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2020.07.17(更新日:2023.07.13)

EC小売業界で注目されるダイナミックプライシングの事例をわかりやすく解説

EC小売業界で注目されるダイナミックプライシングの事例をわかりやすく解説
EC小売業界で注目されるダイナミックプライシングの事例をわかりやすく解説
その他・価格業界情報
#ダイナミックプライシング
#価格事例

EC小売業界はダイナミックプライシングが長い間導入されてきて、実際に多くの成功事例が見られている業界です。この記事ではそんなEC小売業会のダイナミックプライシングの活用状況や機能、事例について解説します。

こちらの、ダイナミックプライシングについて網羅的に解説している記事もご覧ください。


ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシングとは、「高頻度で商品価格を変更させる仕組み」です。主に需給の変動に合わせて価格変更を行う形で活用されており、企業の利益最大化や混雑緩和など、多くの価値を発揮しています。

例えば、祝日のホテルや帰省ラッシュ時の航空券の様に、人々の需要が高まった商品や、供給が足りていない商品に対しては、価格を上げて利益を最大化します。また、これが混雑緩和に生かされることもあります。

逆に、人々の需要が小さくなった商品や、供給過多な商品に対しては、価格を下げることで、販売数を増やします
これがダイナミックプライシングの基本です。

それに加え、競合の価格を監視し、それを元に自社の価格を動かすアプローチや、売れる最大の値段に設定し続けながら商品を売り切るアプローチなど、業界によって多彩な手法が採られます。

EC小売におけるダイナミックプライシングの活用状況

EC小売 ダイナミックプライシング

ダイナミックプライシングが有力な領域の一つが、EC市場です。

消費者が特定の商品を購入する際の店舗選びは、その商品の販売価格が主要な基準となります。競合価格より安いことを売りにしている小売店はよく見かけられるかと思います。ビジネス構造上、価格が非常に重要な要素である小売業は、競合の価格や変動する需要に応じて価格を変動させることと非常に相性が良いのです。しかし、大量の商品を扱う小売店でそれを行うには、大量のデータと、データを元に正確な価格設定が行えるアルゴリズムが必要でした。これら可能になり、実用化されるようになったのが、海外では2000年代になってからした。

ダイナミックプライシングを導入している代表的なEC小売企業としては、10分ごとに商品の価格が変更されるAmazonと、オンラインストアで月に約50000回価格を変えるWalmartが挙げられます。Amazonがオフライン小売店との競争に勝利し現在の立ち位置を確保できた理由として、オフライン小売店よりも安い価格で商品を販売できたことが挙げられますが、この背景にはダイナミックプライシングによるスピーディーな価格変更があります。そしてオフライン小売で有名なWalmartは、オンラインストアで、もともとのEDLP(Every Day Low Price)戦略からダイナミックプライシングでの販売に移行し、現在はオンライン小売でも世界2位となりました。

EC小売においてダイナミックプライシングが非常に重要なシステムとなっていることが、これらの事例から見て取れます。そして現在はEC小売向けに多くのSaaS(Software as a Service)が世に出され、海外では個人店から大企業まで、大小問わずEC小売企業はダイナミックプライシングを導入するようになりました。一方日本国内では、まだ数は少ないのが現状ですが、小売向けのツールは少しずつ出てきています。

EC小売向けダイナミックプライシング 機能紹介

EC小売業界は、ダイナミックプライシングが導入される業界の中でもとても多くのSaaSが存在しています。ツールごとに固有の機能もあれば、サービス間で共通している機能も存在しています。今回は、ツールに広く搭載されている機能を4つ紹介します。

価格の自動変更

小売業者が扱う商品の数は、他の業種と比較すると、非常に多いです。数千から数万に及ぶ商品の価格を変動させることは容易ではありません。

オフライン小売店の中でも、最安値を売り文句にしている会社の場合、頻繁に商品価格を変更する必要があります。そしてそれは従業員が手で値札を入れ替える作業となり、勤務時間を圧迫するほどの作業です。

EC小売の場合、価格変更をオンラインで行なうことができるため、実際に店舗の値札を変えなければならないオフライン小売と比べて簡単ではありますが、ダイナミックプライシングツールを導入していない場合は、人間の手でPCを操作し、価格設定を変更する必要があり、これも大きな作業になります。またEC小売店は、Amazonマーケットプレイス、楽天市場、Shopifyなど多数のプラットフォームで販売を行っている場合があります。その場合、全てのプラットフォームで同様の価格変更を行なう手間は計り知れません。

そこで、自動価格変更機能を持つダイナミックプライシングツールを使用すれば、高速かつ簡単にに大量の商品の価格を変更できるようになります。ツールによっては、提案される価格にワンタップや自動で価格を変更することができ、大幅なコストカットにつながります。

もちろん、ダイナミックプライシングを導入せずとも、小売業者がよく売れる商品にフォーカスして値付けを行なうことで、あまりコストをかけずに価格変更をするケースはありますが、ニッチであるがゆえにあまり売れない多くの商品(ロングテール)の値付けは放置されます。しかし、ダイナミックプライシングツールの導入で、ロングテールまで適切な価格設定ができるようになれば、大きな収益向上が期待できます。

また、自動で価格が変わるために、社会情勢の変化などにより、需給のバランスが唐突に崩れた際に、速いスピードでそれに対応できるという利点もあります。

需給に応じたプライシング

ECの大量の商品の中で、全く売れない商品と、すぐ品切れになってしまう人気の高い商品は少なからず存在します。売れない商品は在庫処理のために値下げして販売量を増やし、人気商品は値上げして利益率を高めます。これは、変動する需給に応じて、売れる商品は高く、売れない商品は安く販売するという、ダイナミックプライシングの基本的な考え方です。

EC小売は、品数が膨大なうえに、価格変更タイミングが多いという特性上、天気などの複数の変数をもとに需要を予測することが困難です。そのため、EC小売向けダイナミックプライシングツールでは、商品の価格変更履歴と販売実績データを収集し、データに基づいて最適な価格を提示する機能が搭載されている場合が多いです。

競合他社のデータを元にしたプライシング

EC小売ならではの特徴として、価格設定時に競合他社の価格を参照することが多い点が挙げられます。競合他社の価格を自動で確認し、それを元にした価格変更を行う機能は、EC小売のSaaSによく見られます。また、その発展形として競合他社の供給量、在庫量を元にして、自社の価格を変更するプライシングモデルも存在します。

競合他社のデータを参考にしたダイナミックプライシングがEC小売業界で盛んな理由として、「消費者がEC店舗間で容易に価格を比較できる」というEC小売の特徴が考えられます。同じ商品や似た商品を取り扱うことが多い小売業において、「他社の価格よりも少し安くする」という他社価格を参考にしたプライシングが重要になるのです。また、前日の売り上げや当日の天気など複数の要素から値決めをするアルゴリズムは、ECの品数の多さを考えると導入が難しく、競合価格という単一の要素から値決めするシンプルなアルゴリズムを利用しているとも考えられます。

人間の手で価格を調整する余地がある(ルールベース)

小売向けダイナミックプライシングツールでは、AIにプライシングを任せきるのではなく、利用する小売業者が価格設定のルールや前提条件を定めることができます。
その例としては、

  • ・目標販売数
  • ・価格を変化させる商品の条件
  • ・価格変動の上げ幅、下げ幅
  • ・最高価格と最低価格

などが挙げられます。

こうしたルール/条件の設定のメリットとして、最低価格の設定による価格崩壊防止が考えられます。EC小売のダイナミックプライシングの黎明期、「設定した競合他社の価格より常に100円安い価格にする」などの競合他社の価格ベースに値段を設定するだけのオートプライシングという手法が存在しました。しかし、オートプライシングだけだと、価格競争どころかアルゴリズムによって商品の価格が崩壊してしまうケースがあります。例えば、二つの競合している企業が互いに、他社よりも100円安く価格設定を行う、というアルゴリズムでプライシングを行った場合、自動で値段が互いに下がっていき、値段は0円になってしまいます。このようなケースを防ぐためにも、最低価格や最高価格を定義できる「人間による調整余地」は重要となるのです。

 

これら4つの機能が搭載されているダイナミックプライシングをEC小売業者が導入するメリットとして、

  • ・需給のバランスが崩れた時に迅速な対応ができるようになること
  • ・価格設定にかかっていた時間を他の部分に当てられるようになること
  • ・利益率と売り上げの増加
  • ・在庫処理が簡単になること
  • ・競合他社の価格を確認する手間を省けること
  • ・顧客の価格の捉え方についての情報が集められること
  • ・競合他社に対する競争力を得られること
  • ・人間がプライシングに介在する余地もあるため、納得感のある値付けができる。

が挙げられます。

EC小売店のダイナミックプライシング導入事例

北アイルランドの大手独立系電気小売業者の「Donaghy Brothers」という企業が、イギリスのダイナミックプライシングSaaS企業「Black Curve」のサービスを導入したケースを見てみましょう。

Donaghy Brothersは、約6,000の製品の在庫を管理し、オンラインと実店舗の両方で販売していたのですが

  • ・少数の人気商品以外の売り上げが小さい
  • ・競合の迅速な価格変更に対応できない
  • ・競合の価格をどの程度参考にすれば良いのかわからない
  • ・値段を引き上げたいが顧客の反応が怖い

という課題を抱えていました。同社はBlack Curveのサービスを3ヶ月間、一部の商品に試験導入し、これらの課題の解決が見込めるかテストしました。

Black Curveのサービスは、これまで売れていなかった商品の在庫販売を目的として、競合他社の価格と自社の販売履歴データを活用し、人力で価格変更条件を設定したプライシングを行いました。

その結果、試用期間の3ヶ月で、これまで売れていなかった93点の商品の在庫を販売することができ、90000ポンドの収益増加を果たしたそうです。

参考 「Black curve

小売業界のダイナミックプライシングの展望

EC小売の黎明期には、単純に競合価格を参照にしたダイナミックプライシングがほとんどでしたが、現在は需給に応じたダイナミックプライシングをするツールなど、機能が多様化してきています。現在EC小売向けツールでは競合価格だけを参照して値付けするものよりも、競合価格と共に需給など複数の変数を参考にするツールの方が正確とされています。今後は後者のようなサービスを中心に、日本でもオンライン小売のダイナミックプライシングは広がっていくと思われます。

また、EC小売だけではなく、オフラインでの小売も、ビックカメラなどの家電量販店を中心に広がりつつあります。

オフライン小売のダイナミックプライシングについては、こちらの事例解説記事の一部で紹介しています!

EC小売業界は、ダイナミックプライシングが早くから導入された業界です。現在は様々なツールが存在しており、個人業者でも様々なメリットを享受することができます。高い投資利益率が見込める業界でもあるため、ECで小売を行っている方は導入を検討してみてはいかがでしょうか?

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Yoshihiro Takahashi

高橋 嘉尋

プライシングスタジオ株式会社

代表取締役CEO

プライシングスタジオ株式会社代表取締役 CEO。2019年、慶應義塾大学総合政策学部在学中に価格1%が企業の営業利益を約20%の改善につながるということを知り、その影響力に魅力を感じ、当社を設立。プライシングスタジオは設立以来、30以上の業界、100以上のサービスの値付けを支援している。著書に「値決めの教科書 勘と経験に頼らないプライシングの新常識」(日経BP)。「日経トップリーダー・ビジネス」にて「値決めの科学」、「ダイヤモンドオンライン」にて「価格戦略のプロが見た「あの値付け」」を連載中。「日経COMEMO」キーオピニオンリーダー。そのほか、テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、ABEMA「ABEMA Prime」、NewsPicks「メイクマネー」など多数メディアに出演。2023年Forbesによる「アジアを代表する30才未満の30人」に部門で選出される。

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こちらの、ダイナミックプライシングについて網羅的に解説している記事もご覧ください。


ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシングとは、「高頻度で商品価格を変更させる仕組み」です。主に需給の変動に合わせて価格変更を行う形で活用されており、企業の利益最大化や混雑緩和など、多くの価値を発揮しています。

例えば、祝日のホテルや帰省ラッシュ時の航空券の様に、人々の需要が高まった商品や、供給が足りていない商品に対しては、価格を上げて利益を最大化します。また、これが混雑緩和に生かされることもあります。

逆に、人々の需要が小さくなった商品や、供給過多な商品に対しては、価格を下げることで、販売数を増やします
これがダイナミックプライシングの基本です。

それに加え、競合の価格を監視し、それを元に自社の価格を動かすアプローチや、売れる最大の値段に設定し続けながら商品を売り切るアプローチなど、業界によって多彩な手法が採られます。

EC小売におけるダイナミックプライシングの活用状況

EC小売 ダイナミックプライシング

ダイナミックプライシングが有力な領域の一つが、EC市場です。

消費者が特定の商品を購入する際の店舗選びは、その商品の販売価格が主要な基準となります。競合価格より安いことを売りにしている小売店はよく見かけられるかと思います。ビジネス構造上、価格が非常に重要な要素である小売業は、競合の価格や変動する需要に応じて価格を変動させることと非常に相性が良いのです。しかし、大量の商品を扱う小売店でそれを行うには、大量のデータと、データを元に正確な価格設定が行えるアルゴリズムが必要でした。これら可能になり、実用化されるようになったのが、海外では2000年代になってからした。

ダイナミックプライシングを導入している代表的なEC小売企業としては、10分ごとに商品の価格が変更されるAmazonと、オンラインストアで月に約50000回価格を変えるWalmartが挙げられます。Amazonがオフライン小売店との競争に勝利し現在の立ち位置を確保できた理由として、オフライン小売店よりも安い価格で商品を販売できたことが挙げられますが、この背景にはダイナミックプライシングによるスピーディーな価格変更があります。そしてオフライン小売で有名なWalmartは、オンラインストアで、もともとのEDLP(Every Day Low Price)戦略からダイナミックプライシングでの販売に移行し、現在はオンライン小売でも世界2位となりました。

EC小売においてダイナミックプライシングが非常に重要なシステムとなっていることが、これらの事例から見て取れます。そして現在はEC小売向けに多くのSaaS(Software as a Service)が世に出され、海外では個人店から大企業まで、大小問わずEC小売企業はダイナミックプライシングを導入するようになりました。一方日本国内では、まだ数は少ないのが現状ですが、小売向けのツールは少しずつ出てきています。

EC小売向けダイナミックプライシング 機能紹介

EC小売業界は、ダイナミックプライシングが導入される業界の中でもとても多くのSaaSが存在しています。ツールごとに固有の機能もあれば、サービス間で共通している機能も存在しています。今回は、ツールに広く搭載されている機能を4つ紹介します。

価格の自動変更

小売業者が扱う商品の数は、他の業種と比較すると、非常に多いです。数千から数万に及ぶ商品の価格を変動させることは容易ではありません。

オフライン小売店の中でも、最安値を売り文句にしている会社の場合、頻繁に商品価格を変更する必要があります。そしてそれは従業員が手で値札を入れ替える作業となり、勤務時間を圧迫するほどの作業です。

EC小売の場合、価格変更をオンラインで行なうことができるため、実際に店舗の値札を変えなければならないオフライン小売と比べて簡単ではありますが、ダイナミックプライシングツールを導入していない場合は、人間の手でPCを操作し、価格設定を変更する必要があり、これも大きな作業になります。またEC小売店は、Amazonマーケットプレイス、楽天市場、Shopifyなど多数のプラットフォームで販売を行っている場合があります。その場合、全てのプラットフォームで同様の価格変更を行なう手間は計り知れません。

そこで、自動価格変更機能を持つダイナミックプライシングツールを使用すれば、高速かつ簡単にに大量の商品の価格を変更できるようになります。ツールによっては、提案される価格にワンタップや自動で価格を変更することができ、大幅なコストカットにつながります。

もちろん、ダイナミックプライシングを導入せずとも、小売業者がよく売れる商品にフォーカスして値付けを行なうことで、あまりコストをかけずに価格変更をするケースはありますが、ニッチであるがゆえにあまり売れない多くの商品(ロングテール)の値付けは放置されます。しかし、ダイナミックプライシングツールの導入で、ロングテールまで適切な価格設定ができるようになれば、大きな収益向上が期待できます。

また、自動で価格が変わるために、社会情勢の変化などにより、需給のバランスが唐突に崩れた際に、速いスピードでそれに対応できるという利点もあります。

需給に応じたプライシング

ECの大量の商品の中で、全く売れない商品と、すぐ品切れになってしまう人気の高い商品は少なからず存在します。売れない商品は在庫処理のために値下げして販売量を増やし、人気商品は値上げして利益率を高めます。これは、変動する需給に応じて、売れる商品は高く、売れない商品は安く販売するという、ダイナミックプライシングの基本的な考え方です。

EC小売は、品数が膨大なうえに、価格変更タイミングが多いという特性上、天気などの複数の変数をもとに需要を予測することが困難です。そのため、EC小売向けダイナミックプライシングツールでは、商品の価格変更履歴と販売実績データを収集し、データに基づいて最適な価格を提示する機能が搭載されている場合が多いです。

競合他社のデータを元にしたプライシング

EC小売ならではの特徴として、価格設定時に競合他社の価格を参照することが多い点が挙げられます。競合他社の価格を自動で確認し、それを元にした価格変更を行う機能は、EC小売のSaaSによく見られます。また、その発展形として競合他社の供給量、在庫量を元にして、自社の価格を変更するプライシングモデルも存在します。

競合他社のデータを参考にしたダイナミックプライシングがEC小売業界で盛んな理由として、「消費者がEC店舗間で容易に価格を比較できる」というEC小売の特徴が考えられます。同じ商品や似た商品を取り扱うことが多い小売業において、「他社の価格よりも少し安くする」という他社価格を参考にしたプライシングが重要になるのです。また、前日の売り上げや当日の天気など複数の要素から値決めをするアルゴリズムは、ECの品数の多さを考えると導入が難しく、競合価格という単一の要素から値決めするシンプルなアルゴリズムを利用しているとも考えられます。

人間の手で価格を調整する余地がある(ルールベース)

小売向けダイナミックプライシングツールでは、AIにプライシングを任せきるのではなく、利用する小売業者が価格設定のルールや前提条件を定めることができます。
その例としては、

  • ・目標販売数
  • ・価格を変化させる商品の条件
  • ・価格変動の上げ幅、下げ幅
  • ・最高価格と最低価格

などが挙げられます。

こうしたルール/条件の設定のメリットとして、最低価格の設定による価格崩壊防止が考えられます。EC小売のダイナミックプライシングの黎明期、「設定した競合他社の価格より常に100円安い価格にする」などの競合他社の価格ベースに値段を設定するだけのオートプライシングという手法が存在しました。しかし、オートプライシングだけだと、価格競争どころかアルゴリズムによって商品の価格が崩壊してしまうケースがあります。例えば、二つの競合している企業が互いに、他社よりも100円安く価格設定を行う、というアルゴリズムでプライシングを行った場合、自動で値段が互いに下がっていき、値段は0円になってしまいます。このようなケースを防ぐためにも、最低価格や最高価格を定義できる「人間による調整余地」は重要となるのです。

 

これら4つの機能が搭載されているダイナミックプライシングをEC小売業者が導入するメリットとして、

  • ・需給のバランスが崩れた時に迅速な対応ができるようになること
  • ・価格設定にかかっていた時間を他の部分に当てられるようになること
  • ・利益率と売り上げの増加
  • ・在庫処理が簡単になること
  • ・競合他社の価格を確認する手間を省けること
  • ・顧客の価格の捉え方についての情報が集められること
  • ・競合他社に対する競争力を得られること
  • ・人間がプライシングに介在する余地もあるため、納得感のある値付けができる。

が挙げられます。

EC小売店のダイナミックプライシング導入事例

北アイルランドの大手独立系電気小売業者の「Donaghy Brothers」という企業が、イギリスのダイナミックプライシングSaaS企業「Black Curve」のサービスを導入したケースを見てみましょう。

Donaghy Brothersは、約6,000の製品の在庫を管理し、オンラインと実店舗の両方で販売していたのですが

  • ・少数の人気商品以外の売り上げが小さい
  • ・競合の迅速な価格変更に対応できない
  • ・競合の価格をどの程度参考にすれば良いのかわからない
  • ・値段を引き上げたいが顧客の反応が怖い

という課題を抱えていました。同社はBlack Curveのサービスを3ヶ月間、一部の商品に試験導入し、これらの課題の解決が見込めるかテストしました。

Black Curveのサービスは、これまで売れていなかった商品の在庫販売を目的として、競合他社の価格と自社の販売履歴データを活用し、人力で価格変更条件を設定したプライシングを行いました。

その結果、試用期間の3ヶ月で、これまで売れていなかった93点の商品の在庫を販売することができ、90000ポンドの収益増加を果たしたそうです。

参考 「Black curve

小売業界のダイナミックプライシングの展望

EC小売の黎明期には、単純に競合価格を参照にしたダイナミックプライシングがほとんどでしたが、現在は需給に応じたダイナミックプライシングをするツールなど、機能が多様化してきています。現在EC小売向けツールでは競合価格だけを参照して値付けするものよりも、競合価格と共に需給など複数の変数を参考にするツールの方が正確とされています。今後は後者のようなサービスを中心に、日本でもオンライン小売のダイナミックプライシングは広がっていくと思われます。

また、EC小売だけではなく、オフラインでの小売も、ビックカメラなどの家電量販店を中心に広がりつつあります。

オフライン小売のダイナミックプライシングについては、こちらの事例解説記事の一部で紹介しています!

EC小売業界は、ダイナミックプライシングが早くから導入された業界です。現在は様々なツールが存在しており、個人業者でも様々なメリットを享受することができます。高い投資利益率が見込める業界でもあるため、ECで小売を行っている方は導入を検討してみてはいかがでしょうか?

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Yoshihiro Takahashi

高橋 嘉尋

プライシングスタジオ株式会社

代表取締役CEO

プライシングスタジオ株式会社代表取締役 CEO。2019年、慶應義塾大学総合政策学部在学中に価格1%が企業の営業利益を約20%の改善につながるということを知り、その影響力に魅力を感じ、当社を設立。プライシングスタジオは設立以来、30以上の業界、100以上のサービスの値付けを支援している。著書に「値決めの教科書 勘と経験に頼らないプライシングの新常識」(日経BP)。「日経トップリーダー・ビジネス」にて「値決めの科学」、「ダイヤモンドオンライン」にて「価格戦略のプロが見た「あの値付け」」を連載中。「日経COMEMO」キーオピニオンリーダー。そのほか、テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、ABEMA「ABEMA Prime」、NewsPicks「メイクマネー」など多数メディアに出演。2023年Forbesによる「アジアを代表する30才未満の30人」に部門で選出される。

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