すると、「ダイナミック」とは英和辞典で「動的」と訳され、何かが時間とともに変動する状態を指します。一方、「プライシング」とは、商品やサービスの値付けのことを指し、マーケティングでは、重要とされる「4P」のうちの1つの概念です。

日常生活で私たちは多くの場合、商品・サービスの価格は発売時当初から一定であるもの(一定価格制)を享受しています。一方、ダイナミックプライシングでは、ITやAIなどのツールを用い、高頻度での価格変更を実現させています。

ダイナミックプライシングの概念的理解

ダイナミックプライシングの概念を理解するには、そもそものプライシングの基本を知る必要があります。

商品・サービスの売上は、「価格」と「販売量」の2つが組み合わさり、決定される(売上曲線)のに対し、販売量は価格に応じて、反比例“的”に決まります(価格曲線)


この、価格曲線に価格を掛け合わせた「売上曲線」の最大化の実現がプライシングの基本です。

ダイナミックプライシングは、このプライシングの基本に需要と供給を組み合わせて、機会損失の最小化を実現を目的としています。

数量と価格による需要曲線を仮定したとき、一定価格での販売では機会損失(上図水色部分)が多く生まれます。

一方、ダイナミックプライシングの実現は、需要により価格を変動できるため、機会損失を減らせます。

ダイナミックプライシングでは、需要が多く、供給が間に合わない場合は、価格を高くし、それでも購入する顧客を絞りつつ、収益を最大化する。一方、供給が多く、在庫処分または機会損失が発生する場合は、価格を低くし、購入者数を増加し、売上向上を図る。といった戦略が可能です。

ダイナミックプライシングのメリット

ダイナミックプライシングの最大のメリットは、「収益最大化」です。

先ほど紹介した図は、価格とその価格で販売できる数量を示した図です。この図を用い、改めて収益最大化のポイントを解説します。

左図が通常の価格設定、つまり一定価格での販売です。価格はA円に固定され、この価格での販売数の最大はaになります。そのため、最大売上はA円×a個で、売上は紺色の部分が該当します。

全ての状態において、予測する最大の販売数aが販売できるのであれば、問題はありません。しかし、実際に商品・サービスの需要は一定ではなく、変動するものです。

需要が大きいとき
→実際に得られたはずの収益を逃す。在庫不足が発生する。
需要が小さいとき
→販売数が減少する。在庫が余る。

つまり、通常の一定価格では、需要が大きい時には収益を、需要が小さい時には価格を下げれば獲得できたであろう顧客を逃してしまいます。

一方、ダイナミックプライシングによる価格設定(右図)では、価格をA円だけでなく、B・C点のような値上げ、D・E点のような値下げを実施できるため、需要の変動や供給の状況に応じた収益最大化が可能になります。

需要が大きい、または供給不足と判断されるとき
→価格を上げ、その値段でも購入する層からより多くの利益を得られます。また、飛行機など供給が限られる場合は、需要の集中を抑え、需要が小さい時に購入するようにうながすことになり、全体の収益を最大化します。需要が小さい、または供給過多と判断されるとき
→値下げをおこない、新規顧客・見込み顧客を流入させ、販売数を増やせます。これには収益が増える、在庫処理をスピーディーにできるというメリットだけではなく、一定価格制では価格が高いゆえに商品に見向きもしなかった顧客に、自社製品を知ってもらえるというマーケティング的価値もあります。

ダイナミックプライシングでは、一定価格制のもとでは失っていた、本来需要変動により生まれる
「定価より高価での販売機会」
「販売する価格を下げれば獲得できたであろう販売機会」
を逃さず掴み、収益を最大化を実現しています。

他にもメリットとして、より深い顧客の理解・工数削減・安全な価格管理などがあります。

ダイナミックプライシングのデメリット

ダイナミックプライシングは、収益の最大化につながる一方、導入による顧客離れの危険性があります。ダイナミックプライシング導入への不信や高騰した価格による顧客離れが起こりえます。

ダイナミックプライシング導入への不信による顧客離れ

ダイナミックプライシングの導入は消費者からの不信を買うリスクがあります。

顧客は値上げに対して敏感であり、ダイナミックプライシングによる大幅な値上げは「この企業は、自社の儲けだけを追求している」と感じさせてしまいます。

また、値下げをする前に高値で購入した顧客は、損をした気分になり不満を抱いてしまうかもしれません。例えば、飛行機のチケットを7,000円で購入した顧客が、翌日に6,000円に値下げされたチケットを見た場合、1,000円分の損をした感覚になるとっいった感じです。

ダイナミックプライシングによる価格変動は、顧客の不信感を募らせ、それを理由に商品・サービスを購入しなくなるという、長期的な利益を失うというリスクがあります。

そのため、ダイナミックプライシングを導入するときは、顧客に適切な導入理由や価格変動の要因を納得感のあるかたちで顧客に伝えなければいけません。

高騰した価格による顧客離れ

ダイナミックプライシングによる値上げは、商品・サービスに対して価格が見合っているかに対して、顧客が不信感を抱く危険性もあります。

例えば、繁盛期のホテルでは、宿泊料が通常価格の何倍にもなることはよくありますが、提供されるサービスの質は変わらないので、消費者からすれば、値段に対してサービスの質が低いと判断されかねません。

ダイナミックプライシングを導入した事実を顧客が知らないとしても、値上げされた価格に対してサービスが見合っていないと判断し、顧客がサービスから離れてしまうリスクも持ちます。

顧客離反を生まないためにも、ダイナミックプライシングを導入する際には、導入理由や仕組みについて、顧客に詳しく説明することが重要です。

ダイナミックプライシングのアルゴリズム

ダイナミックプライシングの「需給に合わせた最適な価格決定」のアルゴリズムは、利用する技術ベースで次の3つに大別できます。

1.自動化
2.機械学習による予測
3.強化学習

1.自動化

自動化によるダイナミックプライシングは、既存の値付けルールをシステムで実現させたもので、一般的にルールベースと呼ばれます。

完全手動で作成したルール・機械学習を活用して作成したルールをシステムに置き換え、実装するというダイナミックプライシングです。

この仕組みはの利点は、実装に必要な技術の難易度がそこまで高くなく、実装が容易なことです。

通例業界としては、従来からの変動価格を利用していた航空・ホテル業界や競合価格のみを参照した価格変更をおこなうEC小売業界があります。

2.機械学習による予測

機械学習によるダイナミックプライシングは、需要を仮定し、需要予測から最適な値付けをおこなうものです。需要予測には、頻度論的回帰モデルやベイズ回帰モデルといった手法が使われます。

日付や曜日、天候や近隣イベントの有無など様々な変数をもとに、時々の需要予測を実施したプライシングが行われ、現在のダイナミックプライシングの主流と呼べるものです。

需要変動に売上が大きく影響を受けるテーマパーク業界やスポーツ観戦・コンサート・ライブなどといったエンタメ業界など、需要予測が必要な業界で多く採用されています。

3.強化学習

強化学習によるダイナミックプライシングは、特定の状態(天気など、需要と価格に関わる変数の特定の値)で、最も収益最大化につながる選択肢を、AIの経験から導き出す仕組みです。

強化学習によるダイナミックプライシングは、需要を仮定しないため、より収益最大化につながる可能性があるとされていますが、実装事例は、特に国内ではほとんど見受けられません。

原因としては、次のものが考えられます。

1.データ不足
2.精度に欠けている
3.AIの判断がブラックボックス化される恐れがある

現在、機械学習によるダイナミックプライシングは、論文レベルでは進行中であるが、プライシング領域での実用例はほぼなく、実用化は先の話になるでしょう。

ダイナミックプライシングの歴史

原始的なプライシング

歴史的に見ると、価格が一定だった期間は、値札が開発された1870年代からで、むしろ価格は変動的な方が主流だったと言っても過言ではありません。

値札が使われる以前は、消費者と店主の価格交渉で決定されることが当たり前でした。

19世紀後半(1870年代〜)

19世紀からの企業の大規模化の中で、この作業コストを軽減するために、値札を使い、一定価格で商品を販売するようになりました。

この後に続く大量生産の時代では一定価格制が一層社会に浸透していき、20世紀以降にに登場するサービス業などの新しい業態でも、一定価格でサービスを販売することが当然のようになりました。

20世紀後半(1980年代〜)

1980年代を皮切りに現代版ダイナミックプライシングがアメリカの航空産業で始まりました。

アメリカの航空会社は数百万ドルを投資して、季節などの座席需要に影響を与える要素にもとづいて価格を自動調整するコンピュータープログラムを開発したそうです。これが情報技術を使った初めてのダイナミックプライシングだと言われています。

その後、航空業界に続く形で、ホテルやクルーズなど、その他の旅行業界のプレイヤーもダイナミックプライシングを導入していきました。

2000年代〜

EC小売市場では同じ商品が乱立した結果、消費者にとって”価格”が主要な商品の選択要因となり、価格調整を自動化するソリューションとして、小売企業にもダイナミックプライシングツールが普及しました。

現在

現在では、商品・サービスごとの需要の変動や供給量の変化を予測できるEC小売向けSaaSや、需要変動が予測しにくいスポーツ業界での開発企業が登場しています。

この背景にはAIの発達があります。AIを用いることで、自社のデータだけではなく、大量のビッグデータを収集し、分析し、これまでには扱えなかった複雑な条件を需要予測に加味できるようになりました。

需要予測の可能性が広がり、多くの業界でダイナミックプライシングを活用できるようになった今、わたしたちの暮らしに影響を与えています。

ダイナミックプライシングが導入されている業界

ダイナミックプライシングは近年多くの業界に導入されています。AI、ビッグデータ、電子棚札といったテクノロジーの発展と共に活用できる業界は広がりました。その例をいくつか紹介していきます。

遊園地

「東京ディズニーランド・ディズニーシー」や「ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)」などを代表する遊園地で、入場チケットのダイナミックプライシングが導入されています。

入場チケットのダイナミックプライシングの導入は、時期による入園者数の変化などに対応するため、混雑緩和などを狙いとした導入と公表されています。

USJでは2019年1月より、ディズニーでは2021年3月より、土日・祝日・長期休暇期間・ゴールデンウイークなど、混雑時にチケット価格が基本料金より値上げされるダイナミックプライシングがおこなわれています。

参照
日経新聞「USJ、入場券に変動価格制 大手テーマパークで初」
東京ディズニーランド®/東京ディズニーシー® チケットの変動価格制導入について

駐車場


駐車場は、現在日本でも、海外でもダイナミックプライシングの導入が進んでいる領域です。需要予測をもとに、駐車場の値段を最適価格に変更します。

国内の駐車場予約サービスakippaでは、ダイナミックプライシングが適用されています。駐車場の近くでのイベントの有無や普段の利用状況から需要を予測し、それに応じた値段に価格を設定しているようです。

EC業界

消費者が特定の商品を購入する際、同じものを複数のサイトで販売しているEC業界では、商品そのものの価値より、販売価格が重視されます。

そのため、競合の価格や変動する需要に応じて価格を変動させることで収益を最大化できます。

オフライン小売業界

ここ数年でオフライン小売でも導入が拡大しております。電子棚札の利用拡大により、日本国内でも大手家電量販店のノジマやビックカメラがダイナミックプライシングでの値付けを始めました。

また、コンビニエンスストアのローソンでも、商品の賞味期限を基準に価格を変動させるダイナミックプライシングの導入実験が行われています。

もともとオフライン小売業界は、Amazonなどオンライン小売店やオフライン小売店同士の激しい競争環境のため、価格変更を頻繁に行う必要がありました。しかし、値札の張り替えを手動でおこなうのは、扱う商品点数が多い大手小売店において、非常にコストがかかるものでした。

電子棚札の登場は、ダイナミックプライシングの導入を拡大させ、以前より高頻度の価格変更をスピーディーかつローコストにできるのを実現させました。

スポーツ業界

スポーツのチケットの需要は、試合ごとに大きく異なり、その需要はあらかじめ予測できるものではなく、試合状況や、天候などの環境要因に左右されます。

スポーツ業界でのダイナミックプライシングは、時間と共に変化する需要をAIを用いた機械学習で予測し、さらにスタジアムの残り席数という供給(在庫)状態も加味して、価格決定をしています。

ホテル業界

ホテルでは古くから使われてきた「レベニューマネジメント」という手法があり、予約状況をもとにした価格変更を手動で実施していました。

現在では、ダイナミックプライシングを自動化しおこなうことで、効率よく収益最大化を図っています。

飲食業界

コロナ禍における「3密」を回避するために、飲食店でダイナミックプライシングを導入されたのが、ネット上で話題となっていました。

コロナ禍でのダイナミックプライシング

コロナ禍の状況によりダイナミックプライシング導入が促進されています。
今回紹介した業界以外にも、電車・高速道路・旅行産業でもダイナミックプライシングが進んでいます。

ダイナミックプライシングの導入方法

ダイナミックプライシングの導入方法としては、自社開発・ツール利用・受託開発があげられます。
3つのパターンを検討する際に役に立つ、フローチャートを作成しました。

導入を検討されている企業様は、詳しくはこちらの記事を参考にしてください。

ダイナミックプライシングに関するツール販売業者・受託開発業者を比較検討を考えている企業様は、こちらの記事を参考にしてください。

まとめ

高頻度で価格を変動させる仕組みであるダイナミックプライシングは、需給に応じた価格に商品価格を変更し続けることによって、導入企業の収益最大化に貢献します。

しかし、導入には顧客離れにつながるリスクもあるため、導入を顧客に納得いただけるように、「導入理由」及び「価格変動要因」をしっかりと顧客に伝えることが重要です。

そして、このようなダイナミックプライシングは、技術の進歩とともに、様々な仕組みでの収益の最大化を目指せるようになり、様々な業界に適用されるようになりました。

この記事ではダイナミックプライシングについて、定義・メリット・デメリット・仕組み・導入事例など様々な観点から解説しました。この記事を通じてダイナミックプライシングとは何かを理解できたのならば幸いです。

プライスハックとは

プライスハックとは、「プライシングで事業成長を加速させる」をミッションとして掲げるプライシングスタジオ株式会社が運営する、プライシングメディアです。

価格を1%あげたことで、「12.8%」営業利益が改善されると言われているほど、企業・事業の成長にとってプライシングは重要なものになってきます。

しかし、実際にいくらで売ればいいのか、値上げしたら離反顧客が出てしまうのではないかという懸念から、自社での価格決定・価格変更を実施するのが難しいのが現状です。

私たちは、プライシングのプロフェッショナル集団として、企業のプライシングに関する課題を全力で解決したいと思っております。

プライシングスタジオにご相談ください
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執筆者

執筆者

高橋 嘉尋

CEO at プライシングスタジオ株式会社

プライシング専門メディア「プライスハック」を監修するなど、プライシングに関する専門知識が豊富。プライシングスタジオの全案件にて、クライアント企業の価格課題分析 及び プライシングのアドバイザリー業務を担当。コンサルティング経験としては、飲食業界のプライシングに関する長期プロジェクトに参画し、売上改善を達成。

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